10. 学び舎 4

僕らは、本物の魔王に出会ってしまった。

そのまま外に連れ出され、ま流れるように向き合う僕と彼女。

言葉なんか要らない。

魔法と魔法で語り合うんだ。


ちなみにマルコは見学だよ。

戦いはしたことないみたいだし、怪我でもしたら大変だからね。


…。


よし、気持ちを整えよう。

手加減を忘れちゃいけない。

絶対に順守だよ。


お互い、配置に付く。


僕と魔王と呼ばれる少女は、マルコに視線で合図を出した。

準備が整ったんだ。

それを見計らって、マルコが手を振り下げる。


「はじめ!! 頑張れマリン!!」


その合図とともに、決闘が開始された!


僕には作戦がある。


先ほどの行動を見るに、魔王はおそらく近距離戦が得意なはずだ。

だから必ず、僕に近づいてくると思う。

そうして彼女が近くに来てくれれば、精度の悪い僕の魔法でも十分に当てらると思う。

だから僕は、彼女が近づくのを待てば良い。


…。


…待てば。


…。


しかし、いくら待っても向かってこない。

向こうも僕の様子を伺ってる?

それにしても長いような…。


…。


あれ?


そこでやっと気付いた。

彼女の体つきが、徐々に引き締まっている事を。

あの細い体から、うっすらと筋肉のハリが見えてくる。


何あれ?

マウ族の特殊能力?

いや、知らない知らない、そんなの知らないよ!


あれはきっと…何かの魔法だ。

もしかして強化属性!?

ちょうど今日、授業で習った所だ。

なんてタイムリーな!


彼女はマウ族だから、土は確定で得意属性のはず。

という事は、彼女の属性は土属性と強化属性の2つかな。


強化属性の対策は、強化される前に叩く。

これに限るらしい。

こうしちゃいられない。

睨みあいは終わりだ。


コポポポ…!!!


僕は水の弾を、5つ同時に生成した!


これはフワリから教わった、ちょっとだけ高度な技。

彼女の丸い目は、さらに丸くなった。

僕の技量に驚いたらしい。


ふふ。


聞いて驚け…。

題して、たくさん打てば1つくらいは当たるだろう大作戦!!!

僕は彼女に手をかざした。


「覚悟しろ!!」


僕は水弾を打ち出す…!

厳密には、撃ちだす直前のこと。


ガコッ!


僕の足元の地面が、陥没した。


え…!?


予想外の出来事に、思わずバランスを崩してしまい、面にこけてしまう。

すごい地味だけど、土属性の魔法だ!


バシャッ!


同時に地面に落ちる水弾。

集中が途切れたせいだ。


ビックリした。


不意打ちなんて卑怯な。


よし…気持ちを切り替えて。


次の魔法を…


その時には既に、彼女が目の前に居た。

速い…!?

これじゃ間に合わ…。


バゴッ!!!


彼女の拳が僕を撃ちぬき、意識が途切れる。


……。


…。



目が覚めると夕陽が照らす医務室に居た。

隣には、顔にあざができたマルコも寝ている。

僕の巻き添えを食らったみたい。

ごめんね。


…。


僕は、窓から差す夕陽をぼんやり眺めた。


…。


悔しい…。


なんでこんなに悔しいんだろう。


ただその言葉だけが、僕を支配する。

初めて感じるような感情。

気持ちが抑えられない。


そんな物思いにふけっていると、だんだんと太陽が沈んでいく。


あぁ…。

そろそろ帰らないといけないな。

マルコを起こさないと。

僕は彼の体をゆする。


「マルコ、今日はかえろ」


…。


「マルコ…?」


…。


「ねぇ、マルコ!」


…。


「返事してよ!」


…。


なんと、目を背きたい現実が目の前にあった。

マルコはもう…。


「んぁ? …マリンか」


「あ、おはよう。 大丈夫だった?」


「……なわけないだろ。 なんだよあの化け物」


マルコは体を起こしながら言う。

節々が痛いのか、彼は体のあちこちをさすった。


「痛てて…。 マリンも大丈夫か?」


「うん、なんとか。 あのね、マルコ」


「ん? どうかしたか?」


「僕ね…リベンジしたい」


「…それ、本気で言ってるのか?」


「うん、本気。 魔王に、一泡吹かせたい」


「マリン…。 お前なぁ…」


マルコはニヤッとする。


「やってやろうぜ。 俺もこのままじゃ終われねぇ」


僕たちは握手しあった。


…。


元の島に帰る頃には、外はすっかり暗くなっていた。

あぁ…やっと愛しの家に帰れる。

今日はさすがに疲れちゃった。


気が付けば自宅はもう目と鼻の先!

窓からはお母さんが、僕に向かって全力で手を振っていた。

それはもう、涙ぐみながら。

そんなに僕の初登校が事が心配だったんだね。


「まりんちゃあああああん!!!!!」


窓越しでも聞こえてくる声。

僕は返事をするように、手を振った。


そしてそのまま…。


実家を素通りし、隣にあるフワリの家に入った!


「きゃあああああああああああ!!!!!!」


自宅からはお母さんの断末魔が聞こえてきたけど、一旦無視。


ごめんね。


あ、別にボケた訳でないよ。

フワリに、魔王を倒すアイデアを教えて貰いたかったんだ。

だからフワリの家にお邪魔した。


家に入ると、机に座りながらフワリは笑っていた。


それもそのはず。

だってお母さんの声が、ここまで聞こえてくるんだもん!

魂の叫び声。

ごめんね…お母さん。


「ただいま、フワリ」


「ふふっ…おかえりマリン君」


笑いながら迎えてくれるフワリに、僕は今日のこと、そして魔王のことを話した。

その間、彼女はずっと笑っている。


「かわいいな~マリン君」


「んもう…笑わないでよ! それでさフワリ、何か良い案があれば…」


「勝つまで挑めばいいよ」


「んー…それはそうなんだけどなぁ…」


「壁は強くなれるチャンス、甘えちゃだめだよ」


「…そうだよね。 僕、もっと強くならなくちゃ」


「そう、その調子」


「頑張るよフワリ」


「うん、応援してる!」


僕は、フワリに笑顔を向けた。

しかし、彼女の視線はだんだんと僕から逸れていく。

そうして苦笑いを浮かべたあと、再び僕に向き直った。


「それよりさ、マリン君。 早く帰ってあげな」


「え?」


「ほら、窓の外を見てごらん」


その言葉に、僕は振り返った。


…!


なんと、窓の外には。

お母さんが涙目で張り付いている!


「あんまり彼女を悲しませないであげて」


「…うん」


僕はフワリに頷いた。


「ありがとう、フワリ」


僕は一言残すと、お母さんの元に駆け出した。


「お母さんごめん!」


「もう!」


お母さんは、僕を受け止めるように抱きしめてくれた。


「マリンちゃんの意地悪」


「ごめんね。 お母さんが一番だよ」


「フワリにも同じこと言ってないかしら?」


「言ってないよ。 僕は嘘つかないから」


「ほんと…マリンちゃんは良い子ね」


「へへ」


こうして、長い長い1日が終わった。

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