第拾伍撃 惨劇

この惨状を目の当たりにしたら、もはや説明の必要はあるまい。


オリバーは研究員もろとも、この島の実験施設を放棄するつもりだ。


しかし何故だ…?損切りするにしてもあまりにお粗末。


すれ違うあたしを見て、怯えて逃げ出す研究員が複数いたことから、今暴れているのは実験機体かもしくはそれに準ずる機体だろう。


あたしが装備しているこのタイプと同じ機体ではないことを祈るばかりだ。


あたしの部屋の近くまで来ると、あたしの部屋のドアが開いているのが目に入った。


「まさかっ!」


新作のジェットドレスを誰かに盗まれたりなんかしたら、タダでは済まさない。


あたしが部屋に入ると、涙と鼻水でグチョグチョのシャルロッテが床に座っていた。


「ひっ…」


シャルロッテは私を見てひどく驚いた様子だった。


「あぁ…そうか。あたしよ。ウユニちゃんだよ。一体何があったの?」


シャルロッテは暫く言葉を詰まらせ俯いていた。


「何があったのかこっちが聞きたいくらいよ…あなたから緊急のメッセージが来たと思ったら、いきなり島のメインシステムがダウンしたから、あなたが早まったものだと思ったの。急いでサーバー制御室に向かっていたら、各施設至る所で爆発しだしたんですもの。あなたが破壊して回っていたんじゃないの?」


(その通り…)?!


あたしの声が、装備している漆黒の機体から発せられた。


「え…」


「違うっ!あたしじゃないっ!」


(機密情報を暴露しようと目論む君は、ここで消えてもらおう。喜びたまえ、これほど豪華な棺桶を用意したのだから)


装備しているバトルスーツが勝手に動き出した。遠隔操作かっ!


人差し指がシャルロッテを捉えた。まずいっ!


指先から放たれた光線はシャルロッテの右側を掠めて、奥の機材を破壊した。


「うぉらぁあああああ!あたしの筋肉なめんなぁああ!」


あたしは渾身の力を込めて拳を握り締め、全身を硬直させた。


「シャルロッテ!首っ!首のとこっ!」


「えっ…あっ…!」


(ふん…無駄なことを…どうせ君たちは…)


ブゥンという電子音と共に、あたしはその場に崩れ落ちた。


シャルロッテが緊急停止装置を作動させたのだ。


電動補助がないと機体はかなり重い。とても立ち上がれそうにない。


「助かった、取り敢えずこのスーツ脱がすの手伝ってくれる?」


「あ…えぇ…一体どういう…」


あたしは全身のパーツを外しながら、シャルロッテに先ほど起きた全てを話した。


「く…オリバー・シャンド…絶対に許さない…」


「彼は過去の所業の隠蔽だけでなく、そこに関わった全ての人間を抹殺する腹積りみたいね。データは持っているのでしょう?拡散しちゃえば良いじゃない」


「メディアに流すってこと?無理ね。目的達成のためにこれほど大規模な実験施設の切り捨てをする奴らよ?フェイクニュースとしてあしらわせることなんて容易いわ」


シャルロッテの目的という言葉が気になった。しかし今は生存を考えるのが優先だ。


「ところであたしのジェットドレスは無事でしょうね?」


「え…あなたまた私に内緒で変なもの作っていたの?!一体どうやって…」


「ふふ…あなたにできる事が、どうして私にできないと思ったの?」


そう、偽造コードはシャルロッテのデバイスをハッキングして拝借した。


あたしはずっと待っていたのだ。再びエクストリームな戦地に身を投じることを。


あたしがデスクのPCに暗証番号を打ち込むと、床からショーケースがゆっくり姿を現した。


ショーケースが持ち上がるにつれて、鼓動が早まるのを感じる。


室内光でオレンジ色に反射するメタリックな機体を見ただけで、感情が昂る。


エンターキーを押すと、起動データのロードが始まった。


「さぁ、新生みかんちゃんのお披露目だっ!」


(データイコウカンリョウ…ミカン03キドウ)


「ウユウ…ナスノ…あなたは一体…」


あたしは新作のジェットドレスを装備しながら生返事をしていた。


無理もない、このパーツが閉まる機械音だけで3杯飯が食える…あぁ…あたしは帰って来たのだ…


ヘルメットを被る前に、決め台詞は欠かせない。


「前にも言ったでしょう?私は…」


ガチンとヘルメットがロックされた。


「Uyuni_Botterだ!」


決まった…今のあたしは相当イケてるっ!


「うひひひひ…さぁて、あたしは狩りにでも行きますか」


もう衝動を抑えきれない。早くこの新しい玩具で遊びたくて、地団駄踏む。


「あなた…性格変わってない…?」


「もうお利口ちゃんを演じる必要はないからねっ!あぁっ///もう我慢できないっ///」


私は新しい機能、両手で印を結び呪文を唱えた。


「我、混沌より舞い降りし深淵の破壊者、闇の力ここに解き放ち、跋扈せん」


(テネブラエドミナートル…ハツドウ…チャージカンリョウマデ…9…8…7…)


「ちょ…ちょっと…どうするつもりなのっ?!」


本当はシャルロッテと作戦を立てて、共に脱出する策を練るべき…しかしあたしは止まらない!いや止められない!だって半年も我慢したんだものっ!!!


「シャルロッテ、あなたはそこに転がってるダッサいバトルスーツをリプログラミングして、脱出の時に着れるようにしておいて。ロードに時間がかかるからみかんちゃんは入れられない。プロトタイプのコードがあたしのPCに入ってるから取り急ぎそれで動けるようにして。それから万が一のために02ファイルも起動させておいて。内容は見れば分かる。PCの暗証番号はORANGE EATERよ。急いで」


我ながら早口をよく噛まずに言えたものだ。


シャルロッテはまだ混乱している様子だったけれどもう、正直、かまってられない!


(チャージカンリョウ…ヤミノチカラ…イツツカウノ)


「今っ!今イクっ!イッキュゥウウウんっ////」


ドンッと重い爆発音が部屋に響き、ジェットが起動して、あたしは窓を突き破って外に出た。


シャルロッテが後ろに吹っ飛ぶのが、視界の端に入ったw


「ひゃっほぉおおおおう!!」


施設の各所で爆発音が反響し、人々が逃げ惑う叫びが聞こえる。


建物が爆発するたびに、子宮にまで衝撃が響き、心臓が裏側から愛撫される感覚を覚える。やべ…ちょっと濡れたかも///


昔からどうしてもやってみたかった、リアルヒーローごっこ…今助けに行ってあげる!


ふと逃げている研究員たちに目をやると、逃げているのは実験機体からだけではない…あれは…


「おぉおおおっ!ここに来てリアルバイオハザードっ?!」


ゾンビとまではいかないけど、酷い面した奇形の生命体が研究員達を襲っていた。


あたしは照準を複数の実験機体とキメラっぽい生き物に合わせて、唱える。


「顕現せよ!ダークネスブラストっ!」


ジェットドレスの全身から無数の銃口が発現し、対象をホーミングのエネルギー弾が貫いた。


研究者達の背後に華麗に降り立ったあたしは、振り返ってポーズを決める。


「Uyuni_Botterただいま参上っ!きゅるんっ!」


さぁ、ウユニちゃんの再始動だっ!



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