第15話

上手く言葉に表せない苦痛ほど、本当は誰かに一番聞いてもらいたい事だったりする。



だけど、そういう事程、あまりにも身近過ぎる人には言いたく無かったりする。





結局、どんなに素敵な言葉を紡いでもーーー届かないと初めから知っていても…



それでも、紡がずにはいられない。



人間っていう生き物は、本当にめんどくさい思考回路を脳みそに組み込んでいると思う。




「難しい顔してんなぁ?ユキ」




目的の駅につき満員電車から抜け出した俺は、改札を出て繁華街を歩いていると久しぶりに聞いた声に振り返る。



「別に?してませんけど」


「ふ。そーかよ?セイヤさんなら今日は夜勤だと思うぞ」



俺がこの街にいるだけで全てを察してしまうその人は、この通りで俺を見かける事を最早珍しい事とは思っていないらしい。




「そーですか。じゃあ出直します。教えてくれてありがとうミヤさん」


「相変わらず顔以外は可愛くねーな。付き合え」



偶然出会ったというのに随分と唐突な誘いだった。



人混みから頭一個付き出る長身のミヤさんは「えぇ?」とあからさまに嫌な顔をした俺に、酷く呆れたような顔をした。



「予定なくなったんだろ?」


「もう終電が出る時間なので行きますね、俺」



時刻は午後7時。

申し訳なさそうな態度など皆無で、晴れやかな笑顔で嘘だと分かる嘘をつきそう断る俺。



「仕事終わりで腹減ってんだよ。いいから付き合え」



しかし、この人にも俺の皮肉は通用しないらしかった。

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