第一章 魔法の世界編
01. 天使が来る日
「昔々、創造主を殺した悪い神が…」
また神話?
僕もう聞き飽きたよ。
生まれてこの方、何百回聞かされたんだろう。
僕は抗議のために声を絞りだす。
「あ~ぶ」
「あら~マリンちゃん!そんなに神話が好きなのね! 今日は徹夜で読み聞かせちゃう!」
「ぶ~!」
「もぅ! 可愛い子ね!」
うん、今日も失敗!
幼いって、もどかしいよね。
今日も聞いてるふりして眠っちゃおう。
「むかーしむかし、それはそれはすんごーいむかし。 お母さんが生まれるよりも昔…」
お母さんがいつものように神話を語り始めた時のことだった。
…ガチャッ!
ドアノブが捻られ、重くて大きな木の扉が開かれた。
「ただいま~」
「あらっ!」
そうして、部屋に1人の男性が入ってくる。
ぷにぷにとした頭の触角。
お父さんだ!
僕は嬉しくって、思わず声を張り上げる!
「ばぶぅ!」
「まりーん、そんなにお父さんが好きなのか~!」
お父さんは上着をかけつつ、ベッドに近づいてきた。
「よーし今日はとっておきのお話があるんだ。 題して天変地異!」
「違います! 今日は私の神話の番ですから」
「いつもペタルじゃないか。 マリンも神話ばっかりで飽きてるだろう?」
「ぷ~!」
「ほら! この信仰心のかけらも無い顔を見てみろ。 神話とか絶対に信じてないぞ」
「いいえ、これはママの神話が聞きたい顔です。 なんて神々しい顔なのかしら」
なんか複雑な感情。
親に神々しい顔と言われる子供の気持ち、考えたことある?
「ダメだ! 俺は今日話す話はもう決めてあるんだ。 だれであろうと譲らないからな!」
「このケチ! ドケチ! ド変態!」
「ははっ、それは君の自己紹介か?」
「あ、ついに言ったわね!? なんだか明日の朝食…お砂糖とお塩を間違えちゃう気がするわ!」
「それはいつもの事じゃないか! それでな、マリン。 天変地異ってのは…」
半ば強引に話始めるお父さん。
僕はお父さんの話が大好きだ。
神話なんかじゃなくて、色んな昔話や家の外のことも教えてくれるからね。
そんな僕が一番好きな話は、勇者ベル!
勇者ベルは、なんと6回も魔王から世界を救った勇者の話なんだ!
変な眼鏡をかけたオジサンなんだけど、それが渋くてかっこいい。
誰しもが憧れる伝説のヒーローなんだ!
まぁ、神話以上に嘘くさいけどね。
そして、今日の話はてんぺんちー。
よく分からないけど、美味しそう!
「いいかい、マリン。 昔はな、ここも陸地だったんだ」
「ぷ~!」
「でもな、ある年を境に海面が上昇して……
…。
…。
目が覚めたのはお昼前。
どうやら僕は、今日もお話の最中に寝落ちしてしまったみたいだね。
少し頭痛のする頭を抑える。
結局昨晩、お母さんの神話に持ってかれたっけ。
神がー…神が―…って。
神って本当にいると思う?
僕は居ないと思う。
なんか怖いし。
…そんなことより。
僕は周りを見回した。
…。
うん、誰もいない。
お母さんもお父さんも、仕事に行ったのかな。
つまり僕だけの時間!
僕は地面を這いながら移動する。
そして窓際にちょこんと座った。
窓を見ると、色んな人達が歩いてる。
みんなモフモフで、角とか、しっぽがあったり。
どこか動物のような特徴を持ってる。
マウ族って言うんだってさ。
もちろんお父さんもお母さんもマウ族。
それなら僕だってマウ族のはず…なんだけど、なんか僕だけツンツルテンなんだ。
あ、ちゃんと髪の毛はあるからね?
でも頭から2本の触覚、首からもタコみたいな触手が2本伸びてる。
嬉しいことに、見た目のバランスは意外と良い…と自分では思ってる。
どう見てもマウ族では無さそうだけどね。
悲しいことに、見た目のせいかあまり外に出してもらえないんだ。
マウ族が多いこの島で、他の種族は目立つからね。
僕みたいな不思議な人は、もっと目立つことになるし。
でもね…。
禁止されたら破りたいじゃん!
お母さんには申し訳ないけど、好奇心には代えられないんだ。
今日、僕は悪い子になります。
初めての家出作戦決行!
ということで僕は、玄関までやってきました。
見上げる程の大きな扉!
僕は一生、あのドアノブに手が届かないのかな…?
なんて卑屈になりそうな程の巨大さ。
僕が幼すぎるだけなんだけどね。
手がだめなら…触手かな!
にゅっ…。
僕はダメ元で、首から伸びる触手を伸ばしてみる。
…ペタ。
しかしそれは、意外にもドアノブへと届いてしまう。
なーんだ。
人生って簡単だね。
あとは扉を開けるだけ。
僕は触手をうまい事使って、扉を開けようとした。
しかし…。
「…あぷ!?」
重い!
重すぎて、ビクともしない!
ごめんなさい。
人生さん甘く見てました。
僕は、失意に包まれて扉にうつかった。
その時。
ギギギ…。
あ、押すタイプなんだこれ。
どうやら扉は、押すタイプのものだったらしい。
僕はやっとの思いで開けた隙間から、外へと出る。
目の前には、透き通った海が広がっていた。
それを鮮やかに塗るサンゴ礁。
まっしろに輝く海を囲うように並ぶ、綺麗な家々。
これが…。
外…。
鳥肌が立った。
お父さんが話していた世界が、すぐ目の前にあったんだ。
家の中とは全くの別の世界。
僕は思わず、景色に見とれていた。
その時。
ゴーン…ゴーン…
突然、鐘が鳴りだした。
何の鐘!?
周りを見ても、鐘なんてどこにもない。
どこから鳴ってるの…?
まさか。
空からだ!
空から降り注ぐように、鐘の音が世界に響き渡っていた。
それがなんとも不思議で、幻想的な感覚だった。
もしかして、僕の初外出を祝福してくれた?
そんなわけ無いじゃん。
…そういえば今日は、新しい1年の始まりだったね。
新しい年の始まりの昼には、鐘が鳴るのが決まりみたい。
これを聞いたのは人生で2回目かな。
でも、外で聞いたのはこれが初めて!
すごい!
ワクワク!
うん!
…。
…。
だからと言って、別に何かが起きるわけじゃないけどね。
ただ、神々しい鐘がなるだけ。
たったそれだけの日。
つまんなーい。
僕はペタンと地面に座り込んだ。
疲れた。
僕はもう、人生に疲れたよ。
ここで寝ようかな。
そんなことを思っていたら、僕の顔に大きな影が差し掛かった。
…え?
何か…僕の上を飛んでる…?
僕は好奇心に身を任せ、顔を上げてみた。
すると目の前に、ふわっと真っ白い翼を広げた女性が降り立った!
彼女は顔を前髪で隠し、なにやらポーチを携えている。
誰!?
知らない人だし、おおよそこの島で見かけるような外見でもない。
でも、その神々しさに思わず見とれてしまう。
まるでお母さんの神話の中に少し出てきたような…。
これって天使…?
本物だ。
作り話じゃなかったんだ!
僕の世界が、急に色ずいていく。
幻想だと思っていた世界が、本当は実在していたんだ!
天使はゆっくりしゃがみ、僕に手紙を渡してきた。
「…」
何も喋らない。
顔は見えない。
でも、きっと素敵な表情をしてるんだと思う。
さっ…。
彼女は一言も発さず飛び去って行く。
周りを見ると、たくさんの天使が手紙を配達しているのが見えた。
みんな当たり前のように受け取っていく。
僕が知らなかっただけで、これは日常の一部らしい。
それはそうと、僕は受け取った手紙に目を移した。
天報…だってさ。
何が描かれてるんだろう。
中を開いてみる。
9980年 神界序列
1位 創造主
2位 エルフ
3位 マウ
4位 ドラゴ
5位 ミガ
6位 ドワーフ
7位
どこかで見た事あるような名前達。
ピンときた。
神の名前だ。
神話で散々聞いた名前たち。
7位が空欄なのは、水の神が死んだからなのかな。
…だとしたら、神話の通り。
神話は嘘じゃなかったんだ!
天使が居るなら、神も居るってこと!?
世界がもっと面白く見えてきた。
ワクワクが止まらない!
僕はたまらず、嬉しくてはしゃいでしまった。
子供だから仕方ないよね。
はぁ…。
疲れちゃった。
家に戻ろう。
さて、またあのドアを開けなくちゃならない。
でも今度は、さっきよりずっと重いんだろうなぁ。
どうやって開けよう。
僕はそんなことを考えながら、家の方へと振り向いた。
すると…。
「マーリーンーちゃん」
そこには、家の前に仁王立ちするお母さんがいた。
忘れてた…。
お昼頃にはお母さんが帰ってくることを。
彼女は病気がちで、長くは働けないのだとか。
でもそれを感じさせないほどの迫力で、僕にお説教を垂れ流した。
「マリンちゃんは! もうマリンちゃんったら!! ごにょごにょごにょごにょごにょ……」
そうしてよく分からない呪文が、夕方まで続いた。
さすがに長すぎる!
僕は反旗を翻すため、部屋の隅っこでいじけて見せみたり。
絶対動かないもんね!
死んでも動かないもんね!
しばらくいじけていると、見かねたお母さんが近づいてきた。
「ごめんね、マリンちゃん。 言いすぎちゃったね」
「ふん!」
「今夜はマリンの好きなキノコシチューにするから、許してね」
きのこしちゃー!?
これは、僕の世界一の大好物だ。
思わず、お母さんに甘えだす。
「はぷ~」
「あら~、ちょろい子ね!」
僕はちょろい子らしい。
それからすぐに、料理の支度を始めるお母さん。
僕はそれを眺めていた。
空中に浮いたニンジンやジャガイモが、スパッと切れる!
それを鍋に…。
「あら!」
お母さんはそこで、水を沸かしていないことに気付いたみたい。
鍋に手をかざすと、たちまち水が湧き出てくる。
なんて思っていると、次の瞬間にはぐつぐつと沸騰!
見れば見るほど訳が分からない。
あれってどうやるんだろう。
…意外と僕にも出来たりして?
思い立ったら吉日。
僕はさっそく、試してみることにした。
丁度近くにある、手頃な花瓶に手を向けてみる。
「ん~」
…。
踏ん張ってみるも、何も起きない。
何かが違うのかな。
今度は意識を集中してみた。
全身の神経を花瓶に向ける。
……。
カタカタ。
カタカタカタカタッ
動いた!
僕にも出来たよ!
あまりの嬉しさに、気分が高揚した。
次の瞬間、花瓶が爆ぜた!
パリンッ!!
へ?
予想外の出来事に、頭の中が真っ白になった。
それを聞きつけたお母さんが、慌てて駆け寄ってくる。
「マリンちゃん!? 大丈夫? 怪我はない?」
僕はうなずく。
お母さんはホッと胸をなでおろした。
そして割れた花瓶をじっと眺めながら。
「花瓶…消費期限がきたのかしら」
消費期限!?
お母さん、さすがにそれは無理があるよ…。
ひとまず、ばれずにその場をやり過ごすことが出来た。
それからはイタズラもせず、僕は大人しく座っていた。
またあんなことがあれば、困っちゃうもんね。
キノコシチュー
キノコしちゃー
キノコしちゃー
…。
「は~い、ママ特製のポトフよ~!」
「シャー!!」
「あら大変! マリンが威嚇してるわ!」
「ペタル、また何かしたか? 料理間違えたとか?」
「……あら!」
お父さんの言葉で思い出したのか、お母さんは慌ててクリームやソースを作り投入、
シチューにしようと奮闘した。
ただ元がポトフなだけに、少ししょっぱい味。
お母さんは天然すぎるのかもしれない。
でも、なんだかんだで美味しかったよ。
その夜、天使から貰った手紙を眺めていた。
神かぁ…。
いつか…あってみたいなぁ。
なんて、見えない世界に思いを馳せていた。
でも天使は見えるし、神もみえるんじゃないのかな?
どちらにせよ、会ってみたいなぁ。
そばにいるよ
…え?
突然、僕の頭の中に変な声が聞こえてきた。
誰?
何?
分かんない。
なんだか、今日は不思議なことばっかり。
考えるのも疲れたよ。
僕はそのまま、眠りについた。
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