鬱ゲー世界の名無しモブですがハッピーエンド以外認めません

ねうしとら

第1話 プロローグ

 異世界転生。それは、日本のサブカルチャーにおけるジャンルの一種で、元々は二次創作や同人などで用いられることが多い、所謂内輪ネタとしての側面が強かったジャンルである。

 しかし、現在ではライトノベルにおける王道ジャンルのひとつとして数えらるほど成長し、異世界無くしてラノベ無く、と俺の中で勝手に結論づけているほど人気な分野のひとつである。


 そんな異世界転生には割と短くない歴史が積み重なっており、ジャンルとして細分化すればそれなりの数にはなるだろう。


 そんな異世界転生を俺はこの身で経験した。


 異世界と言っても中世ヨーロッパ風のファンタジー世界ではなく、現代日本を舞台としたゲームの世界だ。


 それ故に、最初はただ日本に生まれ直しただけかと思った。


 赤ん坊の頃から自我が存在するというなんとも形容しがたい感覚の中、収集できる情報は悉く集め、ここが2010年頃の日本だということに気づいた時には大喜びだった。


 おかけでオムツに粗相をしてしまった。別に赤ん坊なら何らおかしな話ではないんだけどね。でもやっぱり俺にもなけなしのプライドってものがあるものさ。


 話は戻して、文明が十分に発達して、サブカルチャーも豊富になってきた時代に生まれた俺は、これが所謂、強くてニューゲームだと、俺TUEEEEだと、信じて疑っていなかった。


 だって考えてみてほしい。転生したと思ったら現代日本で、文明も文化もなんら前世と違いがない。ある程度漠然と未来を知っている状態で転生したと考えてもおかしくはない状況なのだぞ?


 そんな状態で浮かれることは無いと?ほんとに?ほんとにそう思う?まあ少なくとも俺は無理だったよ。浮かれまくりよ。


 ストーリー終わらせてエンドコンテンツに入ったくらいの腑抜け感はあったよ。


 だが、そんな希望もあえなく立ち消えることになった。


 事の発端は俺がまだ一人で立つことができないで、ベッドの上で暇を持て余していたある日のことだ。リビングに設置してある液晶テレビで流されていたニュース番組のキャスターが放った一言。


「『終末の十日間』から三年が経過しました。復興作業は世界各地で滞りなく進展しており……」


 まるで聞き覚えがない単語がさも当たり前かのように語られたときの気持ちは知っているだろうか。


『終末』などという物騒な単語に、『復興作業』ときた。それも世界中でだ。絶対にろくでもないことが三年前に引き起ったのだと言うことは直感的に理解した。


 一切聞き覚えのない、いや、聞き覚えならあった。前世でだ。だが、こんな真面目にニュースで取り上げられるような単語ではなかった。少なくとも、俺の常識では。


 しかし、聞けば聞くほど真面目に語られている始末。キャスターの読み上げに、コメンテーターが真面目に持論を展開している。


 あー。これは……転生は転生だけど異世界転生ですねぇ!!


 と、俺はこの時、真に悟ったのだった。




 △




『異界の鍵』と呼ばれるゲームが前世で発売されていた。ジャンルはRPGだ。対象年齢は全年齢版とR18版がリリースされていたゲームである。


 このゲームを一言で表すのなら、鬱ゲーという表現が適切だろう。


 本作の魅力はその重厚なストーリーにあるのだが、驚くことにエンディングが数十種類ほど存在し、そのほとんど全てがバッドエンドやデッドエンド。唯一のトゥルーエンドでも、結末としては奥歯に魚の小骨が挟まったようなもどかしさを感じる内容であるのだ。


 評価としては賛否両論で、ストーリーは確かに良かったけど、もやっとした終わり方に不満を持つ人もいれば、こういうのがいいんだよこういうのが。という、サブカルにどっぷり漬かった人間からは比較的評判が良かったゲームではある。


 界隈ではそれなりの知名度を誇り、大手ゲーム会社が出すゲームハードでもダウンロード版が配信されていたため、プレイするにあたって敷居もそれなりに低かった。


 一時期SNS上でインフルエンサーに取り上げられ、そのあまりの救いの無さとキャラクター

の可愛さで話題となったゲームでもある。ゲームソフトとしては中堅どころを維持していたそれなりに人気のゲームだ。


 さて、何故俺がこんなことを説明するのかと言えば、まあ理由は一つしかないだろう。


 そうだ。この世界はゲーム『異界の鍵』の世界観と酷似している。

 この世界がゲームの世界だと断定できるかはさておき、世界観として前世のゲームと同じものを共有していることは間違いない。


『エーテル』だとか『終末の十日間』だとか『聖域』だとか『超常現象対策局』だとか、ゲームの世界でしか聞いたことのない固有名詞で溢れていた。


 最早疑いようもないだろう。ここは、俺が知る前世のゲームと同じ世界観なのだと。あの鬱ゲー世界なのだと。


 ……何が悲しくてこんな世界に転生しなくてはならなかったのだろうか。


 そもそも、この世界が俺の思う通りの世界ならば、普通に危険が一杯だ。下手したら普通の生活を送っているというのに何かに巻き込まれてコロッと逝ってしまう可能性はそれなりにある。


 創作として暗い世界観のストーリーを楽しむことは俺だって好きだ。曇らせだってどんこといだ。


 しかしながら、実際に自分がその世界に生きたいかと思うかどうかはまた別の話であって、大多数の人間はそれなら転生しなくてもいいかなって考えるのがオチだろう。


 やはり、人間みな自分に都合がいい展開がお望みなのだ。

 

 だが、俺はここでひとつ思い至る。この世界はゲームの世界だが、ゲームでは無いことに。


 何を当たり前のことをと言う人はいるだろう。しかし、これは重要なことなのだ。


 この世界はゲームの世界に沿っている。ならば、ゲーム内で分岐していたストーリー展開はどうなる?


 よもや全ての分岐ルートを回収するなんてことは不可能だろう。というか普通に無理だ。世界はひとつしかないのだから、未来はひとつしか訪れない。


 ならば考えられることはただ一つ。あの鬱ゲーとまで呼ばれたストーリーの分岐ルートの内どれかひとつがこの世界の未来となる。


 普通に嫌だ。主人公やヒロインが凄惨な死を迎えるのも嫌だし、ルートによっては世界滅亡なんてこともありうるのだ。


 嫌だわそんな世界。


 え、何もしなかったらワンチャン世界滅びますよRTA?そんな馬鹿な……。冗談でももっと面白いことをですね……。え?冗談じゃない?


 冗談じゃねぇのはこっちのセリフだバカヤロウ!

 

 ああ、ならやってやろうじゃねぇか。主人公もヒロインも世界だろうがどんとこい。


 そもそも俺は暗いテイストのストーリーよりもみんなで笑顔になれるハッピーエンドの方が性に合ってるんだ。


 暗い結末は俺自身が介入することで変えてやろう。


 ここで俺はひとつの誓いを立てた。ヤケになったとも言う。


 すなわち、主人公もヒロインも世界だって救ってみせる。


 首を洗って待っておけ。今に異世界転生者によるご都合主義が火を吹くからなァ!


 俺たちの戦いはこれからだ!

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