伊佐坂生の憂鬱 ―There are people inside the TV―

犬神日明

第1話

♪ なんだっ坂 いっささっか こんな坂 いっささっか

「まったく。よく飽きないもんだな…。」

私はため息を吐いてしまった。最近土日の朝の習慣のようになってしまっている。時刻は決まって朝の6時50分。何故その時刻なのかは分からないが、私は締め切りに追われ昨日も夜中の3時過ぎまで原稿を書いていたのだ。おかげで4時間も眠れなかった。

♪ カタカタ かったぶっつ ガタガタ 総入れ歯

「なんで知ってるんだ?確かに総入れ歯だが…。」


私は伊佐坂堅物。80歳である。一応小説家として生活は出来ている。ただそれほど大作家という訳では無いので、この家は20年前に中古で購入した。世田谷区桜新町というのも魅力の一つだったが、築7年という新しさで破格の3千万円という金額が何よりの魅力だった。通常の半額以下だったのだ。当時はバブル真っ盛り。土地代は上がっても下がることは無かったのだ。持ち主が画家さんだと言うことで画集を出した関係で編集者と繋がりがあり、その編集者が私とは旧知の人物で買主を探していると紹介して貰ったのだ。何かあったのかと疑ったが、人が死んだりはしていないという。間に入ってくれた編集者は信用に足る人物で、人を騙すような男ではない。

「何ですか急いでお金に変えたいようですよ。」

引き渡しの際に一度だけ、以前の持ち主の濱さんという人に会ったことがある。私とそれほど年齢の差は無さそうだったが、酷く疲れ切った顔をされていた。何でも奥さんが体調を崩されてしまい、静養の為に静岡県に引っ越すのだと言われていた。

今にして思えばだが、濱さんのご家族も私と同じ目に会っていたのではあるまいか。隣の家の子供達が学校が休みの日は、土日祝日一日も休まず庭先で騒ぐのである。それが越して来てから20年間続いている。そう、20年も続いているのだ。“子供達”とは言ったものの、もう成人式を超しているのだ。越してきた日に挨拶した時、長男坊が小学五年生、その妹が小学三年生だと言っていた。そしてその甥っ子は指を三本立てていた。

「さんぽうちゃんでちゅう。」

その頃は可愛いなと思ったものだが…。

彼ももう23歳のはずだ。だがたまに見かけるその姿は、体形は変わっていない。それは長男も妹も同じで、いつまでも身体は小学生のままだ。遺伝的な病気なのかと思い、聞くに聞けないでいたのだが。5年、10年と経つ内に、拭いきれない疑問が常に心の片隅に居座るようになってしまった。そしてこの家にはもう一人危険人物がいる。まだ子供らの歌声は続いている。だからそろそろ来る頃だろう。

「こらっ!六甲、皆子、三宝ちゃん!朝っぱらから騒がないのっ!ご近所迷惑でしょ⁈」

子供らの声より明らかにデカい。子供の歌をスルー出来るくらいに泥の様に眠り込めている時も、最後はこの声で起こされる。

「ほら顔洗って歯磨いて、ご飯食べちゃいなさい!」

まるで耳元で怒鳴られているようで、目を覚まさざるを得ない。耳鳴りを起こすことすらある。まだ眠い頭をどうにか起こして、目をこすりながらとりあえず身体を起こすしかない。

「あ~だるい。」

階下では妻のおからが食事の支度をしている音がしている。あの怒鳴り声に比べたら静かなものだ。仕方なく階下に向かう。リビングのテーブルには既に娘の浮世が座って居て、新聞を広げて読んでいる。浮世ももう37歳。嫁にも行かずOLとして都内で働いている。それなりの給料をもらっているようだが、何故か家を出ずに実家暮らしを続けている。もちろん結婚もしていない。30歳を過ぎての実家暮らしは居候みたいなものだ。そして我が家にはもう一人居候が居る。40歳にしてアルバイトを転々と渡り歩いている。長男の蔵六である。引っ越した時点で二浪中だったのだが、その後4回も受験に失敗し進学も就職もできなかった。

もっとも蔵六一人が悪い訳でも無い。あの頃は平日も歌を歌われていたから、寝不足ですっかり参ってしまったのだ。もちろん文句を言いに行ったが、偶然にも妻のおからが隣の奥さんと同級生だったことが判明しうやむやになってしまった。可哀そうなのは蔵六である。私が80歳になっても筆を折れないでいるのは、ひとえに蔵六の存在があるからだ。親として出来るだけのことは残してやりたいと思っている。

「まゆちゃん。」

「おからちゃん。」

そう呼び合いながら庭先で長々と話し込む母親に、私も蔵六もすっかり丸め込まれてしまった。

「子供のすることなんだし、ご長女も元気でいいじゃない。」

「ただいまぁ~。」

ガリガリの身体を引きずるようにして、蔵六が帰って来た。身体はガリガリなのに、その腹だけは妙にポッコリと膨らんでいる。恐らくはあの歌声と怒鳴り声を避けてのご帰還だろう。

「お早う、蔵六。お疲れさん。」

声を掛けても右手を上げただけで二階に上がって行ってしまった。

「ちょっと、蔵六。朝ごはん食べないの?」

妻の問いかけにも応じることはない。40歳と言えば脂がのってバリバリと仕事ができる年齢なのだが、今の蔵六には覇気すらない。やる気が無いと言った方が正しいだろうか。何事もそうだがやる気が無ければ何事も上手く行かない。私が小説家として生きて行けるのも、やる気が根っこ部分で自分を支えてくれているからだ。私には文学にこの身を捧げたという自負がある。そうでなければ世界的にも特異な日本語と、とことん向き合って行くことなど出来はしない。


日本語は本当に難しい。海外との根本的な文化の違いも影響している。

「いただきます。」

「ごちそうさまでした。」

これらは海外には無い言葉なんだそうだ。食事を作ってくれた人、食材を育ててくれた人、調味料を作ってくれた人。それらを売ってくれた人や買う為のお金を稼いでくれた人。更には命を捧げてくれた食材にも感謝して、頂かせて頂きます、御馳走になりましたという言葉を発する。日本人特有の文化なんだそうだ。

わびさびも日本独特で質素さ、孤独感、更には貧困生活の中にさえ美しく、心安らぐものを見つけようとする日本文化の一つなのである。道端に群生する雑草の花でも、その中の一輪を頂いて部屋の中に飾ってみる。すると群生していた時には気付かなかった美しさが見えて来る。

日本語には同様の意味を持つ言葉が複数存在し、どれを選ぶかで人に与える印象が異なってしまう。尊敬語、丁寧語、謙譲語でもって相手との関係性を表現する。主語を特定しないでも表現が出来てしまう。

「今日は疲れたよ。」

そう言えば本人が疲れているのだとは分かる。ここで更に文字一つ替えると意味が全く変わって来る。

「今日は疲れたろ。」

誰か対峙している相手への言葉に変化してしまう。本来は主語、述語がハッキリしていないと意味は通じないのだが、日本の文化には慮る、相手の気持ちを察するという文化がある。それを解さない外国人からは、日本人は明確に言わないと言われてしまうがそれは言いがかりというものだ。相手の立場や気持ちを自分なりに解釈して対処を考える。先ず日本人を非難するより、日本文化を理解する努力をして欲しい。

我々物書きが苦労するのはそんな日本語の特異性が有るからだが、物書きが表現方法として選ばなければならない物には文字の種類もある。

漢字に始まり平仮名にカタカナ、同じ言葉を表現してもその文字が持つ雰囲気は異なる。

富士山

ふじさん

フジサン

最初の物はもちろん日本最高峰の霊峰であり、日本の象徴である。二番目は親しみを込めた人の名前のように思え、三番目はなんとなくだが人の名前を少し距離を置いて呼ぶように感じられる。私が今なぜこの言葉を思いついたのかと言えば、件の隣人の名前が富士子さんという名前だからである。

彼女は五十野家に住んではいるが、今の名前は河豚田富士子という。元の苗字は五十野だったそうだ。婿を取ったのではなく、結婚後も同居を選んだのだ。五十野家は最近流行りの二世帯住宅では無く、普通の平屋である。その間取りまでは分からないが、決して大邸宅ではない。その中で五十野家と河豚田家が肩寄せ合って暮らしているのだ。五十野家は家長の大雪、眉夫人、子供の六甲と皆子。河豚田家の家長は金比羅、妻富士子、息子の三宝で計7人の家族なのである。それらは全て妻からの情報である。

私が独自で掴んでいるのは彼女の地声が大きいと言うことと、髪形が変だと言うことだけである。見た目20代なのだが、パン専門店で売っているような食パン、三段の段を持った食パンのようなというか、三本足の珍獣の足型のような髪形をしている。しかもそれが頭頂部と側頭部に計3つ乗っている。なんとも変でどうやってセットしているのかが分からない。


朝食を終え2階に上がる。私の書斎からは丁度五十野邸が良く見える。観察するつもりはないが、どうしても目に入って来てしまう。庭にある盆栽は家長の五十野大雪の趣味だろう。今日も昔ながらの縁側で五十野夫妻は茶を飲んでいる。その横で白猫が気持ちよさそうに眠っている。この猫も私の知る限り20歳以上の筈である。猫としてはかなりの長寿だ。

「ちょっと待ちなさい、六甲っ!」

また弟が何かしたのだろう。箒を持ったフジコさんが弟を追いかけ回している。

「ちょっと、ちょっと富士子。お止しなさいな。みっともない。」

五十野夫人が我が娘を嗜める。

そうそう、その調子で静かにさせて下さいよ。

心の中で手を叩くとご主人も娘に注意する。

「そうじゃぞ。お前ももう落ち着かないと。」

「すみません。」

フジコさんがペロっと舌を出して見せる。すると五十野夫人がまた声を発した。

「そうですよぉ。ほぉ~ら、お隣のご主人も観てるわよ。」

五十野夫妻、フジコさん、その弟が揃って此方を見上げて来た。その目には隣人へ向けられるような親しみは感じられない。

ゾクッと背筋に悪寒が走った私は、サッと身体を後ろに反らした。足で机を蹴って後ろに下がり、床を蹴って半回転した。隣の家が見えなくなってそこでようやく落ち着いた。

「い、いったい何なんだ?あの一家は…。」

しばらく待ってからそっと外に目を向ける。だがまだそこに先ほどと同じ四人が、同じ姿勢のまま佇んでいた。また慌てて首を引っ込める。

仕方なく一階に降りて茶を入れて貰った。

「ちょっと渋めに入れてくれないか。」

「どうかされたんですか?」

さて妻に言うべきかどうか。

言わない方を選択し、黙って茶を啜ることにする。理由は簡単で、妻のおからが私の話を信用しないと分っているからだ。幼い時にどれほど仲が良かったのかは知らないが、未だにちゃん付けで呼び合う仲なのだ。女性同士の切れない絆は、何重にも絡まり合った糸のように強いのだ。それをバラバラにしようとしても、大概は徒労に終わる。

「あ~~。」

眠い頭に濃い渋いお茶が染み渡る。

「浮世は何処かに行ったのか?」

大して興味は無かったのだが自分には家族が居るのだと言うことを確認したくなって、普段聞かないことを聞いてしまった。

「さあ、さっき出かけて行きましたけど。」

妻も興味は無いらしい。37歳にもなった娘の動向を、気にしすぎる親もそうは居るまい。娘の年齢が36歳を超えてから、もう私も妻も孫のことは諦めている。

「ちょっと散歩でもしてくるかな?」

財布を着物の懐に入れ、サンダルを履いて妻を振り返る。

「何か買ってくるものあるかい?」

妻は少し考えてから、首を振って見せる。

「昨日買い物済ませちゃったから。大丈夫ですよ。」

私は玄関から外に出る。もし仮に何か頼まれたとしても、忘れてしまうかもしれない。最近はもの忘れをちょこちょこするようになった。アイデアを思いついた時用の手帳とペンはいつも手放さない私を、妻ははこんなことを言って揶揄ってくる。

「だったらお願いしたものを、手帳に書けばいいじゃありませんか。」

それは確かにそうなのだが、手帳には小説のアイデアだけを書き残したい。そこに唐突にナスだの牛乳だの胡麻だのの文字が並ぶと、頭が混乱するではないか。


五十野家の前を通ることを避けて、反対方向に道を決める。そちら方面には潰れかけたラブホテルがあり、人通りは極端に少ない。

「しかし、ここいら辺もすっかり変っちまたなぁ。」

言葉にしみじみといった感想が宿る。八百屋も三河屋も無くなり、大型スーパーに取って代わってしまった。昔のような人情味のある街並みでは無くなってしまった。

「ああ、伊佐坂先生。新作読ませてもらいましたよ。」

商店街でそんな声を掛けられることも無くなってしまった。商店街を歩けば自身の人気度も測れたものだ。本離れなるものが進み、本を読む人も減っている。収入は明らかに減っている。

しばらく歩くとラブホテルの看板が見えて来た。看板にはscandalの文字が並ぶ。こんな住宅街で何故こんなものが建てられたのかは分からない。地元の住人でこのホテルを使う者など居るのだろうか?

だが私の前を行く人を認め、思わず足を止めてしまった。

「浮世か?」

我が娘が肉感的な尻をプリプリ振りながら、私の前を歩いて行く。スリムだが尻だけは成長している。そしてホテルの入り口のところで煙草を吸って立っている男。紛れもない河豚田家の主人、河豚田金比羅ではないか?

浮世が金比羅に手を振っている。気が付いた河豚田氏が、煙草をプッと吹き出して足で踏みつける。小走りになった浮世が彼の元に辿り着いた。二人の会話は聞こえないが、何か揉めているように見受けられる。男が半ば強引にホテルの入り口に消えて行く。仕方無さそうに浮世もその後に着いて行く。

いったい何が起こっているのかが分からなかった。二人がなぜこんな場所で会い、その中に入る必要が有ると言うのか?そしてそこで何をしようと言うのだろうか…。

これは私の小説家としての性なのか。はたまた父親としての懸念なのか。むしろご近所への体裁なのかもしれない。隣の家の若い婿と、我が家の行かず後家。小説の題材なら使えそうだが、ドロドロの愛憎劇しか思い浮かばない。

「いったい、いつからなんだ?」

だが今ここで思い悩んでいても、何も解決はしない。ここは一つ出て来たところを捕まえて、直接問いただすしかない。まさか何も関係御座いませんとは、言わないのではないだろうか。

だがそうは思うものの、それまでこんな路上で待つわけにもいかない。周囲を見回すと、一軒の新しそうな店が出来ているのが分かった。看板には三河館とある。窓ガラスにはコーヒーというシールが貼られている。ここで時間を潰させてもらうことにしよう。

カランカラン。

扉を開けると軽快な金の音が聞こえて来た。

「いらっしゃいませ。」

カウンターの中で男性がコーヒーカップを拭いていた。40歳位だろうか。でもその顔にはなんとなく見覚えがあった。

「あ、なんだ、伊佐坂先生じゃないですか。読みましたよ、新作“オペラ・ザ・スカトロ”。」

「君、三瓶君かね?」

御用聞きスタイルを貫いていた近所の酒屋、三河屋で働いていた三瓶君だ。あの当時は浮世より少し年上に見えた。やはり今は40歳くらいであろう。

「ご無沙汰でした。お店が廃業してから転々としていたんですが、やっぱりこの辺りが懐かしくて。でも駅前なんかじゃ開業できないんで、ここにお店を出したんです。まだ二カ月ですよ。」

笑顔の三瓶君だが私の頭は少し混乱している。偶然というのは時に人の思考に混乱を招く。とりあえずは人としての礼儀を通しておこう。

「そうかい、そいつはおめでとう。座ってもいいかな?」

「もちろんです、お好きな席にどうぞ。」

カウンターで懐かしい話でもしたかったが、今はホテルの入り口を見張る必要がある。窓際の席に座り、入り口を見詰めたままメニューをチラ見してキリマンジャロをオーダーした。

「先生は此方の方には良くいらっしゃるんですか?」

私は目を逸らさないままで答える。

「いやぁ、滅多に来んねぇ。」

やがて良い匂いが漂って来て私の鼻をくすぐった。彼が湯気が立つコーヒーカップを一つ持って来てくれた。

「これは本当に良い香りだねぇ。」

私は普段緑茶が多いのだが、コーヒーも決して嫌いでは無い。彼はニッコリと笑って満足げにカウンターの方に戻って行った。

一口飲んでうっとりとしてしまう。頭をハッキリさせるには濃い緑茶も良いが、やはりコーヒーの方が覿面に効く。

「お酒屋さんで勤めてた君に、こんな特技があったとはねぇ。」

感心して言いながら、少し晴れた頭で彼に一つ聴いてみたくなった。

「三河屋さんは五十野さんのお宅とも取引はあったんだろう?」

ガチャーン。

何かが音を立てて割れた。

「あ、すいません。」

三瓶君が屈んでその姿が見えなくなる。私はその音がしたタイミングが気になった。五十野と言う名前を告げた少し後では無かったか?顔の見えない彼に私は質問を追加した。

「あのお宅はどういうのかねぇ。何でいつまでも変わらないんだろうか?」

三瓶君は顔を見せようとしない。彼は何か知っているのでは無いだろうか。

「君、三瓶君。君は何か知っているんじゃ無いのかな?」

「いえ、僕は…僕は何も。」

彼は何事も無かったかのように立ち上がった。

「君、三瓶君。君も感じていたんじゃ無いか?あの家族は何処かおかしいと。」

「先生、その話は止めませんか?個人のお宅の話ですし。私はお世話になったんで。」

三瓶君は此方を見ないようにしている。私はもうホテルの入り口はそっちのけで、彼の顔から目が離せなくなっていた。ホテルの方からは暫くは動きは無いはずだ。

「私はね、思うんだ。あの家族は時間が止まってしまっているんじゃ無いのだろうか?」

彼はギョッとしたように此方に目を向けた。私と目が合うとサッと俯いてしまう。

「君も感じているんだろう?あの家族はこの20年間何の成長もしていないんじゃないのかね?」

彼の唇が震えている。唇だけでは無く、身体全体が小刻みに震えているのが分かる。

「話してくれないかな?君は何を知ってるんだ?」

彼が意を決したように顔を上げた。

「裏にお爺さんとお婆さんが住んでおられたでしょう?」

確かに裏にはそんな人物は居たが、そのご夫婦は確か亡くなったのでは無かろうか。妻が葬儀に参列したと言っていたような思い出がある。

「あの家に現在お住いのご夫婦をご存じですか?」

三瓶君の問いかけに私は明確な答えを持たない。私は殆ど家に籠り切りで、近所付き合いは妻に任せきりなのだ。

「あ、そうなんだね。あの老夫婦の後に誰か今住まわれているのかい?」

彼はその口を開け思いもつかない人物を私に告げた。

「中島ご夫妻です。」

中島?中島という名前はどこかで聞いた覚えがある。五十野家の長男が良くその名前を叫んではいなかったか?

「中島って、もしかして?」

「ええ。五十野六甲さんの同級生です。」


それから1時間半ほどした頃、ホテルの扉が開いて目的の男女が出て来た。急いで会計を済ませ、後を追いかける。

「浮世、浮世待ちなさい!」

振り返る浮世と河豚田氏。浮世の顔に驚きとも諦めとも取れる表情が浮かぶ。

「浮世、どういうことか説明しなさい。」

「どういう事って言ったって…。」

河豚田氏は関係ないよとでも言うように、ポケットから煙草を取り出して吸い始める。その不愉快な態度に私の頭の中で何かが切れた。

「なんだ、君は!煙草なんてやめたまえっ!」

彼の口から煙草を抜き取り、道路に投げ捨てた。

「何するんですか、ジジイッ!」

胸を突かれて腰を道路にしたたか打ち付けてしまう。浮世が走って来て助け起こしてくれた。

「ちょっと止めてよね。もう父は80歳なのよっ!」

河豚田氏をキッと睨みつける。

「あなたの胸のサイズと同じですねぇ。」

面白くも無さそうに河豚田氏が言って、サッと身を翻して歩いて行ってしまった。

「大丈夫?お父さん。」

浮世が心配そうに見つめて来る。私は腰の痛みを堪え、立ち上がろうと努力してみる。

「あ痛、たたたたた。」

四つん這いになって様子を伺う。まず右足で立ち上がろうと試みる。左足も足して両手を地面に着いたまま、尻を持ち上げる。ゆっくりと身体を持ち上げて、どうにか二本足で立ち上がることが出来た。浮世に肩を貸してもらいながら、ノロノロと家に家に向かって歩いて行く。

「いったい何時からなんだ?」

浮世は口籠っている。

「いいから言いなさい。何時からなんだ?」

私が質問を繰り返すと、言い辛そうに答えた。

「ごめんなさい。引っ越してきたその日に…。」

ギョッとして足を止めてしまった。

「なんだって⁈」

「あの日あたしだけご挨拶に行くのが遅れたでしょう?その時に金比羅さんだけが家に居て…。」

近所を案内をする振りをして、公園のトイレで襲われてしまったのだという。

「そんな…お前、それは犯罪じゃないか?」

初めてだったんだろう?

流石に父親としてそれを聞くことは出来ない。浮世は真面目な子供だった。クラスでも嫌な役目は積極的に引き受けるような子供だった。

「まさか浮世が結婚しなかったのは…?」

浮世は俯いて首を振って見せる。

「あたしが結婚するなら全部バラしてやるって…。」

なんと、本当に犯罪者じゃ無いか。私の胸に改めて怒りが込み上げて来る。

「許さん、いや許せん。許せることじゃない。」

腰の痛みも忘れてしまう。私の顔はいま仁王の阿の表情になっていることだろう。


たっぷり一時間半かけて家に辿り着いた。

「おから、おから!」

玄関に倒れ込んで妻を呼ぶ。

「あらあらどうしたんですか?」

妻が私と浮世の顔を交互に見ている。その妻に指示を出す。

「し、支度をしなさい。今からお隣に乗り込むから。」

「そんな…どうしたんですか、乗り込むだなんて。穏やかじゃない。」

妻がオロオロとしながら浮世に助けを求める。

「浮世、あなたからもなんとか言ってよ。」

「お母さん、あたしは17歳の時に隣の河豚田さんにレイプされたの。それ以来ずっと関係を迫られてる。結婚できなかったのもそのせいなのよ。」

娘から衝撃的な事実を聞き、妻は口を開けて凍り付いてしまった。

「だから隣に乗り込むんだ。早く支度をなさい。」

妻はとぼとぼと二階に上がって行った。10分、20分と経っても妻は戻ってこない。

「何をやってるんだ、何を!」

イラついている私を置いて浮世が靴を脱いで、階段を上がって行く。何か揉めている声が聞こえてから、浮世が母親を引っ張って降りて来た。

「お化粧してた。」

浮世が報告する。

「なにおっ⁈」

激怒しかけた私に妻は言い訳を言い始める。

「だってだって、まゆちゃんはいつまでも若くって、あたしはお化粧で誤魔化さないととてもじゃないけど前に立てないのよ。」

何の事はない。妻も違和感を感じていたのだ。


三人で隣家へと向かう。この家には今どき呼び鈴も無い。

ドンドンドン、ドンドンドン。

「五十野さん、五十野さーん。」

私が五十野家の引き戸をガンガン叩く。

「はいはいはいはい。」

中から女性の声が聞こえ、扉が開かれた。

「あらおからちゃん。それにご主人に浮世さんも。」

五十野家夫人、五十野眉が割烹着を着て立っている。

「ご主人は居られます?」

私が告げると彼女は家の中に招き入れてくれた。

居間に通された我々を、五十野家主人、五十野大雪、五十野六甲、五十野皆子、河豚田金比羅、河豚田富士子、河豚田三宝、更によく見知った顔が何故かそこに座って居た。

「君、川辺君。ここで何をやっているんだ?」

東芝出版の担当者、川辺玄五郎の顔を認め私は訝しむ。

「ああ、私はおじさん、五十野大雪さんの甥っ子でしてね。先生、当社の原稿の方は?」

揉み手をしながらいやらし気に笑って見せる。

「後で取りに来たまえ。もう出来ているから。」

それだけ言って五十野氏に向き直る。

「五十野さん、人払いをお願いします。」

私が出来るだけ厳かに告げると、キョトンとした五十野氏が不思議そうに言った。

「人払い、ですか?その必要はありませんな。我が家は常にオープンです。」

そうか、そこまで言うのならこちらにも遠慮はいらない。

「お宅のお婿さん、此方のコンピラさんに、私どもの長女が永き渡り肉体関係を迫られておりました。」

その場に居た皆が一斉に河豚田金比羅氏を見詰める。

「あなた、まさかそんなことを?」

フジコさんが夫の顔を見詰める。コンピラは、我が妻と浮世の顔を見比べている。

「ヶ。」

小さく言葉を吐いて、立ち上がってフジコさん目の前にズボンのジッパーを降ろして見せる。

「おら、いつも見たいにして下さい。」

ズボンの中からイチモツをとりだし、フジコさんの顔に向ける。フジコさんはあからさまに嫌そうな顔をする。それはそうだろう。いくら何でも家族の前でそんな行為には及べる筈はない。

この男は狂っているのか?

だが次の瞬間、私は信じられない言葉を聞いた。

「昨日もしてあげたばっかりじゃない。」

キノウモシテアゲタばっかり。

何故か頭の中で“ばっかり”だけが平仮名になった。

「チェ、コイツだけは年季がモノを言うんですがねぇ…。」

クルっとこっちを振り返り、今度は浮世に向かって腰を突き出した。

「じゃ、あなたでいいや。さっき散々して差し上げたでしょ?」

浮世は顔を左右に激しく振る。娘を嘲るようにコンピラが言う。

「なんでですか?つつじヶ丘公園で、客から金取っていつもお見せしてるでしょ?」

こいつ、そんなことまで!

「フンッ!」

私は人生で初めて男のイチモツに噛みついた。

「イタ―ッ!」

河豚田氏が絶叫した。イチモツが喉に当たり、気持ち悪くなって頭を引いた。そこには見事に私の入れ歯がイチモツに引っかかっている。掛けていた眼鏡を放り出し畳を転げまわる河豚田氏から、大事な入れ歯を奪い返す。洗わないと口にはめ込む気にはならない。

「伊佐坂さん、それはちょっといささかどんなもんなんでしょうな?」

五十野氏が私を睨みつける。

「ふゃい?ふぁにゅほひっぺるんふぇふか?」

ダメだ。入れ歯が無いとどうにも締まらない。隣にいる妻の膝を叩く。

「はい?何を言ってるんですか?そう申しております。」

妻が代弁してくれた。

「何を言ってるのか分からないのはおじさんの方だ!」

五十野家の長男が私を指差す。仕方なく私は妻に入れ歯を託す。

「ひょっひょ、ひょひょひょひょひょひょひょ。」

「ちょっと、洗って来てくれ。そうもうしておりますので、まゆちゃん、お台所お借りするわね。」

妻が頼むと五十野夫人が立ち上がる。

「あらあら気付かなくてごめんなさいね。おからちゃん、じゃこっちへ。」

二人して居間に隣接した台所へ向かう。

「ひょんひゃもん、みひゃらひゃひゃるひゃろうに。」

私はため息を吐いた。

「ねぇお兄ちゃん。このおじさんはほんとに何を言ってるの?」

五十野家の次女も人を馬鹿にしている。

「ホントに分かんないですぅ!」

河豚田家の息子も調子に乗っている。だが妻はなかなか帰ってこない。何をしてるのかと台所を見ると、ペチャクチャと井戸端会議をしている。

「おからちゃん、なんかご主人怒らせちゃってごめんなさいね。」

「いーいのよう、まゆちゃん。若い人はホラ、お盛んだから。」

「お盛んて言えば吉田さんとこの奥さん、激ヤスの配送員と浮気してるって知ってる?」

「ゲキヤスって、あのなんでも安いお酒屋さん?」

「そうよう、ウイスキーだってワインだって安いのよう。純米大吟醸でワカメ酒だって出来るのよう。」

「ひょひょいひょう、ひょひょいはひょひょひょ。ひょひゃくひょひょいなひょい!」

「あら?やめなさい、いつまで無駄話をしてるんだ、早くお入れ歯を洗って来なさいっですって。」

「おーほっほっほっほ。」

二人で笑い合いようやく水道の蛇口をひねる。

「僕も公園で見たよ。その時は相手はミツコさんだったよね?オチンチンが立っちゃったよ。」

五十野家長男坊が言い放つ。五十野家主人、長女、次女までもが笑い狂う。

「金比羅くんのは大きいから。」

主人が羨まし気に言う。

「あたいも入れられてみたーい。」

次女が言うと長女が窘める。

「それじゃ近親相姦になっちゃうじゃないの。」

「あたいとは血がつながってないモーン。」

調子に乗った次女に続いて甥っ子が声を上げる。

「三宝ちゃんでちゅう!」

長女が自慢げにのたまう。

「あーら、三宝ちゃん、お名前が言えて偉いわねぇ。」

妻がようやく持って来た入れ歯をはめて、私はこの家の住民と決別することにした。

「あんたがたは狂ってる…。常人じゃない!行こう、訴えるべきところに訴えよう。」

「そうおっしゃらずに、一局いかがですかな?」

この一家の主が妙に立派な足つきの将棋盤を持って来た。

「そんなもん、するかっ!」

妻と娘を追い立てて玄関へと向かう。

「三宝ちゃんでちゅう!」

幼子の叫び声が追って来る。当然かもしれないが、この家の住人たちは誰一人見送ろうとはしなかった。


「おから。裏に住んでる中島さんというお宅を知っているか?」

五十野家を出るなり妻に尋ねる。

「知ってるも何も。ほら家を買った時に間に入ってくれた不動産屋さん、あちらの娘さんが嫁いだお宅ですよ。」

不動産屋の娘のことまでは知らないが、妻が知り合いなら有難い。浮世を家に帰らせて、早速案内を頼んで中島家に向かう。

中島家はかなりの年季が経った家だった。私が越して来た時に住んでおられた老夫婦が、若いころから晩年まで過ごした家なのだとすれば築70年は超えているのかもしれない。家の呼び鈴を鳴らすと、中から威勢のいい女性の声が聞こえて来た。

「ハーイ、今行きまーす。」

ガラガラガラ。

中から出て来たのはよく肥えた女性だった。鼻が上向きで鼻の穴が良く見える。

「あら、伊佐坂さんの奥さん。」

私の方を一瞬不思議そうに見たが、年齢から夫だと理解してくれたようだ。

「あの、伊佐坂ですが、いささかお話を伺いたいことがございまして。」

本当の用向きは濁しておくことにした。彼女は気安い感じで我々を招き入れてくれる。

通された居間に恐らくは彼女の夫であろう、眼鏡を掛けた男性が胡坐を掻いて座って居た。我々を見ると慌てて胡坐を解いて正座に変わる。

「あ、お休みの所申し訳ありません。裏に住んでおります伊佐坂、伊佐坂堅物と妻のおからです。」

妻と並んで深々と頭を下げる。男性は正座の姿勢のまま、頭を下げ返して来た。

「いや、これはどうも伊佐坂先生。ご無沙汰をしておりまして。」

恐らくは30代前半と思われる。座布団を勧められ恐縮して座らせてもらう。

「いや歳のせいでしょうか、最近は物忘れが激しくて。どちらかでお会いしましたかね?」

男性は居間に在った本棚から、一冊の本を取り出して見せてくれた。所々色褪せていてかなり古い本だと分る。それにその本は私の代表作、“エスとエムの激情”だった。彼はその裏表紙を開いて見せる。そこには私の文字で伊佐坂堅物と書かれ、中島ひろし君へ、1985年10月20日と添えられている。

中島?中島ひろし…。ああ、そうか。隣の息子が一度連れて来た事が無かったか?

「中島ひろしです。あの時五十野に連れて行ってもらって、先生にサインを頂きました。」

改めて深々と頭を下げられた。私の小説は大人向けなので、子供のファンが珍しく覚えていたのだ。

「先生の御本は有害図書に指定されている物が多くて。手に入れるのに苦労しました。」

それには頭を掻いて答えるしかない。先ほどの女性がお茶を運んで来てくれた。

「粗茶ですがどうぞ。」

「あら申し訳ありません。」

今度は妻が頭を下げる。しばらく私の本の話で盛り上がる。

「“男は珍棒という名の尾を持つ猿である”は傑作ですよねぇ。」

彼は本棚からその本を取り出して見せる。もうこの本は絶版品で私ですら持っていない。

「宜しければサインなど?」

快く引き受けて自分の名前と相手の名前、そして今日の日付、2005年9月11日と記載する。そこで私は固まってしまった。

そうか、私の違和感はこれだよ!

「どうかされましたか?先生。」

私は顔を上げる。そこには30代前半の夫婦が座って居る。

「そうですよね。それが自然なんですよ。」

一瞬キョトンとした中島氏は妻と顔を見合わせてから、二人して私に向き直った。

「先生、先生はひょっとして五十野のことで今日はいらしたんですか?」

夫婦の顔は真剣そのもので、真っすぐに私の瞳を見詰めて来る。

「まさしく。五十野家と河豚田家の件で伺いました。」

私が用向きを告げると、夫婦は揃ってため息を吐いた。

「…そうですか。さすがは伊佐坂先生だ。」

妻のおからだけは何も分かっておらず、ピンと来ていないようだ。

「あなたは五十野家のご長男と同級生であられたはずですね?」

中島氏は頷いて妻の方を見た。

「あたしも同級生でした。申し遅れました。あたくし中島華子と申します。旧姓は花沢でした。」

彼女は僅かに頭を下げる。私も下げ返し、改めて二人を観た。男女ともその顔には僅かに皺を刻み、肌の色もくすんでいる。男性の方は少しだけ髪も薄くなっている。女性の方は化粧っ気が無く眉が薄い。

「私達が結婚してここに住むようになったのも、あの家を見張る為なんです。あの家の本当の謎を人生を賭けて解きたいと思いまして。」

中島氏の言葉にその妻も頷いて見せる。

「あたしが違和感を感じたのは中学校に上がる時です。何故か五十野君だけは五年生のままで。五十野君は成績が悪かったから、留年したのかしらとは思ってたんですが。でも出席日数が足りてるのに落第する小学生なんて他にいませんでしょ?」

彼女の言う通り私も小学校を落第するというのは、病気以外では聞いたことが無い。

「妻はね、五十野に惚れていたんですよ。」

揶揄うように妻に言った夫は、少しだけ寂しそうに見える。

「よしてよ、初恋なんて実らないものなんだから。」

彼女が夫に張り手をかます。正座の姿勢のまま吹っ飛んだ夫は、本棚で頭を打ってしまう。

「イテテテテ、君は相変わらず馬力が凄いな。旦那には手加減してくれよな。」

頭を擦りながらまた戻って来た。二人に向かって私は尋ねる。

「失礼ですがお二人は今おいくつでいらっしゃる?」

「いやですよ、先生。女に歳を聞くだなんて。」

バチーン!

私の胸に張り手が襲って来た。その衝撃で私は後ろ向きにコロコロと転がり、そのまま庭に落ちてしまった。

「あなた!」

妻が助けに来てくれ、私を抱き起してくれた。今日は踏んだり蹴ったりだ。

「あ、いや申し訳ありません。」

中島夫妻にも手伝ってもらい、また居間に戻らせてもらった。

「31ですよ。もうそんな歳になりました。」

中島夫人は素直に年齢を告げてくれた。

「そうですか…するとあの五十野家の長男坊も。」

「五十野六甲です、先生。」

中島氏に訂正されて私は言い直した。

「五十野六甲氏も31歳ということになりますわな?」

あのどっからどうみても小学生にしか見えない、坊主頭の少年の実年齢は目の前の二人と同じなのだ。

「その事ですがね、先生。」

居住まいを正した中島氏が私に問いかける。

「妻の実家が不動産業を営んでいるのはご存じでしょうか?

頷いた私たち夫婦に彼は恐ろしいことを告げて来た。

「五十野家があの家に越して来たのは、1946年のことらしいんです。」

1946年?私が21歳のころじゃないか。

「その時にもうほぼあの家族構成だったらしいのです。」

そんな、そんな訳が…。

「そ、それならあの一家の実年齢は?」

「ご主人の五十野大雪さんが90歳、妻の眉さんが88歳、長女の富士子さんは60歳、長男の六甲は47歳、妹の皆子ちゃんは45歳、河豚田金比羅氏は64歳、その息子の三宝ちゃんは、三宝ちゃんは39歳なんでちゅぅ。」

私は絶句してしまう。

土日祝日の朝から大騒ぎする者達、でちゅでちゅ言う男はもう中年で、我が娘を犯し続ける男が還暦を過ぎているとは…。

「もっと詳しくお知りになりたくはないですか?」

中島氏は私に一人の苗字を告げた。

「濱さん?私の家の持ち主だった、あの濱さんですか?」

中島氏は頷いて見せる。

「なぜ濱さんが新築で10年も経っていない家から、逃げるようにして出て行かれたのか。うちの父も首を傾げるばかりでした。」

中島夫人が強い口調で言った。

「伊佐坂先生、伊佐坂先生なら濱さんがどこに居られるのか、お分かりになるんじゃありませんか?」

確かに編集者に尋ねれば現住所が分かるかもしれない。

「私は五十野家を見張らなければなりません。その為に先生の真似をして物書きをやらせてもらっています。」

なんと中島氏も小説家の卵なのだと言う。

「ほほぅ。それはそれは。してどのようなご本を?」

中島氏は本棚からまた一冊の本を取り出して、恥ずかしそうに私に見せた。本の題名は“風が凪ぐ街”。私はその題名を良くしてしっていた。有名な文学賞二冠を達成したという、伝説のようなベストセラー小説ではないか。

「あなたはあのなかじまひろしですか?」

写真等は一切NGということで。私はその顔を知らなかったのだ。

「ええ。本名を全部平仮名にして、ペンネーム代わりに使っています。」

私は何だか居たたまれなくなって、中島家を辞去することにした。

「今日はありがとうございました。情報が入りましたらご連絡しますから。」

そう言い置いて中島家を出て、ぐるりと回って我が家へと向かう。


家にドタドタと入って行き、電話帳で編集者の家に電話を掛けた。最近黒電話からプッシュホンに変えたばかりで、力の入れ加減がまだよく分らない。一つ一つ慎重に押して10桁の番号をようやく押し終わった。

「あ、伊佐坂です。ご無沙汰を。唐突で申し訳ないが、あの私の家の前の持ち主の濱さんね。あの人と連絡を取りたいんだが…え?亡くなった。亡くなってしまったのか…。あ、そうですか、いつ頃?10年前…。あのう、ご家族は今どちらに?あ、奥様も後を追うように亡くなられた…。え?ハイ、娘さん?そうですか、娘さんが居らっしゃる?みつこさん?字は?ああ、はいはい、美津子さんと。ご住所は?うん、うん、うん、分った。ありがとうありがとう。」

メモした紙を持って妻に命じて小さいバックに二人分の簡単な宿泊道具と着替えをまとめさせた。

「おまえも来なさい。ちょっとまだ腰が痛むから。」

階段で二階を見上げ、浮世に声を掛ける。

「浮世、ちょっと出かけて来る。泊りになるかも知らん。」

「うん、うん。」

浮世の声を確認し、妻を急かせて家を出た。

主が居なくなった家の二階で浮世が男にバックから犯されている。男の足元は土足のままだ。

「うん、うん、あん、あん。」

部屋は主の書斎で開け放たれた窓から、五十野家が良く見渡せる。五十野家からは金比羅以外の住人が、縁側に並んで伊佐坂家の二階を見上げている。金比羅はその家族にピースサインを送っている。


新幹線で静岡駅に着いたのは午後の四時過ぎだった。タクシー乗り場でタクシーに乗り込み、教えられた住所に向かう。車はどんどんと郊外に向かって走る。山間の小さな一軒家の前で車が停まった。

「こちらしかないと思うんですがね。」

運転手の言葉から、付近に住居が無いのだと分った。

「君、金は払うから1時間ほど待っていてはくれまいか?」

運転手にお願いし、そこまでの金を払って妻と二人でタクシーを降りる。

家の玄関に行くと、紙に“濱”の文字がマジックで書かれ、上からセロテープで幾重にも貼られている。シンプルな呼び鈴を鳴らしてみる。

ジリリリリ。

家の中で人の気配がし、ガラスの引き戸に人の影がうっすらと映った。

「はい?」

探るような声が聞こえて来た。私はその人影に向かって声を張り上げた。

「あ、ご無沙汰をしております。私、伊佐坂です。」

「いささか?」

少し間があってから鍵を回す音がして、ガラガラと引き戸が開いた。

中に居たのは浮世と同い年くらいの女性だった。だがその顔には生気が感じられない。痩せ細り疲れ切った感じがする。髪もボサボサで化粧もしていない。髪を整え化粧すればかなりの美人だとは思う。

「突然伺いまして恐れ入ります。20年前お宅を譲り受けた伊佐坂でございます。」

「妻のおからです。」

二人して深々と頭を下げる。

「本日はどうしてもお話を伺いたくて、東京から参りました。」

少し迷ってから彼女は家に招き入れてくれた。

玄関から入るとそこには一部屋しかなかった。その一角に仏壇がある。そこには見覚えのある男性とその妻らしい女性の顔写真が置かれていた。

「本当に亡くなられたんですね。」

私と妻は断ってから仏壇に線香をあげさせてもらう。

濱さん、いったいあなたに何が有ったんですか?

心の中で問いかけるが、当然返答がある訳はない。

振り返ると小さな木製のちゃぶ台に、お茶が三つ置かれていた。

「あ、これは恐縮です。」

「どうぞ、粗茶ですが。」

喉が渇いていたので卑しくも茶碗に手を掛ける。手に取った茶碗の中身を見て、思わず声が出そうになった。

うっす⁈

水ではないが茶でもない。だがそこに茶柱が一本立ってはいる。恐る恐る口にしたが、やはり薄いししかも温い。少しだけ喉を潤して早々に本題に入ることにした。

「あの、今日伺いましたのはお隣の五十野さんのお宅の事でして。」

私が告げた途端、彼女がキッと私を睨みつけてくる。

「お帰り下さい。あの家の事は何もお話したくはありませんっ!」

意外にもキッパリとした彼女の言葉に、私は逆に確信を持った。

「濱さんも何かご存じなんじゃありませんか?五十野家と河豚田家について。」

私が河豚田の名前を出した時、彼女はワッと泣き崩れた。妻のおからがそっと立って、彼女の傍らに座りその背を撫でてやる。

「あの一家のせいで、あたしも父も母もおかしくなってしまって。」

彼女が泣き語った話は凡そ次のようなものだった。

引っ越して来てからまずおかしくなったのは母親で、一日中ぼぉっとしていることが多くなったと言う。次に父親がおかしくなり、絵が描けなくなったのだそうだ。

「家に収入が無くなってしまい、困っているとあの男があたしを誘って来たんです。良いアルバイトがあるよって。」

「してそのアルバイトとは?」

私が聞くと彼女は口籠り、唇を噛んだ。その唇から血が零れた時、彼女はついにわが身に起きたことを語った。

「公園であたしとの性行為をお金を取って見せたんです。ご近所の不動産屋さんも、三河屋の御用聞きも、学校の先生も居ました。子供まで居たんです。その人達の輪の中であたしは、あたしは…。」

後は言葉にならなかった。おからはずっとその背中を擦っている。

三瓶君、君は知っていたんじゃないか。

彼の真面目そうな顔が浮かんだが、自身と照らして彼を非難することは出来ないと思ってしまう。致し方ないことなのだ。男は欲望を吐き出すことに対しては、無意識のうちに本能のままになる。そんな男性の性があるからこそ、私の小説も成り立っている。何よりも憎むべきはあの男と、それを許すあの一家だ。

「あなただけじゃない。実は私たちの娘も同じ痛手を負っております。」

私は正直に彼女とも不幸を共有することとした。簡単に理由を説明し、三人でさめざめと泣いた。

「父の書いた最後の絵。ご覧になられますか?」

妻と顔を見合わせてから頷いて見せる。彼女は仏壇の後ろから小さなキャンバスを出して来た。昔の14インチのテレビくらいのサイズだ。裏返しにされた絵には、小さな煙突付の小屋とそこに向かう黒い6人の人物の影のような姿が描かれている。

ん?いや7人か。

よく見ると最後の人物は小さい子供を肩車している。もしかするとあの一家を描いた絵なのかもしれない。

「あの家族を終わらせたい、そう言って描いたものです。」

美津子さんが絵から目を離さず、懐かしそうに言った。

「私があの家族に報復します。お約束しますよ、美津子さん。」

男、伊佐坂堅物80歳。漢になるか否か。今が人生最大の試練の時かも知れない。


夜の8時にようやく家に辿り着いた。だが私たち夫婦が目指すのは我が家ではない。食事は新幹線の中で済ませてある。準備万端だ。

「ごめん下さい。五十野さん、伊佐坂です。」

玄関の引き戸前で声を張り上げる。誰かがやって来る気配とともに、声が聞こえる。

「はーい。」

ガラガラガラ。

「あら、伊佐坂せんせい、おからちゃん。」

驚き顔の五十野夫人に私は精一杯胸を張って言った。

「一日に二度も申し訳ない。ご主人は居られるか?」

「はあ、居りますが。お上がりになりますか?」

招かれるまま靴を脱いで家に入る。おからも私に着いて来る。居間に着くと五十野氏しかいなかった。

どうしたものかと思ったが、先ずはこの家長を説得する方が先決に思える。彼一人なら却って好都合だ。

「あ、こりゃあ伊佐坂先生。昼間はどうも。」

五十野氏の態度は落ち着いている。彼は昼間のことをどう思っているのだろう。

「五十野さん、昼間の話なんですがね。」

私は案内も待たずに畳にどっかと腰を降ろし、胡坐を掻いた。横に妻も並んで女座りの姿勢を取った。

「あなたは五十野家、いや河豚田家もだ。この家の住人のことをどう思っていらっしゃる?」

私が切り出すと五十野氏は、キョトンとして私と妻を見比べている。

「まあまあお時間もお時間ですし、どうですか?おビールでも。」

五十野夫人がお盆にビールの大瓶に二本とグラス、枝豆を乗せてやって来た。

「私はここに酒を飲みに来たのではないっ!」

厳しい声を出したつもりだが、五十野氏には完全に無視されてしまった。

「じゃ、わしは頂くかな。」

コポコポとグラスにビールを注ぎ、勝手に飲み始めた。

「っかぁぁぁあああ美味いッ」

ゴクリ。

余りにも美味そうに飲まれてしまい、生唾を飲み込んだ。五十野氏は枝豆を摘まみながら、ビールをクイッと空けて次を注ぎ込む。

「んで、何でしたかなぁ?」

惚けた声を上げ、上目遣いに私を睨む。

「五十野さん、お宅の子供らの悪ふざけはまだ私も許そう。だがここの婿のやってることは犯罪ですよ。今すぐ止めさせなさい。そして自首するんです。」

私が一つ一つ区切るように告げると、カラカラと笑って今度は私を見下ろすようにして見て言った。

「ほほぅ。自首ですと。何の罪で?」

「そりゃあ決まっているでしょう?美津子さんへの暴行と、うちの浮世への暴行ですよ。」

またビールを空けた五十野氏は、更にビールを注ぎながら言った。

「おかしなことを仰る。あなた作家さんなのに時効というものを知らんのですか?」

時効…時効だって⁈

「そ、そりゃ、知ってますよ。ですがね、時効が過ぎていようがいまいが罪は罪でしょう?」

私は頭に一気に血が上る。

「あなたそりゃ法治国家への反逆ですよ。なんの為に法律があると思って居られる?」

一瞬言葉を失ってしまい、我が娘の顔が思い出された。

「うちの浮世はどうです?今でも暴行を受けております。」

そう言った私を、馬鹿にしたような顔で私を見る。

「あなたは本当に作家さんですか?和姦というものをご存じない?」

「和姦⁈あれが和姦だと、合意の上だとおっしゃるんですかっぁ!」

私の怒りは頂点に達する。

「アレはどうだか分かりませんがね。これはどうだか分かるつもりです。」

ガラ。

五十野氏が襖を開けた。そこに居たのは…コンピラからバックで貫かれる我が娘浮世の姿だった。浮世は声を上げて喘いでいる。

「ひー、ひー、ひー!」

浮世が顔を後ろに捩じり、舌を長く出してコンピラのソレを求める。応じたコンピラと浮世の口と口を透明な筋が結ぶ。

「浮世っ!お前は…。」

浮世の顔が一瞬、悲しみを帯びたがまた陶酔の顔に戻って行った。

ダンダンダンダン。

踏み鳴らされた足音の後、茶の間に男性が一人入って来た。中島氏だ。中島氏が鬼の形相で五十野氏を睨みつける。

「やい、五十野大雪っ!貴様がやって来た悪行三昧、この中島ひろしが暴いてやるっ!」

言い放った中島氏に台所の方から声がする。

「おい、中島。悪行三昧ってのにはこれも含まれんのかーい?」

五十野家長男が四つん這いの女性を這わせながら、その尻のところで腰を突いている。その女性はなんと中島夫人の華子さんだった。

「は、華子…。」

「ハーッハッハ、驚いたか中島ぁ?華子を女にしてやったのはこの俺だぁ‼」

中島氏が膝を折る。

「華子だけじゃねぇぞ。早川もかおりも生理が始まったと同時に俺が女にしてやった。お前よくこんなガバガバな女と結婚したよな?ストライクゾーン広すぎらぁ!」

「六甲くん、ああ、六甲くん!」

中島夫人が喘ぎまくる。中島氏は耳を塞ぎ蹲る。

ああ、これが天阿鼻叫喚の地獄絵図というものなのか。

玄関に続く廊下からまた別の声が聞こえて来る。

「あ、あああ、富士子さん、そんなに強くしないで!」

その声は我が息子、蔵六の声だった。蔵六が自分の股間にへばりついたフジコさんを従えて、茶の間に入って来た。

「あああ、やっぱり、富士子さんは最高だ。最高のテクの持ち主だ!」

蔵六?なんでここに…?

五十野氏が嬉しそうに語る。

「お宅のお子さんは宅の富士子の尺八が大好物でしての。アルバイト前には必ずスッキリして行かれるんですわぃ。」

一体全体何がどうなっているものか?

いつの間にか隣の部屋に次女と甥っ子と何処かの幼児がいる。幼児はまだ赤子に近い。甥っ子が正常位で叔母を襲い、その口に赤子が容赦なく自らの小さなイチモツを加えさせている。

「ああ、三宝ちゃん、蛍ちゃん!」

そこに私担当の編集者、川辺玄五郎がやって来て三宝と交代する。

「ハーイ、パッパ、ハーイ!」

赤子がはしゃぎながら手を叩く。

嗚呼、阿鼻叫喚の地獄絵図とは、なんと奥が深いものか?

「本当に若い人たちはお盛んねぇ。」

「本当に。あたし達の若い頃なんて口を吸い合うのも恥ずかしくてねぇ。」

「あらやだ、おからちゃんはまだ若いわよぉ。」

「そう言うまゆちゃんだって。」

台所で妻と五十野夫人が井戸端会議を始めている。

「まいど、三河屋でーす。」

勝手口の扉が開き、三瓶君が顔を覗かせる。

「あら三河屋さん。ちょうどよかったわ。ちょっと切れてるものがあるの。お醤油とローションと料理酒とコンドームを1ダースと…。」

五十野夫人の注文を三瓶君がメモを取っている。メモを取りながらご機嫌を伺う。

「今日も五十野さんとこはお盛んですね。」

「あら、あなたもどう?息抜きに。」

五十野夫人が声を掛けると三瓶君の顔がパァッと明るくなった。

「え?いいんですか。じゃ、お言葉に甘えさせて頂いて。」

勝手口から上がり込んだ三瓶君が、五十野夫人を後ろから羽交い絞めにした。

「あら、ちょっと、いやですよ。三河屋さん。」

「三瓶、三瓶って呼んで下さい。」

三瓶君が五十野夫人の顔を強引に振り向かせ、その唇を奪う。左手で夫人の胸を揉みしだく。

「ああ、奥さん。僕は前から奥さんのことを…。」

我が妻おからが潤んだ瞳でその光景を見ながら、自分の着物の裾をたくし上げ股間を弄り出した。

「金比羅兄さん、競争ですよ!」

ロッコウ少年の声が聞こえふと見ると、隣の部屋で奇妙なレースが始まった所だった。ロッコウがバックで中島夫人を突き、突くごとに中島夫人が四つん這いの姿勢で前に進む。その横で浮世の背後でコンピラが腰を振り、浮世が徐々に前に進む。更に五十野家次女の尻を河豚田家長男が突き動かす。一番手前で我が長男蔵六が河豚田夫人の尻に激しく己の腰を叩き込んでいる。

「さあ始まりました、鵯超え誰が早いか選手権!解説の川辺蛍さん、これは仏壇返しでもいいんでしょうか?」

「ハーイ!」

我が編集者川辺玄五郎が、赤子とはしゃいでいる。彼らはどうやら親子らしい。子供の名前を蛍にしたのだと依然聞いたことがある。

「玄五郎に蛍かい?君も案外単純だねぇ。奥さんは八子だったりしてね。」

そんな会話をした覚えがある。

「あー金比羅兄さん、押し車は反則ですよっ!」

「えーーー⁈そうなのかい、六甲君。」

浮世の両の太腿を抱え上げ、リードしていたコンピラが足を止めた。

「いかんな、金比羅君。ズルはいかんよ。」

イソノ氏が窘める。頭を掻いた金比羅が二、三歩後ろに下がった。

「さあ、これでまた分からなくなって来ました。レースは横一線、二人の気の合い方も重要です。」

川辺が解説する横で、赤子が手を叩いて喜んでいる。

「あーっと、ラストスパート!速い速い速い!なんと優勝は伊佐坂蔵六、河豚田富士子ペアです!」

「なんじゃと⁈ああ、大損じゃわい。」

イソノ氏が万札を数枚、川辺に向かって放り投げた。いつの間にやら賭博も成立していたらしい。川辺がニヤニヤしながら札を拾う。

「どうもすいませんねぇ、おじさん。」

ボォッとする私の目の前で蔵六が高々と右手を上げている。我が子の晴れ舞台だ。

ああ、良かったな蔵六。これでお前はもう大丈夫だな…。

薄れゆく意識の中、最後に見たのは私を見つめる家中の者達の視線だった。


♪ なんだっ坂 いっささっか こんな坂 いっささっか

♪ カタカタ かったぶっつ ガタガタ 総入れ歯

もうあれからどれくらい経っただろう。一週間か或いはそれ以上か。布団から起き上がれない日々は永くそして短くも感じる。目を開けた私の耳にあの歌声が聞こえて来た。

♪ いっさっさか かたぶつ 寝たきり かったぶつ

歌詞が少し変わったな。

そんなことを思いながら、再びまた目を閉じる。頭の中に一つの歌が浮かんで来た。それは私に出来る唯一の復讐だった。


♪ ポコチン咥えたフジコさん 引き離し

♪ 裸で 寝ている 元気なコンピラさん

♪ フジコはし足りない でもコンピラは種切れ

♪ るーるるるる る―

♪ 昨日も犯り過ぎたー


♪ 女を買おうと街まで 出掛けたが

♪ 財布を 忘れて うっかりコンピラさん

♪ 今日はしょうがない フジコで我慢しよう

♪ るーるるるる るー

♪ 今日はボランティアー


♪ 子供を広場に集めて 性講座

♪ 本当に してみせる 陽気なコンピラさん

♪ 相手は美津子さん 三瓶さんが勃起してる

♪ るーるるるる るー

♪ 今日は絶好調!


♪ 明るい家庭を築くため コンドーム

♪ 毎日 使ってる 律儀なコンピラさん

♪ ダイセツが真似してる マユが喘いでる

♪ るーるるるる るー

♪ ダイセツは腹上死―


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伊佐坂生の憂鬱 ―There are people inside the TV― 犬神日明 @futtotto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ