11. 復讐決行 1
朝の移動中、僕とマルコは作戦会議をしていた。
できることならマルコにもサポートをしてもらって、確実に勝ちに行きたいんだ。
え?
2対1は卑怯だって?
うるさいなぁ。
「マルコって何属性なの?」
「俺は土と木だぜ」
「なるほどなるほど…それじゃあ…」
「期待してるとこ悪いけど、俺ほとんど戦えないぜ?」
「だよね…。 でもちょっとくらいはさ、何か…」
「無理なもんは無理なんだって。 俺の家系は代々魔法がヘタクソすぎてよ、
みんな魔法がいらない商売で生計立ててんだよ」
「そこまでかぁ…。 まぁ、なんとなく想像付いてたけども」
「言っておくけどな、普通の人はそもそも戦いなんてしないからな?」
「そうなの?」
「マリン、お前どんな教育されたんだ!?」
「ごくごく普通の…」
「普通の人間はそんな交戦的じゃねぇよ…」
マルコは苦笑いを浮かべた。
さて、結局は僕だけで戦う事になってしまったけど、昨晩に対策は練ってある。
以前フワリから教わった、速いけど低威力の魔法を中心に使っていこうと思うんだ。
これならわざわざ、手加減をしなくても大丈夫だからね。
なにより速度が上げるおまけ付き。
これなら絶対勝てちゃう!
あとはその場のノリと勢いでなんとかする!
よし、完璧な作戦!
そして僕らは、堂々とした風格で学び舎へと向かった。
まるで勇者のような顔持ち。
なんて言ったって、相手は魔王だからね?
嘘は付いてない。
…その前に、復讐は今日のお昼なわけで。
午前中は昨日とおなじように、憂鬱な授業を受けていた。
「はい、今日は魔王についての授業をします」
今日は魔王の授業らしい。
なんてタイムリーなんだろうね。
「学び舎にも魔王は居ますが、あちらではなくおとぎ話の魔王です」
そういうと先生は、今の笑う所ですよ…っと言いたげな顔をした。
でも、誰もくすりともしない。
そもそも新入生のみんなは、学び舎の魔王の存在すら知らないと思うけど…。
「ごほんっ…。 では続けます。 魔王というのは実は、実在していたと言われています」
「ええ!?」
僕は思わず驚いてしまって、声を出してしまった。
すると先生は僕の反応が気に入ったのか、そこからスイッチが入ったらしい。
いろいろと教えてくれた。
魔王は何度も復活を繰り返しており、そのたびに勇者ベルに倒される。
その話は、どうやら本当だと言われているらしい。
とはいえ魔王の復活の期間はかなり長く、数百年だとか、数千年だとか言われているみたい。
その間を勇者ベルはずっと生き続けていることになるし、なかなか現実味が無いよね。
先生が言うには、魔王を倒したのは全員が別人で、勇者ベルという名前が受け継がれてきた説。
もしくは、最長寿の種族であるミガ族なんじゃないかという説を唱えていた。
深層は闇の中だけどね。
その他にも、面白そうな事を教わった。
先生が言うには、禁忌七星という最強の魔物が7体世界に居るのだとか。
魔王もその禁忌七星の1体らしい。
なんか今日の授業はすごく面白かった。
こういう話ってワクワクするよね。
…。
そして太陽が真上に来た。
お昼はすぐそこ。
さぁ、行こうか。
作戦はこうだ。
魔王の机の上に、【外で待っている】と一言だけ置いておく。
それを見た魔王は、ぷんぷん怒って外にやってくる!
そして僕が、頑張って倒す!
以上!
昨日の敗因は、彼女に強化魔法を使われたことだと思う。
だから使わせる暇が無い程に、魔法を打ち込んでやれば勝てるはず!
…。
お昼を周ってから、少し時間が経過した。
ザクッ…ザクッ…
足音が聞こえてくる。
魔王が来たらしい。
ピりつく空気。
僕は身構えた。
しかし。
…え?
予想外の出来事に、僕の頭の中はまっ白になった。
何故なら、魔王の体は既に引き締まっていたから。
それどころか、身体中から湯気が立ち上がる。
やられた。
既に強化属性を準備してきたらしい。
僕は悔しさと同時に、嬉しさを感じていた。
だって、僕と本気で戦ってくれるってことじゃん。
なんだか、認められた気分だよね。
彼女は僕を鋭い眼で睨みつける。
そして一言。
「始めようか」
プシュンッ!!
彼女は合図をするかのように、空高く石を投げた。
僕はそれを見て、攻撃を仕掛ける。
コポポ…。
まずは手始めに、水弾を何発を撃ち込む。
パシュシュッ!!!
それを冷静に避けていく魔王。
その多くは避けられてしまうも、1つが彼女の腕をかすめた!
「ぃ…ってえな!!」
彼女の体は大きくのけ反り、その痛みに顔を歪めた。
僕の攻撃が無視できない威力だと悟ったのか、彼女の目つきがさらに鋭くなるのを感じた。
ボコッ!
次の瞬間、僕の足元が陥没する!
僕はたまらず、バランスを崩して転びそうになる。
「…わわっ! …えっと…氷!」
パキッ!
しかしと氷の足場をとっさに作り、なんとか立て直した。
ちょっと滑って危ないけれど、あのまま転ぶよりはマシだ。
そんな事をしている間に、徐々に距離を詰める彼女。
でも良い。
もっと引き付けろ。
ちゃんと当たる位置まで!
…。
ここだ!
僕は水弾を解き放つ!
パシュンッ!!
しかし魔王は体を大きくよじり、その水弾をなんとか避けきった。
でもそのせいで体幹がずれ、体勢を崩し始める。
「…っああ!」
それでもなお彼女は攻撃を仕掛けようと、僕のお腹めがけて拳を撃ち抜いた!
なんて執念!
まずい。
このまま直撃すれば、間違いなく僕の意識は飛ばされる。
僕はそれを防ぐために、お腹の前に水の壁を作った。
ブシュンッ!!!
「う…ぐっ……」
水壁は多少なりとも衝撃を緩和してくれたけど、それでも意識が飛びそうな衝撃が伝わってくる。
ほんと痛い!
…でもがまん!
魔王は無理な態勢で攻撃したせいか、地面に大きく倒れ込んだ。
これ以上ないチャンスだ!
「食らえ!」
僕はここぞとばかりに水弾を放つ!
この距離なら、絶対に当たる!
パアンッ!!!
直撃の感触。
水の破裂音と共に、大きな土煙が発生した。
倒せた?
僕は彼女の姿を確認しようとするも、土煙のせいで見えない。
あぁ、もう邪魔だよ!
僕は小さな手をぱたぱたやり、煙を追い払った。
徐々に見えてくる目の前の景色。
やがて、半球の少し大きなシルエットが見えてきた。
え…なにこれ…?
僕は急いで土煙を払うと、そこには土のドームが形成されていた。
土の盾だ。
どうやら僕の攻撃は、防がれたらしい。
なんてしぶといの!?
落ち着け。
きっとまだ、この中にまだ居るはず。
僕は壁をほじくって、穴を開けた…。
中には…。
既に彼女は居なかった。
「へっ!?」
どこに居る!?
「すぅ…」
後ろで聞こえる呼吸音。
慌てて振り向いた。
その時には既に、拳が引かれていた。
まずい。
彼女の攻撃が来る…!
その瞬間。
ガコッ!
魔王の足元が大きく陥没。
そのおかげで、彼女は大きくバランスを崩した!
僕は少し目線をずらすと、そこには仕事をやりきったような顔のマルコが居た。
ナイスアシスト!
これは2度とない、大きなチャンスだ。
体勢を崩して、身動きの取れない魔王。
僕は彼女に向かって、魔法を打ち込んだ!!
パシュンッ!!
それは魔王の腹部に直撃。
顔に当たって傷にでもなったら困るから、お腹を狙ったんだ。
そうして、魔王は気絶した。
どうやら決着が付いたみたい。
勝った…。
「勝ったよマルコ!!」
「マリン、ナイスだったぜ!」
「マルコこそ、最高の援護だったよ!」
「だろ?」
「うん! すご
ゴツンッ!!
僕は空から落ちてきた石に当たり倒れた。
やられた…。
魔王が最初に投げてた石…成長魔法だったのか。
悔しい程に上手い使い方をされたらしい。
意識がだんだん薄れていく。
……。
目を覚ました時には既に夕方。
今日もこのパターンだね。
体が痛いなぁ。
おまけに夕日も眩しい。
僕は夕陽から逃げるように、寝返りをうった。
ころん。
「…!?」
寝返りをうった先で、僕は驚いて言葉を失った。
だってそこには、真ん丸な目が2つ。
そしてくるくるっとした羊の角。
なんと僕は、魔王と添い寝をしていた!
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