第弐拾伍撃 無勢
「サーチモード起動」
「サーチモード、キドウシマス。3キロケンナイ、テキキタイ5870タイケンチ。バカトアホハイマセン」
高層ビルの屋上に身を隠して、敵機体の位置を探る。
爆発音が響き、所々で人々の叫び声が聞こえる。
下では巣を突かれた蜂のように、うじゃうじゃ敵が敵が集まり始めた。
あたしが水中の偵察を終えた直後に、緊急警報が鳴ったのだ。
ゲロッテと喪女がしくじったに違いない。
警報が鳴った直後にあたしは待機させていた玩具箱を起動して、漆黒の機体改めブラックエンジェルさん通称BAさんを放ったのだ。
趣味の悪いデザインを一新して、形状はΔに近づけた。
万が一の際にパーツの互換性がある方が都合が良かったのと、デコイとしての機能を見越して設計した。
今下で戦っているのはオートパイロットのBAさんで、あえて派手な立ち回りをさせている。
少しでも気を引いて2人のアホが逃げる時間を稼げればいいのだが、流石にあの数は今搭載している戦闘AIで処理し切れるか疑問だ。
ズームして見ると、この軍事施設では戦闘機体ではなくパワードスーツ型を採用しているようで、マッチョな軍人達が機械を纏い駆け回っている。
ここで行われているワーフェスはヴァナへイムとは趣向が違うのだろうか…何にせよ生身の人間を戦わせるなんて、趣味が悪い。
「まるで戦争ね。あたしが言えたことじゃないけど」
あたしは死場所を探してヴァナへイム島へと辿り着いた。
ここでむくつけき男達に囲まれて散るのもやぶさかでは無いのだが、何やら道半ばのような心持ちで不完全燃焼になることは否めない。
どうせなら全てを破壊してからでないと気が済まない。
あたしは今この瞬間をときめく趣向から、完全にゲームクリアを目指す冒険者思考にシフトチェンジしている自分に気がついた。
命が惜しいわけじゃ無い。けれどここで死んだら、負けた気がする。
もちろん2人のアホが捕まっても、ミッション失敗だ。
「はぁ…やっぱりパーティなんて組むもんじゃ無いわね」
(2人とも、見つかるにしても早すぎるし、合図くらいしてよね)
無線を入れても返答がない。
(ちょっと、聞こえてるんでしょうね?あとでお仕置き…)
(今それどころじゃないですぅうううう!!)
ようやくぷに子氏が応えた。後ろで銃声が聞こえたので戦闘中のようだ。
(全くしょうがないな。L3ボタン押してごらんなさい)
(L…3っ?!3なんて無いですっ!あっ、あっ!ひぃっ!)
(コントローラの左の背面にあるでしょ)
(う…これですかっ?…ぎゃっ!)
おぉ、ぷに子氏がεのプラズマボムを発射したようで、管制塔の側面が派手にぶっ飛んだ。
(うふふ…じゃあ後は上手くやりなさい。最悪εを装備してゲロッテを守ってあげなさいね。5分後に地点F-382に集合よ)
「みかんちゃん、オールレンジモードのトップスピードで駆け抜けたら外周何秒?」
「ガイシュウヤク18km、スイテイ180ビョウデス」
「ほう、腕を上げたわね。オールレンジモード起動」
「キョウエツシゴク。オールレンジモードキドウシマス」
「よーい、どん!」
あたしは高層ビルから飛び降り、勢いよく壁を蹴って地下都市の端を目指した。
先程、軍事基地で拝借してきたキューブ型の小型爆弾を冷却装置と思しき大型の機械に設置して回る。
正直全てに仕掛けるのは不可能だ。ステルスモードを常に起動しているとは言え、いずれ何処かでセンサーに引っ掛かるか、監視カメラのサーモグラフィに映るだろう。
水の中で確認した上層まで続いている排熱設備は、少なく見積もって100はあった。
拝借した小型爆弾は3つしかなかったし、上から確認した最重要設備だけに絞る。
ダッシュで2つ取り付けセットして最後の大型排熱設備に向かう途中に気がついた。
このままだとBAさんと約5000体の敵機のお祭りの間を駆け抜けることになる。
盛大なイベントは嫌いではないけれど、その後にまた水中で作業があるのだ。
「仕方ないわね…」
「ショウジュンケンチ」
「ぶおっ!?」
自動回避が作動した。ステルスモードなのに見える奴がいるらしい。
振り返るとスカウターをつけて、大型のパワードスーツに身を包んだ、如何にも鬼軍曹的なオッサンが銃口を向けていた。
「こそこそ隠れてんじゃねーぞ!正々堂々俺と勝負しろ!」
「オルキス二等兵っ!何をしているっ!T-18は特殊訓練課程修了者以外は…」
「うるせえ!あいつが親玉に違いないんだっ!」
ご明察。見た目は百戦錬磨の将軍と言われても遜色ないのに、階級は二等兵でおまけに軍法会議モノの軍規違反w
「その気位、気に入ったよ」
あたしはステルスモードを切って、熱気沸る男達の前に姿を現した。
燦々と眩い太陽に照らされたみかんの様に輝くド派手なオレンジの機体が、無機質な未来都市に唐突に現れ、機械に包まれたマッチョ達はあたしに視線が釘付けられる。
アイドルはこんな気分なのだろうか…筋肉の塊達に視姦されるのは、何やらこそばゆく蠱惑的だ。
そしてファンの皆様には大事なお話がある。
「Uyuni_Botterただいま参上っ!」
「出やがったな!ミンチにしてやるぜぇえ!」
この見た目だけラスボスと、それを止めんとしていた数名のパワードスーツ小隊を相手するのは然程難しくはないだろうが、思わぬ伏兵も予想される。油断はできない。
「ジェノサイドモード起動っ!コードテレポート!」
「ジェノサイドモード、キドウシマス」
「さあ、行くよっ!」
あたしは目にも止まらぬ早さでジェットを焚いて、デカブツの後ろをとった。
そこまでは覚えている。突然目の前が真っ暗になり、あたしはその場に倒れた。
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