第拾漆撃 逃避行

久々の戦闘と、エクストリームなお空の旅…非常に充実した時間を過ごしたあたしは今…窒息寸前なほど爆笑している。


「あっひゃっひゃっひゃっひゃwけひょっけひょっ!!!」


それはもう腹が捩れるかと思うくらい笑った。


2時間にも及ぶ戦闘機ばりのGに、テンションの上がったあたしは、テストと称してアクロバット飛行を延々と続けていたのだ。


別の無人島に着陸した瞬間、シャルロッテは膝から崩れ落ち動かなくなった。


あたしがヘルメットを取ると、嘔吐物でシェイクされた様々な液体と無惨なシャルロッテの生首が転げ落ちた。


そういえば最後の無線は


「ごろじでぐだざ…い…ぐふぅ…」だった


とてもじゃないがモザイクをかけないと人様にお見せできない。


「ちょっと、シャルロッテさん死にかけじゃないですか!早く応急処置を…」


ぷに子氏の02は、一応短時間のフライトを想定して設計していたので、かなり快適な空の旅を過ごした様だ。


それに引き換えフューチャーテクノ社とっておきの漆黒の機体は、オートバランサーが絶妙に機能して、常に意思とは無関係の方向に小刻みに修正の動きをしていた。


「まぁ、あれは三半規管を洗濯機に入れてバンジージャンプさせてる様なものだもの、それは酔うよね。…うわぁ、足元まで全身グチョグチョじゃない…っ!…ぶふぉっw」


あれだけ派手に島を飛び出したのだから、追っ手が来てもおかしくない。


再出発までの時間はさほど無いと想定して動くのが賢明だろう。


あたしはぷに子氏に拠点の製作を命じて、水源の確保に向かった。


「みかんちゃん、チャージモード起動」


(チャージモードキドウ…ユックリヤスマセテモラウワ)


もとより脱出を計画していたあたしは、太陽光を始めあらゆる自然エネルギーを通して充電できるシステムをアップグレードしてある。


着陸する時に滝が見えていたので、淡水はすぐに見つかった。


大きな葉っぱを器がわりにして、水を汲んでシャルロッテ達のところまで持って行った。


拠点(仮)に戻ると、ぷに子氏が慌てた様子で近づいてきた。


「大変ですウユニさん!シャルロッテさんが汚いから暫く海につけておいたら、波に酔っちゃったみたいでもう取り返しがつかないことに…」


海でずぶ濡れになり、引き上げられてぐったりと砂まみれになっているシャルロッテは、さながら揚げられる前に衣を塗されたエビの様だった。


「んっくっくっく…取り敢えず水持ってきたから、日陰まで連れてってあげて」


「み…ず…?」


シャルロッテが這いつくばって向かってきた。


「ゾンビが起きたwまだダメよ、煮沸してないから」


「み…ず…ぅうううう…」


シャルロッテはあたしから葉っぱを取り上げて水を飲み干した。


「あ〜あ、知らないわよ」


案の定、シャルロッテはその晩に腹痛でもがいていた。


無人島の満点の星空の下、あたしは星の位置と、フライトログから島の大まかな位置を割り出した。


「ふむ…ここからどう動くべきか…慎重にいかないとね」


ぷに子氏はあたしが獲ってきて焼いてあげた川魚を気に入ったらしく、食べ終わった木の串を、焚き火越しに暫く眺めていた。


「ウユニさんて凄いですよね〜、あたしも話では聞いていましたけど、本当にサバイバルしてたんですね」


「ぷに子氏…大丈夫なの?」


ぷに子氏は俯いて、木の串を焚き火の中に放り投げた。それ作るのめんどくさいから使い回そうと思ってたのに…。


「正直、現実味がなさ過ぎて…今も夢を見ている気分で…あんなに酷いことが、まるで戦争みたいなことが現実に起きるなんて。ジャムちゃんもティッキーさんもみんな、やられてしまいました」


「そうね、その点シャルロッテは経験済みみたいだから、奴ら…というよりオリバーがそうする事は多少は想定していたみたいね。それを止められなかった自分に憤りを感じているのか、全然あたしと話してくれないけど」


「いや…それはウユニさんが笑い過ぎだからじゃ…」


あたしはシャルロッテが腹痛に苦しんでうなされている間に、ぷに子氏に今回のシャルロッテとの計画について話した。


全てを話し終える頃には、夜もかなり更けていたので、一旦英気を養うためあたし達は眠りについた。


あたしはジェットドレスを着たまま、大きな木の上に寝そべった。


「全く…こんなエクストリームな女子会はないわね…」


生い茂った島の木々の隙間から、月明かりが木漏れ日の様に差し込んでくる。


あたしは夜空に手を翳しながら、あれはハンバーグ座…あれはポテト座と適当に星々を結びながら、夢の世界へ静かに沈んでいった。



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