Episode 11 新たな旅立ち
【現在、とある森】
夕焼けが美しい時刻、セーラが食料調達を終えて戻ってきた。彼女が採ってきた食材は私の昔話に出てきたシチューで使用された食材たちだった。当時の私が一週間ほどをかけて調達した食材をわずか二時間ほどで集めたということはおそらく奇跡を扱えるのだろう。
「さ、マルタ様。食材は揃えたわよ」
「ああ、ありがとう。久しぶりで腕がなまってなければ良いのだが」
「マルタ様が作ってくれた料理なら何でも美味しいし、嬉しいわ」
あたりを夜の暗闇と静けさが満たし始めた頃、私は焚火を起こしてシチュー作りを始めた。そんな私の横でセーラは口の両端を上げ、楽しそうに投入されていく具材を見ている。
料理が完成したら焚火に向かい二人並んで座ってシチューを口に運ぶ。その間に私は日中丘の上で思い出していた物語の続きをセーラに聞かせた。
「叡智の魔人...」
セーラは少し怖がるようにぽつりとつぶやいた。
「当時の私は知らなかったが魔界には聖界と同じように国が存在する。通常の魔物は群れる習性がないから主に魔人のための国だ。そして彼らの中でも何かしらで卓越した能力を有する個体には称号が与えられるのだ」
私はパチパチと音を鳴らす焚火を見つめながら戦いを思い出す。
「今回の戦争でもその魔人と戦ったの?」
「どうだったかな、実はあまりよく思い出せないんだ」
「あ、だったら大丈夫よ!無理に思い出さなくて」
セーラは慌てて手を横に振った。
「とにかく叡智の魔人、カーラだっけ?彼女は退散したんでしょ」
「確かにそうだが、あれは彼女の気まぐれだ。おそらく、あの時に彼女が本気を出していたら私はこの世にはいなかっただろうな」
「その後はどうなったの?」
「そうだな、その後は――――」
わくわくした表情で私を見つめるセーラを横に私は物語の続きを語り始めた。
―――――――――――
【二十三年前、サンサント王国 ムーンフェル城 玉座の間】
「さて、まずは礼を言おう。此度の魔人捜索、いや魔人を撃退してくれて感謝する、マルタ」
叡智の魔人カーラとの戦闘の翌日、私たちは一番最初に訪れた玉座の間にいた。状況報告と依頼達成報酬を貰うためだ。
「いや、相手の方が強かったし…運が良かっただけよ」
「うむ、ガイザンの話を聞くとそのようだ。だが相手は魔人の中でも指折りの猛者。我が国の兵力を失わなかっただけでも貴様らに依頼した価値があった」
「ガイザン?」
「ああ、貴様らを捕らえた老兵だ。あいつには貴様らの監視を指示していたからな」
そう話す精霊王の視線はアキノで止まった。
「貴様、人間か?」
「…ああ、紛うことなく人間だ。あんたには何か見えているのかい?」
「いや、気の所為だ」
精霊王はどこか怪しむ素振りを見せてから話を戻した。
「さて、本題だが貴様らは余との約束を果たした。よって褒美を与える。何を望むか申せ」
私はレイモンドと顔を合わせて頷いた。
「それではファフテール王、私達に旅に必要な路銀と『精霊の加護』をお与え下さい」
精霊王は一瞬、ピクッとして答えた。
「前者は問題ない。だが後者をこの場で与えるのは難しい」
「え、そうなの」
「精霊の加護とは精霊から直接与えられるものだ。故にこの場では貴様らと相性が良い精霊の場所を教える事しか出来ぬ」
「それで良いわ。教えて」
精霊王は黙って右手を前に出し、人差し指を伸ばした。すると指先から金色の雫が床に落ち、雫が染み込んだ場所から金が広がって床に金色の地図が浮かび上がってきた。
「ふむ。マルタ、そなたが向かうべきはこの国のさらに西にある『
「ソフィア…」
「そしてレイモンド。そなたはこの国を北に出てすぐの『王都の跡地』だ」
「はいよ」
「最後にそこの女はグレグランドより東、『
「…」
「以上だ、貴様らの幸運を祈ろう。金貨は後で届けさせよう」
その日は城の客間に泊り体を休めた。
そして明朝、私、レイモンド、アキノ、そしてガイザンは国の外周にある
「アキノさんはどうするの、私達と一緒にいく?」
「いや、私はグレグランド王国に行こうと思う。私にもやらないと行けないことがあるからな」
「そっか、じゃあここでお別れね」
そう言ってアキノは私達が入国する時に使った移岩に乗る。別れはあっさりしており、彼女は岩の上で振り返ることはなかった。
「さて、私達はどうする?レイモンドおじさん」
「まあ、精霊の加護を貰いに行くわけだがどっちから行くか」
「でしたらレイモンド様の方がよろしいかと」
ガイザンが口を開いた。
「マルタ様の場所は竜の住む西の山嶺へ向かう通り道です。一方でレイモンド様の場所は少し外れた場所にあるので先にそちらに向かわれてから、本来のルートに合流するのをお勧めします」
「親切ね、ガイザンさん」
「マルタ様達には恩がございますゆえ」
「そしたらレイモンドおじさんの場所、王都の跡地に行きましょう」
私は移り岩の上で今回の出来事について考えていた。
もっと強くならないといけない、あの魔人のような危険な思想を持っている奴が他にもいるのならば一刻も早く魔界を滅ぼす必要がある。母と故郷を奪い去った魔人への復讐のために。
私の中の復讐の炎はさらに大きく暗くなっていった。
―――――――――――
【用語】
■サンサント王国
精霊と人の混血者が作った国。
実際の居住種族は精人と人である。
精霊との混血者が多いため「奇跡」の使用が生活の一部になっているのが特徴。
■奇跡
神、聖なる種族が起こす現象の総称。
精人たちは奇跡を起こすエネルギーを「聖力」と呼ぶが、他国では魔力を使って奇跡を起こすと勘違いされることが多い。
主に聖界、神界で使われている。
■魔法
神、魔なる種族が起こす現象の総称。
エネルギー源は魔力と呼ばれ、世界に広く認識されている。純粋な人は魔力をつくる事ができないため、魔力を溜め込んだ道具、魔具を用いることで魔法を使える。
主に神界、魔界で使用される。
■魔術
主に人界の魔術師が使用する魔法のこと。
魔術師が使用出来る魔法の数は実際の魔法の種類より少ないが、技術的な研鑽を積むことで起こす現象を変化させ、様々な状況に対応できるようになっている。
【登場人物】
■マルタ・アフィラーレ・ラスパーダ
三十九歳の女性。
この物語の案内人であり、昔ばなしの主人公。
十七歳の時、故郷の村を魔物の侵攻によって失ってしまう。セーラ曰く、魔界との戦争にて活躍をした英雄。
現在、記憶の混乱が見られるがいったい…
■セーラ
マルタの昔ばなしを聞く少女。
二ヶ月ほど前からマルタの家を訪問している。
竜の卵を手に入れる実力がある(?)
■レイモンド・ルーク
二十三歳の男性。青髪の長髪を後ろで結っている。
グレグランドを拠点とする商人で護身術の心得がある。二歳上の兄、ルーカス・ルークがいる。
お酒好き。
■アキノ
二十五歳の女性で、魔界からの亡命者。
赤髪のセミロングで身長は十七歳のマルタより少し大きい。
対斬撃に優れた赤の外套をまとっており、普段は黒のバイザーを目元に着け素性を隠しているらしい。
■カーラ・バルバトス・エテルネーゼ【新情報】
サンサント王国の外周に魔結晶の店を構えている、敬語口調で物腰が柔らかい女性でその正体は魔人と人間の共存を目的に魔界から侵入してきた魔人。
本当の魔結晶店の店長は彼女が来た際に殺されており、成り代わっていた。周囲の人がそれに気づいていないことから、外見を変えていた可能性が高い。
「叡智の魔人」という二つ名を持っており、魔人の中でも特別な立場にいると思われ、魔法に長けているだけでなく、マルタやレイモンドの攻撃を捌く身軽さも持ち合わせている。
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