第陸撃:緊急イベント

あたしは今、猛省している。正直こんな事態に陥るくらいなら、調子に乗ってシラタキちゃんのキャリーなんてしなければよかったと後悔するほどだ。全方位から弾幕が降り注ぎ、周囲の地形や生態系はめちゃくちゃだ。


 オーバーヒートしないようにジェットの節約なんてしていられない。限界を超えて飛び回り、目につく敵を滅ぼして回る。逃げても隠れても、すぐに新たな敵の波が打ち寄せる。


 自らの窮地を認識したのは、夜中に爆発音が聞こえたからだ。驚いて飛び起きたあたしは、宿直室から屋上に駆け上がり、喫驚した。電磁フィールドが、海の先まで広がっていたのだ。


 今まで夜に戦闘が行われたことなど、一度もなかった。今現在の敵機に暗視機能が実装されていないので、完全に油断していたのだ。


 流星群の如く夜空に走る光の線が、暗闇のキャンバスに刹那の死相を描いている。安眠を邪魔された恨みを、一人一人にはらしたいところだけれど、今はそうも言っていられない。なぜだか全ての機体が、結託してあたしを狙ってくるのだ。


 大方運営が正体不明の機体、つまりあたしに懸賞金でもかけて、イベント仕立てにアレンジしたのだろう。


不愉快。先程、戦闘装甲を装備して、脱兎の如く森に駆け込んだのだ。


森まで到達する間に、かなりの数の敵をシバいてきたけれど、まだ後方から足音が聞こえる。


「夜戦イベントなんて、余計なことをしてくれる。」


 とぼやいているところに、偶然シラタキちゃんの電波通信が流れ込んできた。


(ターゲット、エリアβにて潜伏中。コード08、索敵開始。)


「ちょっと!シラタキちゃんっ!これいったいどういうことっ!?」


(えっ?!あれっ!ウユニさんっ!?)


「寝込みを襲うなんて、やってくれるじゃない。一体どういうつもりなのか説明してもらおうかしら。」


(えっとこれはその、討伐クエストです。ウユニさんの。)


「やっぱりね。シラタキちゃんもあたしとやろうっていうの?容赦しないわよ。」


(そんなこと言われても、これが仕事なんです。)


「せっかくこの前キャリーしてあげたのに!」


(あれのせいで私38時間も拘束されて、事情聴取されたんですからねっ!当然、キルポイントも入らずにチートを疑われて、謹慎してたんです!)


 まあ普通に考えたらそうなるのだけれど、恩人に対してこの仕打ちは許し難い。


「わかった。シラタキちゃん、あなたは最後のデザートにとっておくことにするわ。たっぷり可愛がってあげるから、前戯でもして待っていなさい。」


(え…ちょっとま…)


 あたしは通信を遮断して、深く息を吸い込んだ。後方の足音が止まり、銃口がこちらに向くのを物陰越しに知覚する。


「ジェノサイドモード機動。」


『マジカヨ…ジェノサイドモード、キドウカンリョウマデ…3…2…』


 その瞬間、長年のFPS戦闘経験が危険を察知して、あたしは無意識に走り出していた。振り向かなくてもわかる。横から射線を通そうとしている機体がいる。案の定、閃光は障害物がある後方ではなく、左斜め後ろからこちらに放たれた。


 バチッっと弾ける音と共に、左の脇腹あたりにエネルギー弾が被弾した。防御用の電磁バリアのバッテリーは、機動推進力用のバッテリーとは別のスロットを使用しているので、オーバースペック気味の防御力は健在だ。しかしこの数を相手に補給なしでは流石に持たない。


『1…ジェノサイドモードキドウ…ハンケイ100メートルイナイニ、テキ42タイ、ケンチ。』


「派手に舞うわよっ!」


 あたしは腹を括って、勢いよく地面を蹴った。ジェノサイドモードは、防御を捨てた攻撃力極振りの特攻機能。消費エネルギーが激しい代わりに、かなりのスピードと攻撃力が期待できる。なにせ一撃で敵を沈めていかないと、この数を相手にするのは絶望的だ。できる限り早めに敵の数を減らしたい。


「オートエイム機動!みかんちゃんも戦って!」


『マカサレタ。MMハッシャ。』


 あたしのジェットドレスには、さまざまな武器が装備されている。肩、肘、足、腰、胴体などあらゆるパーツに、手持ちの銃器とは異なる秘密兵器が仕込まれている。


 MM(ミカンミサイル)は肩に仕込まれた、エネルギー砲だ。あたしは超高速後進間射撃を繰り返して、敵機の集中を防いだ。森の木々を縫って進むには、かなりの頻度のジェット推進力を使用するので、体力を消耗する。


 しかし移動しながら戦わないと、すぐに包囲網を形成されて全方向から射線を通されてしまう。正直、ほとんどあたしが手を出すまでもなく、敵機を検知した瞬間にMMのオート照準が複数機体を同時に貫いている。あたしの作業は、検知にかかる前の敵機の出てくるところを予想して、銃弾を置いておくことだ。これが見事に的中して当たるのが、気持ちよくてたまらない。


「ここでしょ?ほらねっ!今度はこっちでしょ?やっぱりね!うふふふ…ふげっ!」


 突然、あたしの意思とは別方向に、ジェット推進力が働いた。予想外の方向に飛び退いたので、内臓が激しく揺れ動くのを感じた。次の瞬間、あたしが進もうとしていた方向にレーザーが飛んできて、大木を貫いた。


『テキノショウジュンヲケンチ。ジドウカイヒシタヨ。』


「みかんちゃん優秀ね!でかした!」


『テレル』


 それにしても敵機の姿は見えていなかった。よほど遠くから狙われたのかしら?そもそも森の木々に囲まれているのだから、遠距離から狙撃なんてできないはずなのだけれど。


「みかんちゃん、弾道記録。位置を割り出して。」


『ダンドウキロク、イチスイテイカンリョウ。3ジノホウコウ。ニュウシャカクカラシテ、375メートルサキノ、イワノウエ。』


 みかんちゃんにはこの島の詳細マップを搭載しているから、計算してどの位置からの射撃かわかる。375メートルも先から、この暗闇の森を高速移動しているあたしを捉えるなんて、普通では無茶な話だ。何か裏があるに違いない。相当高度な索敵能力か、ウォールハックチーターの仕業だ。


 あたしは危険を承知で、森の木を超える高さまで、上に飛んだ。いつもの比較にならない大きさの電磁バリアが、夜空とこの島全体を覆っている。右側を見ると、岩石地帯が広がっている。このまま後ろに進むと、あと200メートル程で森が終わってしまうところまで来ていたのか。右側には岩石地帯、後ろには平原が広がる、3地帯が入り混じるところに位置している。


『ショウジュンケンチ。』


 またしても自動回避が作動して、あたしは空中であらぬ方向に身を翻した。いきなり予想だにしない方向にジェットが作動すると、首が鞭打ちになりそうになる。コンマ数秒後にレーザーが暗闇を切り裂いて、森に着弾した。


「今度は見逃さないわよ。LG発射!」


 LG(レモングレネード)は肘に搭載されたカタパルトから、檸檬の形をした爆弾を放つ機能だ。ジェノサイドモードでは、100メートル以内の近距離に位置する敵しか検知できない。なので、スナイパーのいる高所付近一帯を、吹き飛ばしてやろうというわけさ。


 レーザーはリロードに時間がかかるようで、あたしが森に着地するまでに、次の射撃はなかった。森の岩陰に身を隠した瞬間、ものすごい爆発音と共に、岩石地帯から大小入り混じる岩が森に降り注いだ。


 檸檬爆弾、通称LGは普段使うみかん型の爆弾とは異次元の威力を持つ。しかしその強力さゆえに、近距離で使用すると自分も巻き込まれてしまうのが玉に瑕だ。


「森も終わっちゃうし、あのスナイパーは放置しておくと厄介そうだから、確殺入れに行こうかしらねぇ。」


 岩石地帯は立ち回りを間違えるとかなり不利な戦況に陥ってしまう。あたしはしばらく優先順位を天秤にかけ、やはりスナイパーの確殺をするべきだと考えた。


「みかんちゃん、あのチーター疑惑のスナイパーをお仕置きしに行くわよ。」


『ガッテン』


 今度は位置バレを防ぐために、反撃せずに迂回しながら岩石地帯を目指した。岩石地帯に到着すると、大岩があった位置に直径30メートル程のクレーターができていた。


「うわぁ…ちょっとやりすぎたかな…?帰ったらマッピング修正しないと…」


『テキケンチ、モニター二ヒョウジシタヨ。』


 クレーターから24メートル先の岩陰に、敵機の一部を視認した。射線の通らない位置から近づくと、機体が大きな岩に足を挟まれて、身動き取れない状態でもがいていた。


「機能停止していない…反撃した瞬間に察知して退避していたのか…やっぱり侮れないわね。」


 あたしは岩に挟まれた敵機の視界に入らない位置に移動した。岩陰から頭一つだけ出して覗く。呼吸を整えて、アサルトライフルでトドメを刺した。すぐさま倒れた敵機からバッテリーをもぎ取り、その場を離れた。


「あのスナイパーの肩にあったロゴ、見たことあるわね。」


『ケンサクカンリョウ、フューチャーテクノ二ガイトウ。』


 フューチャーテクノって、自動運転の旅客機を作っていた大企業じゃないの。数年前に株価が大暴落したってニュースで見たけれども、最近は特に動きが取り沙汰されることはなかった。まさかこのサバイバルの回収用ドローンを作っていたのは、フューチャーテクノってことかしら。


「う〜む…わからないわね…」


 今はそんなことを考えていても仕方がない。あたしは岩石地帯を大回りしながら、再び森林地帯に入ることにした。包囲網が敷かれている可能性も考えたけれど、市街地よりも遮蔽物が多く、射線を切りやすい。


「サーチモード、機動。」


 あたしはゴツゴツした岩場を音を殺して歩きながら、スナイパーからもぎ取ったバッテリーを補給した。


『サーチモードキドウ、タンチハンイカクダイ。シュウイ3200メートルイナイニ、テキ17タイケンチ。』


 だいぶ削れたけれど、まだまだ多いわね。そして闘った感触に違和感がある。相手にした部隊はあまり動きに統率が取れていない気がするのだ。森で射線を通そうとした敵機は、数体が同時に撃ってきたから、おそらく同じ部隊だろう。それ以外に関しては、粗末なもので各機撃破が可能だった。


 確かに今回相手にするのはあたし一人なのだから、早い者勝ちになるのはわかる。減りの早さからして、どさくさに紛れて仲間内で撃ち合っている可能性もあるのだろう。


「勝機はあるわね。みかんちゃん、シラタキちゃんの反応だけマーキングできるかしら。」


『リョウカイ、キタイメイ‘‘シラタキ‘’ヲマーキングシタヨ。』


「ふむふむ、市街地寄りの森に拠点を構えているみたいね。そのあたりを取り巻く敵機は中央に2体と西側に3体、東側に3体、北側の市街地を背にして、南に位置する森林地帯に残りの索敵部隊を分散させているようね。シラタキちゃんの周りだけ統率が取れているように見えるのは、あたしがシラタキちゃんを狙っているのがわかっているからね。北側の市街地の警備が手薄だけれどこれは…」


『ワナトスイテイ。』


「そうよね。シラタキちゃんのサンクチュアリだものね。」


 シラタキちゃんに出会った後、いずれ敵になる可能性を考慮して、徹底的にシラタキちゃんことPunipon_13が出ていた試合の動画を見て、立ち回りを頭に叩き込んだのだ。シラタキちゃんは、市街地など建物内の戦闘での勝率が高い。出入り口を味方と塞いで多方面から射線を通すやり口が主流だ。あたしが市街地側から攻め込んでくるのを待って、サイドに展開させた部隊と連携して包囲するつもりなのね。


「ふふふ…シラタキちゃんの思い通りにはいかないわよん。」


 あたしが岩石地帯から森の入り口まで到着した時に、森の中から大きな爆発音が聞こえた。同時にサーチモードの画面から敵機の信号が1つ消えた。


「かかったわね!」


 あたしは森のあちこちにトラップを仕掛けながら後退していたのだ。設置型のトラップは近くを通ると爆発するようになっている。森に放っていた索敵部隊の残り8体のうち、1体がかかったのだろう。続いて爆発音が2回聞こえて、2体の信号が途絶えた。


「これであたしを追うのは慎重になるわよね。時間を稼げるわ。」


 シラタキちゃんの周りに8体と、森にあと5体の邪魔者がいる。順番に片付けてあげる。あたしは森に1番近い岩石地帯の岩の高所に陣取り、準備に取り掛かった。さっき仕留めたスナイパーのそばに落ちていた長物を拝借してきたのだ。スコープを覗いてみると、森の中にいたあたしを正確に狙えた理由がわかった。


「ずるいわね、電磁気を感知してマーキングするなんて。」


 あたしもこのスコープと同じ索敵機能使ってるけど。それに電子スコープの左上に表示されている画面は、森に放っている小型のドローンの視点ね。あのスナイパーは本当にいただけないわ。あたしはゆっくり引き金を引いて、シラタキちゃんの東側にいた敵機の一体をレーザーで貫いた。


「あら、予想はしていたけれども本当に直線で飛んでいくのね。弾道の落下を計算に入れて頭を狙ったのだけれど、見事に撃ち抜いてしまったわ。」


 周りにいる敵機が狼狽えて、照準に入らないように動き回っているのが見える。スコープにはクールタイムが表示されている。10秒…みかんの皮を剥いて口に放り込む余裕があるわね。これだけ距離を取っていなかったら、今頃蜂の巣にされているわ。


 あたしは位置を悟られないように移動しながら、森に展開する索敵部隊を殲滅した。残りはシラタキちゃんとその周りにいる7体だけだ。引き続きレーザーで各機撃破を試みたが、流石に弾切れになってしまった。


「う〜ん、どうしましょう、3体くらいなら特攻しても問題なさそうだけど、流石に8対1は難しそうよね。」


 サーチモードの画面には、シラタキちゃんの両サイドにトライアングル型に展開した2部隊と、シラタキちゃんの前に1体の陣形に移行していた。これでどこから狙われてもすぐさまカバーに入れるようになっている。どの方向から突いても、すぐに2体以上に射線を通されてしまう。


「うふふ…やるじゃないシラタキちゃん。流石はエインヘリアルのトップランカー勢の一員ね。」


 でもここはもうゲームではない。己の全てを賭けて闘う戦場なのだ。少なくてもあたしにとってはだが、ここで出し惜しみして命を奪われる気は毛頭ない。あたしは敵機に悟られないようにジェットを焚かず、徒歩で森の中心部、敵陣の正面で身を潜めて期を待った。


 LGは1発しか搭載していない。残りの爆弾は小型のMG2発だけ。ジェノサイドモードの起動には、バッテリーを頗る消費する。森を歩きながら倒した敵機からバッテリーをもぎ取って、ようやく短時間起動できるまでになった。


『ジゾクカノウジカンハ、42ビョウダヨ。』


「MMは何発撃てる?」


『1パツダケダヨ。』


「充分ね。」


 あたしは深呼吸して立ち回りのイメージを整えた。シラタキちゃんをあられもない姿にひん剥く脳内シミュレーションを終えた時、センサーから東側に展開していた敵機の反応が1体消失した。


「きたっ!」


 あたしは木を飛び越えて、上空から西側に向けてMGを放った。


「ジェノサイドモード起動っ!」


『ジェノサイドモード…キドウシタヨ。』


 すぐさまあたしは敵陣正面に向かって走り出す。東側に配置しておいた秘密兵器がようやく作動したのだ。あたしはスナイパーライフルで東側の1体を倒した時に、小型自動殲滅戦車名付けて‘’ビーティー02‘’を放っておいたのだ。


 本来は設置型トラップで移動速度が遅いのだが、今回は時間差攻撃に一役買ってくれたようだ。敵陣は東側と西側の両方から同時に攻撃されたと思うだろう。その一瞬の意表をつくのだ。


 あたしは正面の敵機が目に入った瞬間にアサルトライフルをぶっ放し、ダウンを取った。100メートルほど先に、シラタキちゃんが見えたけれども、今は無視だ。あたしは再び上空に飛んで、MGを西側の敵機に向かって放った。着地と同時に、東側の残りの2体を始末しに全力ダッシュした。東側の敵機を視認した時に少し驚いた。センサーで西側の動向を確認していたので、少し反応が遅れてしまった。2体が固まってこちらに照準を合わせていたのだ。


「いかんっ!オートエイム起…ぐえっ?!」


『テキショウジュンケンチ、ジドウカイヒシタヨ。』


 間一髪で弾丸を避けて、射線を切ることができた。しかし自動回避は便利だけど、ここぞという時に決めきれない可能性がある。


「自動回避解除、オートエイム起動!」


『タスケテヤレヘンデ、エエナ。オートエイムキドウシタヨ。』


 どちら側から飛び出しても、木の影から出た瞬間、弾丸の雨に晒されてしまうだろう。ならば…


「ウユニジャーンプっ!!」


 木の遮蔽沿いに上空に飛び出し、敵機を飛び越える。枝の隙間から敵機を検知した瞬間、MMが炸裂して1体が地に伏した。


「いけるっ!」


 あたしは空中から着地まで、もう1体の敵機に向けてアサルトライフルを撃ちまくった。かなり当てたけれども、やはり空中だとリコイル制御が難しく決めきれない。着地した瞬間に敵機から閃光がこちらに向けて放たれた。壮絶な撃ち合いになると覚悟した次の瞬間、ガチャンという虚しい音とともに、あたしは絶望した。


「あかんっ!リロードっ!」


 左右にジェットを焚いて弾幕を避けながらリロードするまでの僅かな時間、何度敵機と目が合ったかわからない。


「あ…あぁっ…はよはよっ!」


 バチンバチンと何回も敵機のエネルギー弾を喰らってしまっている。ようやくリロードが完了した時、同時に相手からの猛攻が止んだ。敵機の弾が切れたのだ。その瞬間をあたしは見逃さない。


「よくもやってくれたわねっ!オラオラオラ〜!!」


 敵機のシールドを削り切った時、あと一撃といった時、敵機は振り向いて銃弾を放ってきた。


「え、うっそ!はや…あ!」


 敵機は自分の武器をリロードすることを諦め、そばに倒れていた別の機体の武器を拾って応戦していたのだ。この状況での瞬時の判断力、此奴はなかなかできる。あたしはHP1ミリの敵機を前に、今すぐ倒したい気持ちをグッと抑えて、一度射線を切ることにした。


「冷静にならないと…もうすぐ漁夫が現れる頃ね。」


 センサーで確認したらやはりシラタキちゃんと西側に展開していた部隊が、こちらに近づいてきている。


「ここは一度、体制を立て直しましょう。」


 あたしは南側に向けてジェットを焚いて走り出した。案の定、先程の敵機はあたしに向けて撃ち続けている。


「んんん〜しつこいっ!見逃してあげるんだから退きなさいよっ!」


 大人しくシラタキちゃんと合流することを予想していたけれど、あいつはどうしてもあたしにとどめを刺したいらしい。


苛立ちを隠し切れずに振り向いた瞬間、先の敵機は閃光に貫かれその場に倒れた。その閃光の先にいたのは…


「ビーティーちゃぁああああああん!!」


 東側に設置しておいたビーティー02の照準に引っかかってくれたのだ。我が人生で2度も命を救われるとは、無事に帰ったら神棚に飾ってあげよう…。センサーの反応を確認すると、残りはシラタキちゃんを含めてあと3体。西側の1体はMGでなんとか倒せたようだ。


「さて、ここからが正念場ね。」


 おそらくその3体は固まって行動することになるだろう。1番厄介なのは市街地に立て篭もられることだ。チームで動くならまだしも、独りで3体の籠城を崩すのは至難だ。爆弾ももう底を尽きてしまった。


「作戦変更ね。」


 あたしは踵を返して、急いで先程の2体からバッテリーと武器を1つ拝借して、市街地へと向かった。先に高所を位置取って撃ち下ろす方が有利なのだ。


「あたしを追ってきてビーティーちゃんの照準にかかってくれればいいのだけれど…」


 流石にそうそううまくはいかないものだ。市街地の高所は先に陣取ることができたものの、シラタキちゃんはしっかりと一列縦隊を形成してこちらに近づいてきている。


「みかんちゃん、あとどれくらい動ける?」


『バッテリーザンリョウ、クドウ:17%、シールド:21%ダヨ』


「厳しいな…省エネモード起動」


『シュツリョクゲンショウ、クドウジカンジョウショウ。427ビョウウゴケルヨ。』


「オーケー、始めよう。」


 あたしは建物の屋上からシラタキ部隊に向けてアサルトライフルを撃ち下ろした。先頭の機体は被弾したと同時に後退して、シラタキちゃんがこちらを狙って撃ってきた。


「くぅう〜、スイッチできるの羨ましいっ!」


 あたしは身を隠してリロードした後に、少しだけ位置をずらして頭を出し、3体に満遍なく少しづつダメージを与えてみた。ダウンは取れないけれど、相手のバッテリー補充のタイミングをずらすことができる。


「さて、ここはもうダメね。」


 この建物を包囲される前に、2階にある連結路から隣の建物に移動し始めた時、想定通り下の階から足音が聞こえ始めた。忍足で隣の建物に滑り込み、窓から敵の動向を観察する。


 さっきの建物は2階建で屋上への扉は1つしかない。そこから出てきた瞬間に、ありったけ弾を食らわせてあげる。バタンと扉が空いた瞬間に、あたしは扉に向けて撃ちまくる。数秒後に自分の置かれている状況に気がついて、急いで屋上への扉に向かう。


「くっ!早いわね!」


 この建物の2階へと上がる階段から音がしている。センサーの反応は2体。全3体のう1体はさっきの攻撃で仕留められたらしいが、あまりに対応が早い。先を読んでこちらの建物に2体で攻めて、あたしの正確な位置を確かめたのね。


「やるじゃないシラタキちゃん。しょうがないわね、行くわよみかんちゃん!」


『オウヨ』


 あたしは屋上への逃亡を考え改め、2階に登る階段で闘うことにした。屋上に追い詰められた後、逃亡ルートが飛び降りることしかできないと、撃ち下されて不利な立ち回りになってしまうからだ。


 センサーでは2体は回り込んで挟み撃ちにする様子はなく、すぐそばにいる。スイッチを繰り返してあたしを削りきる作戦なのだろう。であれば射線が分散しない一直線の階段の方が都合がいい。何故ってあたしには秘策がある。


「オラオラオラオラァアアあぁあ〜!」


 あたしは東側の森で拝借してきた銃とアサルトライフルの2丁持ちで、同時に発砲した。左手に持った奪ってきた銃は、同期していないとはいえリコイルが全く効かないジャジャ馬だった。狙いとは見当違いの明後日の方向に弾を乱射していた。けれども右手に持っているアサルトライフルは使い慣れたもので、目を閉じていても飛ぶ鳥を撃ち落とせるほどだ。


 作戦は大成功、階段中腹の1体を仕留めた。体制の立て直しと、残り1体の索敵を始めようとした瞬間、あたしは地面に倒れ込んだ。手足が動かせず、次第に視界が真っ暗になった。



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