08. 学び舎 2

亀が学び舎のある大きな島へと到着。

僕はいち早くその島の光景を見たかったので、マルコを押し避け、先に外へと飛び出した。

すると…。


「…!」


降りた瞬間から伝わる、空気感の違い。

色んな物々の音。

香りだって違う。

なんだか、いろんな料理の香りが漂ってくる。


この島はかなり賑わっていた。

ここまで発展した場所に来るのは初めてだったので、なんだか嬉しくなってきた!

それを表すように、ぴょんぴょん跳ねてみる。


「嬢ちゃん、この島は初めてかい?」


すると売店のおじちゃんが声をかけてきた。

なんだか優しそうな人なので、僕は笑顔で返事をかえした。


「はい! 今日から学び舎に行くんです」


「そうか! いい子に学ぶんだぞ!」


そう言うとおじちゃんは、売店で売っているキャンディをくれた。

お皿くらいはありそうなサイズ感で、けっこうでっかい。

僕はさっそくそれを食べ始めた。


うん、並。

味はただの飴だった。

まぁ、こんなもんだよね。


「ほれっ、後ろの君も持ってけ」


おじちゃんはマルコにも渡す。


「ありがとう、おじちゃん!」


「いいって事よ!」


おじちゃんは満面の笑みで見つめていた。

その時、何かを思い出したような顔をする。


「あ、そうそう2人とも。 魔王には目を付けられないようにな」


「魔王!?」


まさかおとぎ話の存在が、こんなすぐ近くの島に居たなんて…!?

さすがに驚きを隠せない。

そんな僕を、おじちゃんは笑い飛ばす。


「おいおい、おとぎ話の魔王じゃないからな?」


「……だよね」


「何ガッカリしてんだよマリン! おじちゃん。 詳しく教えてくれ」


「あぁ。 学び舎に居る不良の話さ。 あまりの強さに、着いたあだ名が魔王だとか」


「へー。 なんか物騒だね、マルコ」


「大丈夫だぜマリン! 何かあれば、俺が守ってやる」


「やったぁ。 僕うれしー」


はたして本当に守ってくれるかは微妙なところだけど。

でも露店のおじちゃんは、その言葉を真に受けたらしい。

満足げに笑った。


「ははっ、それなら安心だな! 頑張れよ!」


「おう! じゃあなおじちゃん!」


「飴ありがとうね、おじちゃん!」


おじちゃんにお礼を言って、再び学び舎に向かう事にした。


その道中の事。


何故だか、マルコがずっとそわそわしてるんだよね。

変なの。


「マルコ、なんかさっきから変」


「え…。 そ…そうか? マ…マリンちゃん」


「は?」


「や…だ…だってよ、女の子には優しくって…言われてるからよ…」


僕はその言葉で全てを察した。

マルコの中ではどうやら、僕は女の子ということで決着が付いたらしい。

そのまま長引くと面倒なので、僕は教えてあげることにした。


「僕おとこだよ?」


「はぁ!?」


マルコが後ろに跳ねる。

その反応がおもしろくて、何回も見てみたくなる。

たまにちょっかいを掛けてくるフワリの気持ちが、なんとなく分かるよね。

けっこう面白い。


僕はフワリの真似をするように、上品に微笑んだ。


「ふふっ」


「マリンって意外と性格悪いのな…」


「ごめんって」


僕は笑いながら謝る。

そんな会話をしつつ、僕らは再び学び舎へと向かった。


丘を登り…。


川を越えて…。


森に入って…。


平原に出て…。


また森に入って…。


ついに…学び舎が!


「遠くない!?」


「負いマリン。 初めての学び舎の感想がそれでいいのか?」


「いいもん、事実だし」


「確かになぁ。 俺ももっと都会の方だと思ってたぜ」


「でも見て! すごいよ!」


「だな」


疲れ果てた僕らを待っていたのは、何とも不思議な建物だった。

古い箇所と新しい箇所がツギハギで、なんともおとぎ話チック。

けっこうな雰囲気があって素敵な場所だ。

ここで学べるんだ!…って思うと、思わずワクワクしてきちゃう。


それにしても、キャンディが意外とでかい。

まだ舐め終わるには時間がかかりそう。

でも、入学式まで時間が無いしなぁ…。


「マルコ、このまま突撃しない?」


「マリン…お前って意外とヤンチャだよな」


「マルコもでしょ?」


「おうよ!」


という事で、僕らはキャンディを咥えながら門をくぐった!

最初が肝心だからね。

景気よく行かなくちゃ!


そんな僕らの前に…。


上級生と思わしき、マウ族の生徒がやって来た。

大きな鹿の角を持った、長身の男。

かなり機嫌の悪そうな顔をしてる。


…もしかしてこの人が噂の魔王?


見るからに強そう。

魔法じゃなくて、普通に殴ってきそうな体格をしてる。

そんな彼だけど、律儀に杖なんか構えだした。

そしてこんな言葉を言い放つ。


「飴舐めながら登校とか、舐めてんのか?」


「ぷ」


男の発言に、僕は思わず笑いそうになる。

これは卑怯じゃん!?

さすがは魔王、恐るべし。


しかし男は、僕の態度が気に入らなかったらしい。

歯をギチギチと鳴らし、僕らを睨み付けてきた。


「もう頭来た。 分からせてやる」


彼は怒りに任せ、杖を振り上げた。

生成される火球。

彼はそれを、こちらへと向けた!


もしかして僕ら、攻撃させる…?

そんなまさか。


「きゃー助けてマルコー」


僕は、冗談でそんなことを言った。

しかし。

マルコが僕の前に飛び出す!


「俺の友達には手を出させねぇ!」


彼は震えた声で叫びながら、両手を広げた。

僕を守るように!


「マルコ!」


「マリン、お前は俺の後ろに下がってろ」


まさか、本当に守ってくれるだなんて…。

出会ったばかりの僕を守ろうとする男気に、僕はちょっぴり目がにじんだ。

どうやら、早くもいい友達に出会えたみたい。


しかし上級生の男は、そのまま火球を飛ばす!

どうやら、本気で頭のネジが外れた人だったみたい。


ヒュー…


音を立てながら、こちらへと飛んでくる火球。


正直、あんまり威力は無さそう。

手加減してるのか、人を殺そうとするような威力では無かった。

でもマウ族って燃えやすそうだし、マルコに当たれば軽傷では済まなそうだ。


助けよう。


僕はマルコを守るため、手を大地に向けた。

魔力を張り巡らし、思いのままに想像を具現化する。

そして。


バシャア!!


水の壁が張り巡らされた!


…ここからだ。


これはフワリに近づきたくて、何回も何回も練習した技。

その度に失敗して、フワリに笑われて。

でも僕は諦めなかった。

結局、習得に2年近く費やしてしまったけど、努力した分だけ自信がある!


僕は水壁を、思いっきり固めた!


パキッ!!!


その瞬間、水がカチコチにかたまり、巨大な氷の壁を生成する!

自分で言うのもあれだけど、とっても凄い技だと思います。

はい。


ジュワぁ…。


魔王の放った火球は、僕の壁に衝突。

しかし壁を破ることは叶わず、あっけなく飲み込まれて終わった。


「ふぅ…。」


僕は一息ついた。

レベルの差は見せつけられた。

これでヤツも諦めてくれる。


…と思っていたんだけど。

それでも男は、懲りずに次なる火球を生成し始める!

まだやる気みたい。

それなら僕にも作戦がある!


「マルコ、後ろに下がってて」


「あぇ!?」


「いいから! もう僕に任せて!」


「お…おう…」


僕は戸惑うマルコを後ろに引かせた。


諦めの悪いヤツには、力づくで分かってもらうしかないよね。

僕は魔王へと手をかざした。

こちらからも攻撃を仕掛けて、無理やり分からせる。


魔力を練り、水を生成。

それが瞬きする頃には、氷に変わる。


よーく狙って。


ぽん!


僕はいつも通りに氷弾をぶっ放した。

それは風を切りながら、鋭い音で飛んでいく。


ズドンッ!!!


やがてそれは着弾。

男の後方に大穴が開いた!

石畳の地面が、大きく抉れる。


「あちゃ。 また外しちゃった。」


なんでこういう時に限って、当たらないんだろう。

まだまだ精度が悪い。

練習を重ねなきゃ。


…。


ふと冷静になった。


石畳に空いた大穴を見て、思わず視界が歪む。


これ…。


あの人に当たってたらどうなってたの…?


単属性の威力は、桁違い。

そんな事、分かってるつもりだった。

でも、僕はあと一歩で人殺しになるところだったらしい。


僕は、やってはいけない事をやったんだ。

慌てて僕は、向こうで腰を抜かしている男に近づいた。

そして、頭を深々と下げる。


「…ごめんなさい。 …ここまでするつもりは…」


僕は、出来る限りの懺悔をした。

簡単に許されるようなことではない。

そんなことは分かってるけど、でも謝った。


すると…。


「謝るな。 お前の魔法…すげえな…。 驚いちまった」


男は、弱弱しい笑顔を僕に向けてくれた。


「今回のことは…俺も悪かったよ。 ごめんな…」


「そ…そんな…」


「お前は強ぇ。 お前の勝ちだよ」


男は僕の手をがっしりと握った。

なんだかすごく嬉しい気分になった。


「いい友達持ったな、新入生。 大事にしろよ」


「…はい!」


彼は僕らにそう言い残すと、歩き出した。

少しよろめきながら。

でも何故だか、その姿さえもカッコよく見えてくる。


きっとこういった一面から、彼は尊敬されているのかもしれない。

だからこそ魔王と呼ばれるようになったんだ。

…ちょっぴり憧れちゃうな。


なんて思った次の瞬間、男は大穴に落ちた!


…僕が開けたやつだ。


あまりの緩急に、僕は少し笑いそうになってしまう。

それでも申し訳ないという気持ちで抑え込み、マルコと一緒に男を救出した。


彼を見送って。

僕らは一息ついた。

それと元通りには出来ないけど、地面にあいた穴をうめておいた。

でもまだボコボコしてるし、余計に危なくなった気がするけども…。

僕らは目を瞑ることにした。


「よし! こんなもんでいんじゃねーのか?」


「うん、だね。 …あ、そうそう。 マルコ、そろそろ校舎に入らない?」


「おう、そうだな。 もう入学式始まっちまうもんな」


「あ、ほんと! 急がなきゃ!」


「おいおい走るなって! つまずくぞ!?」


「僕はそんなドジ踏まうわああっ!」


「あー…もう言わんこっちゃない。 ほらマリン。 手ぇ出せよ」


「ありがとうマルコ!」


「へっ、お互い様だな!」


僕はマルコの手を借りて、立ち上がった。

そして学び舎へと入っていく。

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