第6話 皇子の日常 2 ~回想と考察(改)
本日も朝から講義があり、皇子も大変な職業だなとぼやきながら受講した。
一段落して茶を飲みながら時間もあるので、この間の整理をすることにした。
まずは昨日の修練場で思い出した警察署での酷い経験を振り返ってみた。
昔、剣道部に在籍していた高校生は警察署の稽古に行けることになっていたので、興味があったから参加してみることになった。
東京、千葉など関東近県や機動隊の警察官は全国剣道大会で優勝するような猛者が多くいたので憧れでもあった。
警察署に着き緊張しながら剣道場に足を踏み入れた。
まず準備運動、素振りや足裁きなど基礎練習をし、『切り返し稽古』から『追い込み稽古』と慌ただしくこなした。
そして、いよいよ『かかり稽古』の段になった。
手合わせする高段者の警察官に礼をして、竹刀を合わせて稽古を開始した。
開始早々、『かかり稽古』は隙に技をどんどん繰り出して攻める稽古であるため、矢継ぎ早に打ち込んでこられて、いなしたり避けたりする防戦一方に陥ってしまう。
何度も攻撃しようとするも、逆に手痛い一本を取られる始末。
暫くその状態を続けていたが、警察官が急に思いついたようで驚くべき事を言った。
「さて、このまま続けてもあまり意味が無いので、実戦的な体験もしてもらおう」
(実戦経験って何? どういう意味?と頭の中で多くの疑問符が浮かんだ)
「では、開始する」との掛け声の後、信じられない事が起きた。
怒涛の攻撃を避けるために間合いを詰め、鍔迫り合いに持ち込んで押し合いしたが、その瞬間になんとパンチを喰らったのである。
そのうえ、足払いをされ、転倒したら立ち上がるまで、何度も面を打ち込まれ鼻の奥が痛くなった。
「武器に頼るな、実戦では攻撃はどんな形でも行え」 (なんという稽古だこれは!)
「スポーツの剣道は打突時に腕を伸ばして一本取ったとアピールするが、あれでは刀でぶっ叩いただけで打撲で終わり、切れる訳がない。」
「刃は押すか引くかしないと肉や骨など切れない。その分の腕の可動域を確保して刃を当てるようにしろ」
(警察がなんということを教えるんだ!と驚いてしまった)
そんな前世の記憶を思い出したが、この世界では常識なんだろうなと思い、とんでもない世界に来てしまったなと溜息が出た。
一方、昨日の手合わせした際に洪有徳の体から緑の霞が出てるのを見た状態について考えてみた。
あれは、どうやら相手の感情の発露に関係しているように思えた。
自分に対し信頼や好意がある場合は緑の霞が見えるらしい、侍従の俊宇も濃い緑の霞が見えた。
その状態になると、副次的に相手からの思念波を受け取る事が出来て、思考が読み取れるらしい。
異能ではあるが、発現の仕組みは意識的に目を細めて一度瞬くと発生、さらに短い感覚で連続して二度瞬くと消えることを、先ほど俊宇相手に試して確認した。
その結果、俊宇は俺への好意と心配ばかりしているのが判明し、いつも苦労かけているなぁと思い深く反省する羽目になったのだが・・・
取り敢えず、この異能については理解したことにして、考察を終えた。
まもなく皇子として御前会議にオブザーバーとして参加する時刻になるので、支度を始めた。俊宇を伴い禁中の聴政殿に向かう。
聴政は皇帝、皇太子、俺、左丞相、右丞相、皇帝から召喚された吏部尚書、戸部尚書、礼部尚書、兵部尚書、刑部尚書と一部の高級官僚が参加する少人数の会議である。
その会議による議論で国の政治方針が決定されるので、皇太子や皇子の俺も後学のために出ている。
本日は城下の治安に関して刑部尚書の奏上、山賊の討伐に派兵に関する兵部尚書の奏上、その案件に対する財政措置で戸部尚書の奏上と諸々の議論がなされる。
その長い退屈な議論を真剣に聴いている皇帝陛下、皇太子殿下を尊敬する。(俺は無理)
することが無いので、異能のテストを行ってみる。
異能による複数同時の観察や思考を読むのは頭が情報過多でパンクする可能性あるので、ターゲットを絞り、トライしてみた。
皇帝と皇太子、両丞相は、緑の霞が見えた。
どうやら、俺に関心が無い場合は白い霞、あまり良く思っていない場合は黄、となると嫌いと思っている場合は赤になるのだろうなと推測する。
思考読み取りは気分が悪くなりそうなので止めることにした。
聴政は滞りなく終わり(内容覚えてないが)、こちらのテストも有意義に終わり、今日は吉日であった。
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