第弐拾陸撃 破壊

「う…ん…」


「バイタルアンテイ、ヨウヤクオメザメデスカ。オネボウサン」


気がつくとあたしは戦場を飛び回り、複数の敵機となんちゃって将軍と戦闘を交えていた。


「うぉらああ!」


流石は軍隊で非常に統率の取れた射線管理をしているのに、デカブツの単独行動で戦線がめちゃくちゃになっている。


「何が…」


「テレポートハフタンガオオキイヨウデスネ」


ダッシュでジェットを焚く時にクラウチングスタートのように頭を下げる癖が仇となった。


そうしなければ少しのバランスで足だけ先立ち、予期せぬサマーソルトになってしまうからだ。


コードテレポートは膨大なエネルギーをジェットに集約させることにより、瞬間移動にも似た高速移動ができるモノだが、瞬間的に過剰なGがかかりブラックアウトしたらしい。


あたしが気を失った瞬間にみかんちゃんがオートパイロットを起動させて今に至ると言うわけか。


そうこうしている間にシールドに表示されたタイマーが140を切った。


「いかん!遅刻するっ!みかんちゃんフライトモード起動!D-pop発射!コード特殊召喚!」


「D-popハツドウ、コードソウシンシマシタ。トクシュショウカンマデ…12…11…」


小型の煙幕を放ちフライトモードに切り替えたあたしは、瞬時にシールド上の位置関係を目視する。


「ステルスモード起動」


「8…7…ステルスモードキドウシマス…4…3…」


すぐさま風を切る音が聞こえ、大きな衝撃と共に勢いよく煙幕が晴れる。


漆黒の機体が突如として目の前に現れた軍隊は動揺している様子…しかし見た目だけ将軍だけは猪突猛進にBAさんに突っ込んで行った。


口惜しいけれど、ここいらでお暇させていただきましょう。


BAさんはあたしの分霊箱、硬度と耐久力の極致だ。


「壊せるもんなら壊してみんしゃい!みかんちゃん、飛ぶよっ!」


「ソクテイカンリョウ、チテンF-382マデ67ビョウ」


(おバカちゃん達、ちゃんと合流地点に向かってるんでしょうね?!間に合わなかったら置いていくからねっ!)


(無茶言わないで下さいぃいい!)


「みかんちゃんちょっと操縦お願い」


「ショウチイタシマシタ。ワルダクミデスカ?」


あと40秒ほどでプログラムを組む必要がある。流石に時間がない。


これほど時間に追われて集中するのは、夏休みが始まる前日に課題を全て終わらせた時以来かな。


暫くして2人が大量のパワードスーツに追われているのが見えた。


ぷに子氏はεを装備している。よろしい。


「コード特殊召喚!BAさんのパイロットをシャルロッテに指定!εの権限を剥奪!」


「ユウガナセイカンヒコウトイウワケデスネ?」


流石はみかんちゃん、とっても賢い。


(ε!ゲロッテを連れてきなさい!BAさんはシャルロッテに装備!)


(ゲロッテトイウコタイハ、トウロクサレテイマセン)


(シャルロッテのことだよ!全くεちゃんは頭が硬いんだから)


(イタミイリマス)


背後から風を切る音が聞こえると同時に、ε(ぷに子氏入り)がシャルロッテを抱き上げジャンプした。


飛んできたBAさんがシャルロッテに強制装備される間の刹那、あたしは照準が2人に向かない様に、眼前の肉ダルマ達に突っ込んだ。


「フレア!」


あたしは身を180°反転させて切り返すと同時に、フレアを発射した。


フライトモードでは戦術が限られるのだが、今は切り替えている時間も惜しい。


(ソウビカンリョウ)


「ε、BAさんに補助ベルト連結!ステルス付与!」


(Ladies and gentlemen, we have been cleared for take-off. Please make sure your seat belt is securely fastened.)


ポーンという音が鳴り、シールドの画面にシートベルト着用サインが出た。


「ε!レールガンありったけ発射!みかんちゃん脱出するよ!」


εには単独飛行モードが無い代わりに、限界まで火力を搭載してある。


(テキキタイホソクカンリョウ、レールガンハッシャ)


横にベルトで繋がれていたεがレールガンの勢いで先行したのは、完全に予想外だった。


あたしは何とか体制を立て直し、フルスラストで地点F-382に向かった。


F-382は大型の通気ダクトがある。これだけの設備だ、もしもこの馬鹿げた大きさのCPU水冷に不具合があった時のために、空冷も完備しているに違いないと、探しておいたのだ。


案の定、ふざけた大きさのファンが見えてきた。


「みかんちゃん、行けるね?!」


「モチロン」


通気ダクトのファンをスキャンして加速する。


あたしはレーザーを放ち、前方の金網に穴を開けてさらに加速した。


(ちょっと何する気ですかっ!危ないですよぉおお!)


あたしの足にしがみついてくるε(ぷに子氏入り)から操作権限を完全に奪い、体制を立て直す。


「大丈夫、まだ加熱してないのにそんな早く回らないから」


(危ないですってぇええ!)


ぷに子氏の叫び声を無視して更に加速して、あたし達は回ったままのファンの間を勢いよくすり抜けた。


(ひぃいい!)


背後からは籠った爆発音とその直後に大きな爆発音が聞こえた。ここから連鎖反応で誘爆がくる。


「急ぐよ!みかんちゃんスキャンして」


「スキャンカンリョウ、デグチマデ18ビョウ」


斜めに上昇を始めた通気ダクトは、出口が折り返して下を向いていて、下から光が漏れている。


あたしは勢いよく出口の金網を蹴り飛ばし外に飛び出した。


外は真夜中で、周囲に都市がないせいか、満天の星空が広がっている。


「シャルロッテ、分かっているでしょうけど後でお説教だからね!」


あたしは超低空で潜水艦を隠した方向に飛んだ。

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