第9話

取り敢えず朝食を済ませた俺は食器を洗い部屋を掃除し、ジジィが飼ってる犬の散歩でもしようと玄関で靴を履きながら指笛を鳴らした。



木の床を鳴らす爪の音が聞こえる。背後から走って来てピョンと俺の肩に前脚をかけてヘッヘッ!と呼吸をもらす仔犬。



「今日もお利口だな」



ジジィが飼ってると言ったが、この仔犬は先週俺が拾ってきた。


捨て犬だった。

雨の日に震えていたコイツの前にしゃがんだ俺に、真っ直ぐに向かって来てすり寄って来たのだ。


俺の髪の色と同じ色の小さな犬。毛が長くてふわふわしてて人懐っこくて可愛いコイツ。居候の身なのに、ジジィをどうにか説得してコイツを家族にすることに成功した。




「バンビ。行くぞ」



毛の色が似ているから、と。ジジィと十和は最初コイツの事を「瞬」と呼んでいた。


非常に紛らわしい。「シュンこっちにおいで」と言われて振り返ると、十和に「君じゃない」という顔をされる身にもなって欲しい。



それからどうにか説得してバンビ色の毛並みをしてる事からコイツはバンビと呼ばれるようになり、俺は平和な日々を取り戻す事に成功した。

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