第27話

「そ。そして美里ちゃんはお兄ち…奏さんの弟さん、私のもう一人の兄の…

えっと、龍ちゃんの彼女さん…奥さんだから堅気とは言えない。」


「藍樺、お前いい加減龍の名前くらい覚えてやれよ…」




お兄ちゃんは私のいい加減さに呆れて苦笑している。

後ろから抱きしめられていて顔は見えないけど大体分かる。



「やだなー、お兄ちゃん。

龍ちゃんが初対面の時私に向かってチビ小僧なんて言うから悪いんじゃない。

私はれっきとした女だっていうのに…」




そう、龍ちゃんは初対面の私、しかも小さな女の子に向かって

チビ小僧なんて言うから私がシャットアウトしちゃったんじゃない。




「あ、そういえば最近うちによく来るんだけど、龍。

しかも仕事じゃなくて藍樺のアルバム持って。」



風斗の何気ない呟きが聞こえ、私はみるみるうちに般若の様な形相に変わっていく。




「龍ちゃん地獄のツアーへご案内決定。」



怒りの感情が強くなりすぎたせいか真っ黒な笑みを浮かべ龍ちゃんのお仕置きを想像する私。


耐性のない人間からすれば大層恐怖を感じることだろう。




龍ちゃんだけは絶対に許さない。




「…藍樺の仕置きはえげつないからなぁ…同情するわ。」



少し離れた位置からは恭多の龍ちゃんへの同情の声が聞こえてくる。



それでも絶対許さないけれど。






「てか、お腹空いたんだけど。」





叶汰の呟きによって私たちがだいぶ長い時間立ち話をしていることに気付かされ私は我に返る。



生徒会と龍ちゃんの悪事(私のプライバシー侵害)に気を取られたせいで忘れてた。




「そうだったわね、食事にしましょうか。叶汰たちと私はいつものテーブルね。」



いつもの様に、と指示を出すとメンバーのみんなはいつも通りに決まった席へと座る。






そんな光景にぽつり、紗亜耶が呟く。




「そこ…私たちも座れないのにどうして…」




そう、今まで母、紗亜耶には近づくことも許されていない特注された食卓テーブルに私たちが座っているから。





「それはそうでしょう、私たち専用の席だし。

それに裏稼業やってる人間が安心して座れる特注のテーブルだし。」




テーブルの天板の裏に隠された武器を知られるわけにはいかないし、

それにこの席は敵襲があっても安易に入ってこられない位置に設置してあるのだから

テーブルを触られると困る。



理不尽だといった顔をした奴らに思わずため息が出る。


こんなこと説明できないのだから近づかない様にと厳命を父に出してもらうしかないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る