第弐拾撃 研究
「凄いですね!こんな立派な研究施設、大学の研究室でもここまで設備は整っていないですよ?!」
「あなた…天涯孤独のはずじゃなかったの…?」
おっしゃる通り、あたしの要塞は不自然なほど立派である。
「両親はいないわ。あたしが赤子の頃に、あたしはこの神社に捨てられていたの。手掛かりはこのネームプレートとあたし宛ての手紙だけ。那須野雨優という名前の由来と、赤子のあたしの写真だけ残されていた。このWHCという企業らしきロゴは、何年調べても手がかりすら見つからなかった」
シャルロッテの顔が僅かに強張ったのを、あたしは見逃さなかった。しかし敢えて話を続けた。
「しかしこのネームプレートのICチップにスイス銀行の莫大な口座預金が入っていたの。名義人は那須野咲夜。恐らく母ね。あたしは独りで生き抜く為に、幼少期に死ぬほど勉強してこの研究施設を自分で作ったの」
「自分でって…まさかこの設備…」
「掘った」
「え?」
「この地下室。夏休みに」
「え…えっ?!どういうこと?!」
「だからこの地下研究所はあたしが夏休みに血の滲む努力の末、穴掘って増築して、機械設備も全部作ったの」
「そんな…ありえない!ですし違法改築ですよ?!」
「おそろしい娘…あなたが12歳の時にMITを飛級で卒業した情報は調べがついていたけれど…幼少期から本当に天才だったのね」
「天才?バカ言わないでちょうだい。あたしの全ての成功は、私自身の努力による賜物。天から降ってきた第三者に提供された恩恵では決してないわ。学校教育は世話になった神主のオヤジが、どうしても学校行けってうるさかったから、10歳からの2年間で修士課程までを一気に終わらせてやっただけよ」
「信じられません…そんな漫画みたいな話…」
「でも事実。学校教育は1番学習が遅い子に合わせてプログラムが組まれてるんだから、早い子がさらに頑張ったらすぐ終わるってだけの簡単な話でしょう」
「そっちじゃありません!この施設を子供が夏休みに作ったというのが信じられないんです!」
ぷに子氏はまだ疑っているようで、辺りをキョロキョロしては何か疑念を晴らす要素がないか探している。
「はぁ…ここを掘った時に作った掘削機なら、上の畑を耕すのにまだ使ってるよ。手で掘ってたら何年かかっても無理でしょうけど、機械にやらせれば24時間フル稼働で作業できるじゃない。このくらいの規模なら子供でも頑張れば作れるわよ」
ぷに子氏は黙っていたが、それでも納得していないと言った面持ちだった。
そんなことよりも、あたしは早くジェットドレスの改造に取り掛かりたいのだ。
「シャルロッテ、あたしの傑作集の紹介は後でするから、さっさと機体を運ぶのを手伝ってちょうだい。ぷに子氏はテスターよ」
シャルロッテはあたしが8歳の時に、サイエンスバトルボットコンペで、前年度優勝のロボをスクラップにした破壊神ジェロニモ君を、モノ惜しそうに机に戻した。
既定の出力を超えたエネルギー量が検知されて、失格となった苦い記憶がある為、そっとしておいてあげて欲しい。
あたしは少し埃の被った作業台に手を付いた。
机に刻まれた無数の傷は、あたしの努力の証として、今から無謀な難題に取り組むあたしの背中をそっと押してくれるようだった。
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