07. 学び舎 1
明日は待ちに待った学び舎の初登校日!
そんな日にも、僕は相変わらずフワリの家に居た。
やっぱりここが落ち着くんだよね。
お母さんが聞いたら泣き叫ぶかな?
「マリン君」
「は~い」
「そういえば1つ、教えてない事があったね」
「なになに?」
「最強の魔術師って知ってるかな?」
「最強…! なんか聞いたことある!」
その無駄に心に響く言葉は、僕の好奇心をかっさらった!
「双星と天王星の2人が居てね、双星は複属性の中で最も強い人に贈られる称号。
天王星はマリン君みたいな、単属性の中でも最も強い人に贈られる称号なの」
「…天王星……僕、天王星目指す!!」
「ふふっ。 そんな簡単な話じゃないよ? 現役の天王星はすごい人だからね」
「もちろん分かってるよ! すごく凄い人なんでしょ?」
「本当に分かってるのかな…?」
「うん! たぶん!」
「ふふっ。 でもやる気があるのはいい事だよ」
フワリは笑ってごまかす。
ちなみに天王星、双星以外にも、その下の星級というものもあるらしい。
上の2つよりは大きく劣るけど、それでも一握りしかなれない、すごい称号なんだ!
ちなみにね、水属性の星級はまだ居ないらしいよ。
だって水の単属性は僕しか居ないんだから。
だから、もしかすれば僕が初めてになれるかもしれない!
ワクワクするよね!
よし、もっとがんばろ!
帰宅後、僕は鞄に明日の荷物を詰め込んだ。
初日はすごく大事。
だって学び舎の初登校なんだもん。
僕は遅れないように、早めに布団に入った。
……。
でも。
どうしよう。
全然寝れない。
早く寝ようとすると、逆に寝られない事件発生!
幸先悪いよね。
…。
「マリンちゃん!起きて!」
お母さんの声が聞こえる。
え…?もう朝なの?
あぁ…頭が痛いょ…
「んもう、起きなさい! だらしないわよ!」
一向に起きようとしない僕に、お母さんは布団を引きはがす!
布団は宙を舞い、ベッドの端に落ちた。
すかさず僕は、魔法で布団を引き戻す。
フワリとの練習の成果だ!
今までの努力を無駄にしないためにも、ここで諦めるわけにはいかない!
負けないぞ!
それから、一進一退の攻防が繰り広げられた。
全力で僕を起こしにかかるお母さん。
それを、魔法でなんとか阻止する僕。
「…なかなかやるわね、マリンちゃん!」
「ふふふ…負けてたまるか!」
「良い根性ね。 でもこれはどうかしら!」
布団を引きはがすのは困難だと悟ったお母さんは、必殺技を繰り出した。
布団からはみ出した僕のつま先を、魔法で冷やし始めたんだ!
地味すぎる攻撃だけど、冷え性の僕にとっては不快感がものすごい。
僕はたまらず飛び起きてしまった。
「無理!! やめてお母さん!」
「ほら、起きなさいマリンちゃん」
「はい…」
完全敗北だ。
お母さんは日常生活の魔法を極めし存在。
そんな偉人に、ちょっと特訓した程度の僕が勝てるわけがなかった。
お母さんは偉大だね。
それから僕は準備をして、お父さんとお母さんの待つ朝食へと向かった。
朝は時間がないので、パパっと食べられるケーキだ。
ケーキ…?
ケーキ…。
「ケーキ!? 朝食にケーキ!?」
「そうよ! マリンちゃんのために、朝から作ったのよ!」
「なんてパワフルな…」
「召し上げれ!」
「う…うん…」
どこの世界に、朝食でケーキを作るお母さんが居るのか…。
ともあれ、とっても美味しい。
僕は思わず笑顔になりながら、お口いっぱいに頬張った。
それからある程度ケーキを食べた頃。
「マリン、亀の乗り方は分かるか?」
隣に座っていたお父さんが、僕にたずねてくる。
「大丈夫だよ、お父さん。 フワリと何度か島の外に出た事あるからね」
「マリンちゃんったら、フワリっ子ね!」
「うん! だってもう、2年も一緒にいるから!」
「お父さんよりも、長い時間一緒に居るんじゃないか?」
お父さんは少し寂しそうな顔を向けてくる。
僕は肩をすくめた。
「おっと、もうこんな時間だ。 マリン、そろそろ準備するぞ」
「うん!」
そして学び舎に向けて、家を出発。
学び舎があるのは、別の島だ。
僕の島なんかとは比べ物にならないくらい大きくて、人も多いらしい。
まだ行ったことは無いんだけどね。
家を出ると、さっそく亀が浜辺に差し掛かるところだった。
「亀さーん! 止まってー!」
僕はフワリに教わったとおり、全力で手を振った。
すると、亀は僕の近くへと入り口を合わせるように止まってくれる。
僕はそれから、背中の建物に続く階段を登っていった。
すると後ろで、お父さんとお母さんの大きな声が聞こえた!
「マリン、元気でな!」
「マリンちゃん、たまには顔見せに来てね!」
「お父さん、お母さん! 月に1度は戻ってくるから!!」
「約束だぞー!」
「マリンちゃん…寂しくなるわね…」
僕は両親に別れを告げ、僕は亀に乗り込んだ!
なんて感動的なんだろう!
涙が止まらない!
ちなみに通いなんだけどね。
寮でも泊まりでもなんでもなくて、普通にこの島からの通いだ。
30分もあれば島を移動できちゃうし、そんなに時間もかからない。
なんというか、マリン一家の伝統みたいな物らしい。
お父さんもお母さんも通ってきたのだとか。
本当かなぁ。
それから涙ぐむ両親を横目に、亀は出発した。
さて、海の上をゆらぐ不思議な時間がやってきた。
ぼくはこの時間が意外と好きだ。
揺らぐ波、その中を泳ぐ島々。
いつ見ても飽きない、幻想的な空間だよね。
なんて自分の世界に浸っていると、知らない青年が声をかけてきた。
「よっ」
「…」
「あんただよ青いの」
「え、僕?」
「そうだぜ。 お前も新入生?……にしちゃ小さすぎるか」
彼は大きく笑った。
なんて失礼なヤツ!
僕はこの身長のこと、すごく気にしてるというのに!
このデリカシーのかけらもない彼は、まっすぐなヤギの角を持った、くせ毛の髪の青年だ。
殴り合ったらまず勝てないだろうけど、魔法だったらどうかな!?
僕がぎったんぎったんに…!
やめましょう。
暴力は良くないので、僕は露骨に嫌な顔をして抗議をした。
「ぷんッ!!」
「…もしかして新入生だったか?」
「ぷんぷんッ!!!」
「ごめんよ。 別に悪く言うつもりは無かったんだ」
「ぷんぷんぷんッ!!!!!!」
「いや…ほんと悪かったよ…」
「ぷぷんぷんぷん!!!!!!」
「…ほら…飴あげるからさ」
「許してあげましょう」
「切り替え早いな」
飴をくれたからいい人だ!
お菓子をくれる人はみんないい人だからね!
僕は彼に、屈託のない笑顔を向けた。
「僕も新入生だよ、よろしくね!」
「お! そうだったか。 俺はマルコ、よろしくな! 隣座るぜ」
ごく自然な流れで、僕の隣に座りこむマルコ。
体が当たりそうな距離。
僕は心の壁が分厚いので、少しだけ彼から遠ざかった。
しかしマルコはそんな事は気にせずに、質問を続ける。
「あんた、名前は何ていうんだ?」
「マリンだよ」
「おぉ、マリンって言うんだな、よろしく!」
…。
マルコはそう言うと、しばらく僕の顔を見つめた。
そして眉をひそめる。
「…こんな質問、いきなりで申し訳ないんだが、マリンはどっちなんだ?」
「どっちって?」
「性別の話だよ。 見た目も名前からもどっちだか分かんねぇ」
「あっちだよ」
「あっち?」
そう言いながら、僕は空を指さす。
何もない空。
困惑するマルコ。
彼の頭に、行くもの?マークが浮かんでるのが目に見える。
…。
流れる沈黙。
そこからマルコは何かを察したらしい。
申し訳なさそうな顔をした。
「あぁ、別に無理に言わなくても良いぜ。 隠したい事の1つや2つくらいあるもんな」
なぜだか、彼は少し照れくさそうにしていた。
なんでだろうな~。
僕には分からないや!
僕は窓に反射する自分の姿を見て、少しニコっとした。
相変わらず子供みたいだけど、女の子みたいで可愛いなと思いました。
それから僕らは、会話に花を咲かせた。
別に僕は会話をするつもりなんて無くて、当たり障りのない言葉だけを返していたんだけど。
でもね、それでも会話が続いちゃう。
なんというか、マルコに言葉を引き出されている感覚なんだ!
気が付けば僕は楽しくなっちゃって、あることないこと色々打ち解けた。
もちろんマルコも色々話してくれて、気が付けば心の壁はほとんど無くなっていた。
彼の第一印象はデリカシー皆無で目つき悪くて、人殺したこと有りそうなイメージの人だったけど、
それを塗り替えるくらい普通の良い人だった。
気が付けば、亀は目的地に到着したらしい。
大きな巨体を、島の側面へと貼り付けた。
「それじゃあ、降りようぜマリン」
「僕が先に降りるもんね!」
「あ! マリンのズル! 一緒に降りようとか言ってた癖に!」
僕はマルコを押し避けて、先に外へと飛び出した!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます