03. 思い出の氷

翌日。

僕は、早速魔法を練習することになった!


普通は7歳に上がると、地域に1つはある学び舎に通いだす。

そこで魔法の勉強をして、卒業後は働いたり、旅に出る人なんかもいるみたい。


これが一般的なマウ族の人生。


でも子供の魔法をもっと伸ばしたいと考えるそこの貴方!

そうしたいという親は、学び舎以外にも自分で教えたり、先生の元につけて修行をさせたりする事もあるらしい。

どうやら僕もそのコースのようだ。


「マリンは水の単属性だから、絶対に腐らせちゃだめだ。 だから今日から練習をしてもらう」


「そうね! ビシバシバンバン叩き潰しちゃうわ!」


「叩き潰さないでよぅ…」


相変わらずのお母さん。

でも、魔法を成長させたい気持ちは僕も同じ!


「お父さん、お母さん! 水魔法を教えて!」


僕は、目を輝かせながら2人を見た。

しかし。


「お父さんには無理だ!」


「え…?」


「昨日見せた通り、水魔法は下手くそなんだ」


大きく笑うお父さん。

…なるほど、それならお母さんが教えてくれるんだ!

僕はキラキラした目で、お母さんの方を見る。

しかし。


「私も水はからっきし!」


「ええ!?」


屈託のない笑顔で返された!


そっかぁ…それなら仕方ない。

うん…仕方ない…。

これじゃあ水属性を学べないね。


僕の人生、早くも終わりを迎えたみたい。


「まぁまぁ、そう落ち込むなって」


「そうよ! マリンちゃんに、水魔法を教えてくれる先生を探したから大丈夫!」


「え! ほんと!?」


僕は秒でキラキラした目に戻った。


「まぁ、単純な子ね!」


僕は単純な子らしい。


「それじゃあ、さっそく行くか」


「うん!」


「うふふ。 楽しそうね~」


お父さんの声で、みんな歩き出す。


どんな場所に居るんだろう。

僕は辺りを見渡した。


崖の上に立ってるあの家かな?

海岸沿いに佇むあの美しい家とか?

…それとも、森の中にそびえるあの不気味な家かな?


どんな所なんだろう!

僕の中で、期待が膨らんでいく。


そして。


「ここだ」


数歩進んだところで足を止めるお父さん。


「どこ?」


「ここだ」


「…これ?」


「あぁ、ここだ!」


そこはなんと…


隣の家だった!


僕は思わず気を失いそうになる。

先に言ってほしかった…。


「通うんだから、近い方がいいだろ?」


「ごもっともです…」


納得してしまった。

もう僕の負けだ。


僕は身だしなみをピシッと整えた。

そんな僕を見て、微笑むお母さん。


「お母さんの友達だから、そんなに気を張らなくても大丈夫よ」


「そうなんだ」


「えぇ、安心して頂戴」


「うん!」


「じゃあ入ろうか」


お父さんはそう言うと、ドアをノックした。


コンコンッ。


…。


静かに開くドア。


「あら…」


中からスラっとした、少し背の高い女性が出てきた。

彼女は黒色のくせ毛を肩で整えた、とっても美しい人だった。


そして驚いた事に、彼女はマウ族のような特徴が無い。

僕と同じ!

仲間意識が急に芽生えた。


「初めまして、マリン君」


彼女は優しく微笑みながら、僕の前でしゃがみこんだ。

ラベンダーのような香りがやってくる。


「私はフワリ、よろしくね」


「……ま…マリンです…よろしくお願いします。」


「ふふっ。 君、ずいぶん緊張してるね」


彼女はそう言いながら、僕の頭を撫でてくる。

僕は恥ずかしくなって目をそらしてしまった。

そんなちょっかいかけてくるフワリを、お母さんはどついた。


「ほらフワリ、あんまり私の子をいじめないでよ」


「ふふ。 だって可愛いもの」


「そうよね! 世界一可愛んだから! それじゃあフワリ、うちの子よろしくね」


「えぇ、もちろんよ」


僕は両親たちと別れ、フワリの家に招かれる。

そこは雑貨や植物が生い茂る、オシャレな空間だった。

中央にはふかふかなソファが置いてある。

寝ころんでみたいな。

なんて感情をこめながら、僕はつぶらな瞳でフワリを見つめてみた。


でも現実は無情。

彼女はソファではなく、硬い椅子の置かれたテーブルに案内してくれた。

僕が座ると、彼女も机をはさんだ反対側の椅子に座る。


そこに…。


ひゅいっとティーカップが浮かんできた。

なんだか、カップの周りに沢山のキューブが並んでいるような光景だ。

変な魔法。


それから瞬く間にお茶が注がれ、華やかな香りが広がった。


僕はカップを触りながら、目の前の女性をチラチラ見る。


それにしてもすごく不思議な人。

このあたりでは見かけないような、分厚いコートを着ている。

外ならまだしも、家の中で着ているのは相当な変人だ。


それに角も無いし、触角もない。

これといった特徴が何もない。


でもお母さん曰く、れっきとしたマウ族なんだとか。

マウ族って幅広いよね。

僕が言えたことじゃないんだけど。


「マリン君。 もしかして緊張してるかな?」


「…ちょっとだけ」


「もっとリラックスして」


すこし笑いながらフワリは、お茶を嗜んだ。

僕も真似するようにお茶を飲む。


ズズ…


「あつっ!」


お茶が想像以上に熱く、僕は思わずコップを落としそうになる。

しかしフワリによって、魔法で支えて貰い事なきを得た。

魔法ってつくづく便利だよね。


なんて思ってると、フワリが話を始める。


「さて、マリン君」


「はい!」


「君はそれはそれは珍しい水の単属性だとか」


「…みたいですね」


「うん。 凄いね」


「僕のこと疑わないの? 僕でさえ…半信半疑なのに…」


「信じるよ、君のこと」


「でも…僕、存在しないはずの水の単属性なんだよ?」


「うん、疑わないさ。 私見てたから、信じるしかないかな」


「見てた…?」


「ふふっ。 こっちの話だよ」


何故だか。はぐらかされた気がする。

彼女はお茶を少し飲むと再び僕に目線を向けた。


「マリン君。 始めに1ついいかな?」


「はい!」


「私が教えられるのは初歩の初歩だけなの」


「え!? 全部教えてくれるんじゃないの?」


「それが出来たら良かったんだけど…。 残念ながら私は、水属性じゃないからね」


「そっかぁ」


「それにね。 知っての通り、水属性は全く研究が進んでないの」


「うん」


「だから、君が頑張って研究していくしかないんだ」


「僕が…」


「そ。 出来そうかな?」


「うん! 頑張る!!」


僕は即答した。

初めっからそのつもりだもん!


「いいね、気に入ったよ君のこと。 それじゃあ、さっそく外に出て特訓始めようか」


「え、わざわざ外に出るの?」


「……」


急にフワリは、ジト目で僕を見つめる。


「…フワリ?」


「ふーん。 もう忘れちゃったんだ」


彼女は目線をずらす。

その視線の先には…。


無骨に塞がれた大穴が空いていた!

まるで昨日、僕が開けた穴にそっくりな形をしてる!


…。


そういえばここ、僕の家の隣だっけ。


…。


さっき「見てた」なんて言ってたよね…。


僕は確信した。

あの穴は昨日、僕が開けたやつだ。


…。


「ごめんなさい」


「許しません」


「えー」


僕らはさっそく浜辺にやってきました。

さっそく特訓の始まり!


「それじゃあ、簡単なものからいくね」


フワリは水を生成した。

僕も真似して水を生成する。


コポポ…。


「こんなの簡単!」


「いい? マリン君。 ここからが本番だよ」


「これから…?」


「そ、これから。 それじゃあ、この水をぎゅ~っとしてみてみよう」


そう言うと彼女は、水を固めるような仕草をした。


カチカチッ…。


彼女の水が固まり始め、やがて氷になっていく…!


なにあれ、凄い!

僕もやってみたい。


僕も真似をするように、水を固めるような動作をした。


「ぎゅ~…」


…。


パシュッ!


はじけ飛ぶ水。


簡単そうに見えて、これが意外と難しい。

水を固めようとすると、どこからともなく漏れ始める。

またそこを魔法で塞ごうとすると、別の場所から漏れ

始める。


何度も零れ落ちる水。

僕はその度に水を追加しながら再挑戦を重ねた!


…。


そして。


カチカチッ!


「出来た!!!!!」


やっとの思いで固めることに成功!

思わず嬉しくなって飛び跳ねる!


「見て! 出来たよ!」


「…もう出来ちゃったの? これだけで1週間カリキュラム組もうとしてたのに」


ちょっと切なそうな顔をするフワリ。

なんだか、僕が悪いことした気分。


「なんかごめんなさい」


「もういいよ。 私には秘策があるから」


「秘策?」


「そ。 大人の力、見せてあげよう」


そう言うと彼女は、向こう側を向く。


手をかざして…。


バシャ!!


目の前に、大きな水の壁が出来上がった!

それを…。


パキパキッ!!


彼女は意図も簡単に、氷の壁へと変化させる。


「え!? 何これ!?」


「ふっふっふ…。 マリン君、君に出来るかな?」


「ぼ…僕だって出来るもん!」


「やれる物ならやってみせてよ」


「ぐぬぅ!」


なんか悔しい!

やってやる!

僕は地面に手を向けた。


集中して…。


バッ!


水壁を生成させた!

…が、フワリの物と比べてすごく小さい。


まだまだ!

せめて氷にしてやる!


僕は水壁を固めようとした。

しかし。


バシャッ!!!!!!!!


水壁は盛大に弾け飛んだ。

おまけに飛んだ水が僕に降り注ぎ、気付けば全身びしょびしょに。


…。


「……ふ…ふふ……」


笑いをこらえるフワリ。

彼女はこのことを見越してか、傘で水を防いでいた。


なんだか、僕の一人負けした気分だよ…。

真っ赤になる僕の顔。

それを隠すように、地面にうずくまった。


うぅ…。


絶対に出来るようになってやる!!


その日から僕は、フワリの家に通うことになった。

さすがに毎日ではないよ。

フワリも暇人ではないからね。


でもその日以外も、僕は練習は怠らなかった。

何としてでも、氷の壁を作れるようになりたかったから。

フワリに勝ってやる!


いつしか僕の中で、執念にも近い目標ができた。


でも、何事も積み重ねだよ。

積み重ね。


頑張ろうね僕。

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