第2話 転生(改)

 頭が割れるような痛みで目が覚めた。

 重い瞼を徐々に開けてみたら、見慣れぬ寝台に横になっていて、天蓋や几帳というか?カーテンが周囲に引かれているのが目に入った。

「あれ?ここはどこだろう?」と呟いた。

 そもそも自分は山で滑落事故で死んだはずではという認識が遅れて出てきた。

 まるで、神経伝達速度が遅い恐竜並みの反応であると自分でも呆れる。

 几帳を少し開き、そっと周囲を窺うと室内は見慣れぬ調度品があり、その意匠も違う世界のものであるという違和感を覚えた。

 窓に目を移すと格調高い吉祥文様の格子の透かし建具が嵌めこまれていた。

 そう、まるで古代中国のようである。

 現在自分がおかれている状況を把握するべく周囲を観察するが、謎が深まるばかりである。

 すると、何故か妙な記憶が浮かんでくる。

 自分は「李 浩然(リー ハオラン) 李帝国:第二皇子  年齢:17歳」・・・

 「え!何それ?? 嘘だろう??」

 まさか、ラノベであるあるの転生とか。

 こうなると自分の頭を疑うしかない。

 「大丈夫か俺?」

 でも現実は奇なり、受け入れるしかない。

 それというのも、 全く知らない「浩然」の朧気ながら記憶の残滓があるから。


 「浩然」は先日、皇帝主催の狩猟大会に参加していた。

 その最中に近くの大木に落雷があり、発生した衝撃波により吹き飛ばされて、地面に叩きつけられたようである。

 そのダメージによって「浩然」の魂は失われたが、平行世界で同時期に離脱した生命力が溢れた「晃」の魂が強制同期して「浩然」として蘇り、この世界に転生が完了した。

 ・・・と、かなり無理がある解釈だが、事の顛末は状況と記憶に基づけば、あくまでも想像でしかないが、納得するしかないのであった。

  「とにかく、今自分は生きているらしい・・?」

  ならば、この世界に順応して生きていくしかないと思いを定めた。

  まずは、上体を起こし寝台から足を床に降ろして立ち上がってみる。

 多少ふらつくものの、背筋を伸ばし、襟を整えて履物に足を入れて歩いてみる。

 そして手近な机に向かい、ふらつきながら長椅子に腰掛けた。

 その際に机に足が当たって、机上の漆器が床に落下して音を立てて割れてしまった。

 そうこうしていると急に扉が開き、若い人物が飛び込んできた。


 「浩然様!お気づきになられたのですか! 奇跡が起きた!なんと神は慈悲深い!」と叫びながら、涙を流しながら駆け寄って来たではないか。

 (なんだこいつは鬱陶しい。確か侍従の・・そうだ黄 俊宇 (フゥァン ジュンユー )とかだったな)

 「俊宇、騒々しいし、大仰だぞ!」と叱咤する。

 すると、 俊宇は心外なことを言われたようにぽかんと口を開けて目を大きく見開いて唖然とした。

 「何をおっしゃっているのですか、浩然様! 3日も意識不明の状態で、私がどれだけ心配したか!」と泣き崩れる始末・・・

 男の泣き崩れる姿など最も見たくない最低の絵面なのだが、何故か申し訳なさを感じて目を逸らした。

 きっと常日頃心配をかけさせている引け目のためだと判断したので、黄に近寄りその背に手を伸ばした。

 そして「心配かけてすまなかった」と声を掛けて、軽く手を当てた。

 ようやく黄の愁嘆劇は終わり、現金なもので黄は有能な侍従として復活したのである。


 それから怒涛の説教タイムが開始された。

 「大体、浩然様は自覚が無さすぎです。 御身は皇太子に次ぐ皇位継承権第二位で、禁軍をはじめ国軍の総帥になられる予定のかけがえのない存在なのです」と一気にまくしたてた。

 「にもかかわらず、 狩猟大会において駿馬を駆って私のみならず供を出し抜き、お一人で森の奥に突進するなどもってのほかでございます」

 「その挙句、あわや落雷によって身罷られたかもしれないと思うと、今でも肝が冷えます」

 と、くどくどと説教されてしまった。

 また日頃から無茶な行動で周囲を振り回すことを止めないことを一々例を上げて苦言を呈する始末。

 うんざりする嵐の時を経て、黄が疲れたのか一瞬途切れたので、機先を制し主導権を得るため発言した。

 「満足したか?」

「とてもご理解されていないお言葉に落胆を禁じられません」と返される。

 「わかった、分かった、わかった」と白旗を掲げる。


 こうして李浩然の変わらぬ?鬱陶しい日常が続くことになり、榊 晃としては新たな人生が始まった。

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