ブックタワーを攻略せよ!

もち雪

第1話

 2040年の日本。


 人々の書籍離れは昔より深刻なものとなっていた。人々は人気のweb小説サイトを中心として、なんならかの文章をwebにて発表する人類総小説投稿者時代を迎えつつあった。小説は読む物から自ら書くものになり、web小説の規模は大きくなるものの、書籍の売り上げはなかなか苦しいものとなっていた。そんな状態に、一石を投じる出来事が起こる。


 2040年、この年の秋、長年web小説サイトをけん引して来た『カクリ!』が進んだ化学技術を使い、配信型映像×小説のコンテンツ事業を発表したのだった。


 それを初めて、「カクリ!」のウェーブサイトのお知らせを見て確認した時、自分、夜見ヨミには、まるで他人事である。


 そして2040年の冬に実際運営が始まり、投稿者がVTuberの姿を借りて『ブックタワーを攻略せよ!』が開始されるも、投稿者達の執筆の仕方をまとめた、数多くの切り抜きを視聴し勉強はしたが、「カクリ!」の運営の動画をまだ見る事はなかった。


 しかし運命と言うか、運営は突然、夜見をその当事者とした。


 道路をただ歩いていた夜見は、「カクリ!」のブックタワーに召喚されてしまうのである。


 人気声優が、投稿者達に宣告する。


「web小説サイト『カクリ!』の投稿者のみなさん、私はブックタワーのゲームマスター『F』です。みなさんにはここ、ブックタワーで一週間生活して貰います! その間に、☆100行く小説を皆さん3人の力で生み出していただければブックタワーの予選はクリアーです。貴方達三人の人選は、お知らせの通りいままの実績で他のグループと平等に人員が割り振られているので、変更はできません! この映像は、次のコンテスへの参加者グループのみ配信される予定なのでそれを考慮して生活してください。それでは皆さん頑張ってくれたまえ」


 「凄い……人気声優の薩摩さんの声だ……。アニメの台詞を言って欲しい……」


「薩長同盟の絆は、決して絶えない! それは僕の命がたえてもだ!!」


「すごい……。言ってくれた……、「愛燃える☆薩摩同盟」頑張ってください」


「ありがとう! では、検討を祈る!」


 夜見は、満足し改めて辺りを見回すと切り抜きで見た、個人用の執筆室に居る様だ。落ち着いた色の壁紙のある部屋に、簡易的なテーブル、椅子。テーブルの上にはパソコンが置かれていた。


 そしてこの部屋に2つある入り口の内の1つ、テーブルの背後にある入り口から出ると、もう先に他の投稿者が丸い机を囲む様に2人の男女が座って居る。


 最初の一人目の日本人形の様に美しい和服の女性。

「私、「カクリ!」では、和美と名のっています。よろしくお願いします。お茶の教室からの帰りに、ここへ飛ばされてしまったのでこんな格好で失礼します」


 2人目は、清潔感のあるサラリーマンの男性。

胡桃くるみの祈りです。よろしくお願いします」


 そう言うと彼は、私達に名刺をくれた。胡桃の祈り先生。ランキング上位で書籍化作品もある胡桃の祈り先生に会えるなんて、夢の様である。むしろ夢であって欲しいのだが……。


 3人目は、自分である。

夜見ヨミです。初心者ですが、よろしくお願いします」


 こうしてブックタワーの攻略者の紹介が終わると、夜見はある疑問を口にする。


 「あの……私、ブックタワーの参加者の申し込みしてないのですが、これは運営の手違いですかねぇ?」


「あっ、このブックタワーの参加者申し込みは、現在アクティブな投稿者には、既にチェック欄にチェックが入っているからそれを外す方向でないと出場者とみなされるんだ。出場する気のない主人公が、事件に巻き込まれるのは王道のストーリーだから、運営もそこは外せなかったんじゃないかな?」


 胡桃の祈り先生が、親切にお答えくださる。神か……!?


「はぁ……。そんな……」


「それにこの配信を通し、投稿者の交流と執筆テクニックを間直に見る事によって、執筆技術の向上を狙っています。そしてうちのチームはラッキーな事に胡桃の祈り先生がいらっしゃいますが、他のチームでも上のタワーへ登る事により、実際に書籍を執筆していらしゃる現役小説家の先生からなんらかのアドバイスがもらえるらしく断る投稿者は少ないと運営は思っているのかもしれませんね」


 和美さんも親切にそう教えてくれる。この方も神!? 神ふたりに挟まれ、気後れするが、これで攻略のめどは立っている様に思われる。


「私、一応次回作に用意しておいた下書きはあるにはあるのですが……」


 和服美女和美さんは、そう申し出てくれ、私達はこのブックタワー用携帯型端末の使用方法を確認しつつ彼女の作品を見せて貰った。


 彼女の作品は、BLでキャラの個性、構成力、会話運びまですべて素晴らしかった……。しかし残念ながら「カクリ!」の『性描写有り』の規定のR15を、上回る物だった。


「和美先生、とても素晴らしいのですが……これでは、私達の存在自体がバーンされてしまいます」


「ですよね。私もそう思いまだ、エッセイしか出してないのです……」


 和美先生のエッセイを調べるとわたしもフォロー入れていて、ランキング上位だった……もしやと言うか、確定で私がこのチームのハンディー枠だとわかり心の中で涙した。そしてこのコンテンツ、エッセイ部門は合否認定枠に、今回は入ってないのである……。悲しみの連鎖であった。


「今だけ、この作品をR15にして貰うわけにはいかないでしょうか?」


 この場さえ乗り切れば、シャバに戻れる。そんな事を思い、生意気な提案ではあるがあえてそう提案してみる。


「いえ、この作品はこれで完成なので、クオリティを落とす事など私には出来ません」


 和美先生は、静かに、そう静かに燃える意思でそう話した。


 ――デスヨネ……。


「そうですよね。余計な、失礼な事を言いました。すみません」


「いえいえ、お役に立てずもうしわけございません」


 先生は、優しくそう言う。やはり神!


 私達の視線は、神、胡桃の祈り先生に向いた。そして神は言った。


「ごめん、今違うwebサイトのコンテストで上位にいるから、書く余裕なくて……。こんなに早く開催されるとは思ってなかったから……」


「「では、夜見さんは?」」


 二人の視線が、今度は一斉にこちらへ向く。


「えっ!?、私は、☆100は、全小説合わせても一生かかるプロジェクトになりますよ!?」


 自分の状態を、分析し、正直に二人に話す。


「でも、ここは小説の勉強の為の場所だから、グループ制作だから手直しなどは手伝いますわ」


 和美先生は、優しく自分を諭し。


「そうだね。まずプロットから作ってみてくれたら、助言など出来るよ」


 胡桃の祈り先生は、建設的に小説のあるべき道を示した。


 幸にして、個別の室内にはすぐに家の部屋と同じ物が運びこまれる。料理は思いのほか、ブックタワーには人が居るのか、ほっかほっかの給食が3食提供される。ハウスキーピングも入り、至れり尽くせりであった。


 しかし室内環境や、食事が整っても、その後は、長い、苦しい道のりだった……。ある日、和美先生が……。


「R18の小説サイトへあの作品を、投稿したら初日のPVの数が凄くって」


 と言っていたと思ったら、三日後に、やっとつきとめたweb小説サイトで見たら余裕で、☆100を超えていたので自分もブックマークして、こっそり読んだり。


 胡桃の祈り先生が、夜中に「この頭脳疲労には、甘い物だ……」と、いい出し運営と揉めてなんとかあんぱんをゲットしてたり、神の個性は思いのほか強く大変だった。


 そして自分もやっと書き上げた投稿を、お二人に手直しをだいぶして貰い、何とか投稿の時を迎えた……。


 ――内容が、童話からBLになってたりしたが、まぁそれはそれであった。


 手直しの時に、和美先生と胡桃の祈り先生が『性的描写有り』の基準範囲について、本気でもめだしもしたが、それもいい思い出だ。


 結果として、一週間の最後の日なんとか☆100へ行く事が出来た。


 ファンファーレがなり、ふたたび人気声優の彼が、私達に祝辞しゅくじを述べた。


「おめでとう! 投稿者の胡桃の祈りさん、和美さん、夜見さん! 幸運な君たちへの次回のブックタワーの2階の戦いについて説明しておく! 次回のブックタワーは持ち込み自由の対抗戦だ! 今回と同じメンバーによって、最終日の1週間後の総合の☆数で、上位100チームだけ次の階へ登る事が出来る。チームメンバーから欠員が出た場合は、そのままの人数で次回の戦いを戦って貰う。では、検討を祈る」


 「合言葉は、「「ブックタワーを攻略せよ!」」」


 先生、お二方はカメラに向かって笑顔でバイバイと別れの挨拶をする。その横で私は、頭を抱えて退場となった。


「本当にどうしてこうなった!!」


 私のこの言葉は、久しぶりの我が家に悲しく響くのだった……。



                おわり



 たぶん、続きませんが、気が向いたら書くかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブックタワーを攻略せよ! もち雪 @mochiyuki5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説