第3話
転生してから約1年――俺の体はようやく思い通りに動き始めた。
俺が転生した場所は、まぎれもなく孤児院だった。
この孤児院は小さな村のはずれにあった。外壁は石造りで、長年の風雨にさらされて黒ずみ、所々に苔が生えている。扉や窓は木造で、ひび割れが目立ち、屋根は急勾配の瓦屋根で、少し欠けている部分があったり、全体的に古びているのが印象的だ。
裏手には広い庭が広がり、庭の一角には手動ポンプがついた井戸がひっそりと佇み、静かな水音を立てている。
庭の先には低い石垣が続いており、遠くには村の広がる草原が見渡せる。
周囲には農地や木立が広がり、村の中心にある教会から鐘の音が風に乗って聞こえてくることもある。村そのものは静かでのどかな場所で、道を行き交う人影もまばらだ。村人たちは、時折この孤児院に野菜や果物を持ってきてくれる。
温かな人々の支えを受けながら、この孤児院は静かに、しかし確かな役割を果たし続けている。
ただ、普通、孤児院といえば、さまざまな年齢や性別の子供たちが共に暮らす場所だ。しかし、この孤児院は明らかに普通とは違う。
普通の孤児院じゃ考えられないよな……。
そう、ここには、俺と同じくらいの年頃の少女たちが7人だけしかいない。
少女たちの顔立ちは、どの子も華やかで目を見張るほど整っている。
幼いながらも将来の美貌を予感させる彼女たちが揃いも揃ってここにいるのは、明らかに異常だ。
隣の布団で寝ている少女、グロリア。薄い金髪に澄んだ青い瞳が印象的で、いつも俺の動きに興味津々な様子を見せる。何かを始めると、すぐにその動きを真似しようとしてくる彼女は、感が鋭く観察力も高いようだ。
その隣には、白髪に薄緑のインナーカラーが映えるセシリアがいる。彼女はまだほとんど表情を見せることがないが、その鋭い目つきは周囲をしっかり観察しているのを物語っている。
さらに目を向けると、赤みがかった赤髪が特徴のフレイヤ。しっかり者に見えるその雰囲気は、どこか落ち着きを感じさせる。一方で、どこかぽやっとした雰囲気を纏う、黒髪のアグネスは、何を考えているのか掴みづらいが、どことなくマイペースだ。
その他にも、凛とした茶髪のアメリアは、幼いながらも意志の強さを感じさせる瞳を持つ。活発的で黄褐色の髪が印象的なヴァネッサは、布団の中でも手足を動かし、エネルギッシュな一面を覗かせている。そして、鮮やかな青髪を持つウェンディは、どことなくおっとりした空気感を纏いながらも、時折周囲をじっと見つめる姿が印象的だ。
まだみんな言葉を交わせる年齢ではないが、それぞれが持つ個性は驚くほど鮮明だ。
また、この孤児院には、俺たち8人以外には年上の世話役が2人いる程度で、人数は非常に少ない。
こんな環境、前世では聞いたこともない……。
俺は体を起こして、視線を巡らせる。
年齢も近く、容姿も恵まれた7人の少女たち。まるでどこかの王族や貴族の娘たちが寄せ集められたような光景だ。だが、どうしてそんな子たちが孤児院なんかにいるのか、その理由はわからない。
彼女たちがここにいる理由は不明だが、ひとつだけ確信していることがある。
俺と彼女たちが出会ったのは偶然なんかじゃない。
きっと、何か大きな運命が俺たちを引き寄せたんだろう。
「この場所から出て行く時が来たら、きっと……」
俺はそう心に誓い、小さな手に力を込めた。この孤児院が珍しい場所であるなら、そこから始まる俺たちの未来も、きっと特別なものになるだろう。
よし、それじゃあ、最初は、この世界について調べてみるか。
俺はベッドをよちよちと這いながら、ふと、隣の部屋にある本棚のことを思い出す。そこにはいろんな本がいくつか置かれていて、そのほとんどは難しそうな文字が並んだものばかりだ。だが、まだ読み書きはできないので、あれはパス。
それに今は、ベッドから出て動けるようになっただけで、まだ足元が少しふらつく。無理に立ち上がって本棚に向かうのはまだ少し怖い。
俺は一瞬考え、部屋の隅にある椅子とテーブルに目を向けた。
そこには絵本がいくつか置かれていて読み書きのできない、今の俺にはちょうどいいだろう。
ベッドの柵を乗り越え、少しふらつきながらテーブルに近づく。
テーブルは、今の俺にはかなり高い。両手をついて、慎重に足を運ぶ。
テーブルの角に手をかけて、背を伸ばそうとするが、どうしても体が追いつかない。
少し息を呑みながら、俺は思い切って、椅子の方に目をやった。
椅子はテーブルよりずっと低く、少しだけ近くに感じる。
だが、それでも座るには一苦労だ。
必死に椅子の座面に手をかけ、膝に全力を込めて持ち上げる。体がふらつき、まるで倒れそうな感覚に襲われながらも、なんとか座り込むことができた。
座った瞬間、緊張が解けるように肩の力がふっと抜け胸の奥から安堵の息が漏れる。
ふぅー、危なかった…。
改めて目の前に並んだ絵本に視線を移し、少し安堵した気持ちで手を伸ばす。
本のカバーには白黒で描かれた動物たちの絵が細やかに描かれ、ページをめくるたびに、白黒のイラストが次々と広がっていった。
そのシンプルでありながら深みのある表現に、思わず心が引き込まれ、物語の世界が少しずつ俺を包み込んでいくようだった。
※ 初心者です。誤字報告やアドバイスお待ちしてます。
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