02. 魔法との出会い

月日は経過して。


僕は家の近くの海岸でちゃぷちゃぷしていた。

ここは小さな島だから、どこに行っても海が近いんだよね。

この島にあるのは、海と、森と、そして小さい山だけ。

あ…そういえば魔物が出る禁足地もあったっけ。


ともあれ、本当に何も無くて小さな島なんだ。


そのくせ、シュカ大陸なんて名前が着いてる。

大陸なんて、この小さな島には荷が重すぎるよ。

僕は大きな海を眺めながら、そんなことを考えていた。

すると砂浜の向こうで、僕に向かって手をふる男の人が居る。


「マリ~ン!、準備できたぞ~!」


「はーい、今いくよ!」


お父さんだ。

今日は、魔法について教えてくれるんだとか。


「今日は珍しく元気いっぱいだな」


「当たり前じゃん! 今日から僕の魔法ライフが始まるんだもん!」


「よし、やる気十分だな! それじゃあ早速…」


お父さんは地面に向けて小さな杖を向けた。

さっそく魔法を見せてくれるらしい!


…カタカタ。


揺れる大地。

何かが起きる…!


なんて時。


「あ」


お父さんは何かを思い出したかのような顔をした。

そして杖を下げ、僕の顔を見る。


「そうそう、初めにこれを教えないとな」


お父さんは人差し指を立てた。


「問題だマリン。 魔法の基本的な属性はいくつあると思う?」


「…えっと…種族の数だけあるんだよね」


「そうだ!」


「うーん…それじゃあ5個!」


「うむ、これは常識だな」


「さすがに知ってるよ」


「それじゃあ次だ。 俺たち人間は、何種類の属性を持って生まれると思う?」


「2種類ずつ! 簡単だよ!」


「それだと50点だな」


「えっ」 


「マリンが言った通り、普通は2つの属性を持ってる。 例えば土と火、土と木みたいな具合だな。 人によって、何の属性をもって産まれるかはランダムって訳だ」 


「じゃあ僕間違ってないじゃん」


「あぁ、普通はな。 だが珍しいが、属性を1つしか持ってない人も居るのさ」


「なんか…可哀想だね」


僕の言葉を聞いて、ニヤっと笑うお父さん。


「マリンは何も分かってない」


お父さんは腕を組みながら、遠くを見る。


「奴らは単属性って呼ばれてな。

俺たちとは比べ物にならない程に強くて、ハデで凄い魔法を使えるんだよ!」


「強くてハデで凄い…!?」


「そうだ。 本当にかっこいいのさ! 世界最強の魔術師イヴも、単属性なんだぞ?」


「僕も単属性なりたい!!」


秒で手の平を返す僕に、お父さんは笑ってしまう。


「いいか? なりたくて成れる物じゃない」


「分かってる! いいから教えて!」


「まぁまぁ、落ち着け」


そういうと、お父さんは再び地面に杖を向けた。

今度こそ魔法を見せてくれるらしい。


お父さんの表情が変わる。


「いいかマリン。 俺たちマウ族は、土属性が得意なんだ」


ひりつく空気。

魔力が集中していくのを感じる。


「マウ族は皆、必ず土属性を持っている。 もう1つはランダムだがな」


「僕もってこと…?」


「その通りだ。 マリンも土属性を持って生まれる」


「うん!」


「そして、もしマリンが単属性ならば…」


「…ゴクリ」


「土属性になるだろうな」


カタ…ッ


次の瞬間。


ズドンッ!!!!


巨大な砂の建造物が出来上がる!!


「…わぁ!!」


なんて華やかな魔法。


「どうだ、すごいだろ?」


「凄い!! お父さんも単属性なの!?」


「馬鹿言え、俺は一般人だ」


「こんなに凄いのに?」


「単属性はもっと凄い。 もしマリンがそうなら、こんな魔法なんて軽々超えるだろうさ」


やってみろと言わんばかりに、こちらを見てくる。


やってみたい!

僕はきっと、単属性!

期待を胸に、両手を砂に突き出した。


少し集中する…。


…。


風向きが変わったような気がした。


…。


波の音が静まる。


…。


魔力を練り上げ…。


…。


…来る!


ぽこっ


なんと砂が盛り上がった!


ちょっとだけ。

豆粒くらい盛り上がった。


豆粒って…。


しょぼい。

すごくショックなんだけど…。

僕の単属性という夢が、一瞬で崩れ去った。


「あははは!」


それを見て、思いっきり笑うお父さん。

でも僕の悲しそうな顔を見ると、思わず笑うのを止めた。


「まあ…気を落とすな。 俺も昔はそうだったからな」


「…うん」


励ましの言葉をかけてくれた。


「それじゃあ、次行こうか」


「次?」


「そうさ。 何も属性は土だけじゃない」


「…そうだよね!」


お父さんは再び杖を地面に向けた。


次は、何が…?


ゴウッ!!


天高く巨大な火柱が上がった!


「これが火属性だ。 火とか言ってる癖に、氷も作れたりもする変な属性だな」


お父さんはそう言うと、再び振りかざす。

すると、パキっと氷のツララが地面から突き出した!


かっこいい!

僕もあんな事したい!

期待を胸に、小さい両手を突き出す。


さっきみたいに魔力を集中させて…。


っぽ


ろうそくサイズの火が灯った。


…。


…。


「はぁ…」


思わずため息をついちゃう。


「まぁ……まだ他の属性も残ってる。 木とか金が得意かもしれないだろ? 諦めるのは早いさ」


「木とか…なんかダサい…」


「何を言うんだマリン! 世界最強の魔術師イヴは、木の単属性なんだぞ!?」


「木属性かっこいい!!」


「よし、その調子だ!」


…。


その後、木属性、金属性と試していく。

でも結果はボロボロ。


僕は、何の属性にも適正が無かった。

火、木、金、土。

ぜーんぶダメ。

なんでだろ。


「おかしいなぁ…普通あり得ないんだけどな…」


さすがにお父さんも焦りが見え始めた。


「もしかしたら、全ての属性が得意なのかもな…?」


そんな言葉で励ましてくれた。


…でもそれって。

結局、得意な属性が無いって事じゃん。

分かり切った嘘。

もう泣きそうだった。


僕は涙がこぼれないように、上を向いて砂浜に寝転がる。


「お父さんはいいな…魔法が得意で」


もうダメ。

どんどん卑屈になっていく。


「羨ましいよ。 僕なんて、何も無いのに」


お父さんは、何を言っていいのか分からない様子。

すごく迷った表情を浮かべている。

迷った挙句、僕の隣で一緒に寝ころび始めた。


…。


…。


何時間も寝転がって。


気付けば夕方。

お父さんは、ずっと隣にいてくれた。


「一緒に頑張ろうな、マリン。 得意な属性が無くても、頑張れば強くなれるさ」


「本当…?」


「…たぶんな」


「やっぱり嘘じゃん」


「でもな、マリン。 そう考えた方が、頑張れないか?」


「…」


僕は無言で頷いた。


「うん…そうだね」


「もう遅いし、帰ろうか」


「…うん」


夕焼けに染まる、夕食時の町を歩いて行った。


いろいろな場所から、美味しそうな香りが漂ってくる。

僕の家も夕食が近い時間だ。


もう、お腹ペコペコ。

今日の夕食は何かな。


シチューがいいな!


そんな事を考えていたら、嫌な事なんてすっかり忘れていた!


「ただいま!」


「マリンちゃんお帰り~」


「あ!キノコシチューだ!」


お母さんは僕を、暖かく迎えてくれた。

夕食の支度をみんなでする。


「美味しい!」


「あらあら」


「だなマリン! ……あ…そういえば…」


3人で夕食を食べている最中、お父さんがハッとする。

彼はシチューを食べながら、僕の顔を見た。


「そうだマリン。 まだ1つだけ試していない属性があったな」


「お父さん、ご飯食べてからね。 シチューに失礼じゃん!」


僕は鋭い目つきで注意する。

誰であっても、シチューを邪魔してはならない。

マリン年代記に記された掟なのだ。


ちなみに年代記とは、神話に出てくる戒律のこと。

全てが謎に包まれた、謎が謎を呼ぶ謎すぎる存在!

神話ジョークです。


…。


皆が食べ終わると、お父さんはコップを用意した。

それを少し遠くの棚に置く。

さっそく、水属性を見せてくれるらしい。


「マリン、今から水属性を見せるぞ」


そう言うと、お父さんは杖をかざす。


コポポ…。


たちまち杖の目の前に、小さな水が生成された。

そしてそれを飛ばし、離れたコップ目掛けて飛ばす…!


しかし。


びちゃ。


呆気なくそれは外れ、近くの本棚をびちゃびちゃに濡らした。

なんか微妙?


「あら、ふかないと」


お母さんが慌てて駆け寄っていく。

それに続いて、お父さんも手伝いに行く。


誰が見ても分かる下手さ。

お父さんはそれを弁明するように、笑って見せた。


「お父さん…、実は水属性はからっきしなんだ」


「水属性、使いどころがあまりないものね」


相槌をうつお母さん。

僕はその言葉に、疑問を投げた。


「そうなの? 使いどころないの?」


「そうよ。 水を飛ばすだけの属性ですものね」


「…なんかしょぼいね」


お母さんの言葉に、僕は思わず溜息を着いた。

それに、お父さんがフォローを入れる。


「研究が進んでないだけさ。 きっと出来ることは他にもある」


「そうなの?」


「まあな。 水の種族プルポ族が存在しない以上、水属性はレアな存在だ。 

単属性も存在してないしな、研究も進まないってわけだ」


「へー」


「…よし!」


ひとまず水を拭き終わり、お父さんはキリっとした表情になった。

今更かっこつけても遅いよ…。


「とりあえず…やってみろ、マリン」


その言葉に、僕は頷く。


お父さんとお母さんの注目が集まる中、僕は両手をかざす。

狙うはお父さんが外したあのコップ。


…。


空気が静まる。


コポ…


両手の前に、小さな小さな水が生成された。

豆粒みたいな大きさ。

お父さんのと比べても、大きく劣るサイズだった。


…あぁ。


結局、僕には才能がないのかな。


でもここから。

まだ終わってないから。


僕は意識をさらに集中させる。


体が急に熱くなってきた。

体中を駆け巡る感覚。


あ!


なんか出来そう!


そして、思いっきり水の球を発射する。


パシュンッ!!!


大きな破裂音が、僕らの耳をつんざいた。

同時に壁が崩落し、埃が舞い散った。


…へ?


僕は、状況は理解できなかった。

でも確かに僕がしたんだという事は、手に残る余韻が教えてくれていた。

これ…ぼくがやったんだ…。

驚きで声が出せない。


「…水の…単属性?」


お父さんがそんな事を呟く。

そしてその顔が、だんだん明るくなった!


「マリン、すごいよ!」


お父さんは僕の手を握る。

その顔は本当に嬉しそう!

なんだか僕も、嬉しくなてくる!


「すごいぞマリン!」


「お父さん!見た?今の!」


「あぁ! ばっちり見たぞ!」


「水の単属性なんて、すごすぎる!」


「…僕、水の単属性なの?」


「あぁ、この威力。 間違いないさ!」


「…ほんと!?」


僕はあまりの嬉しさに飛び跳ねた!


水の単属性。

それは、この世に存在しないはずの物。


それもそのはず。

水属性が得意なのは、この世界に存在しないプルポ族なのだから。

神話では、過去の世界に居たことがほのめかされているけど、結局はこの世界にはいないんだ。

同時に、水の単属性もこの世界には居ないことになる。


…でもどういう訳か。

僕は水の単属性らしい。

マウ族なのに!

土が得意なマウ族なのに!


不思議だよね。


でもいっか!

だってなんだか強そうだもん!

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