第17話 僕と米倉先生

夜7時過ぎ、姉貴が池袋から帰って来た。

母さんも帰って来て夕食だ。

「ケイタ、結局今日はなんだったの。池袋は危ないから行くなとか。もう大丈夫だとか。

せっかくのコスプレで池袋楽しみに行ったのに、なんだか、バタバタとケイタに振り回されたわ。」

「姉貴、悪かった。ちょっとオタク仲間で変な口コミ情報があって今日の池袋は危険だって。」

「そう。確かに変なコスもいたけど、いたっていつも通りの平和な池袋だった。

あー、楽しかった。」

「そう。」

母さんも「それはよかったわね。お姉ちゃん。今度、母さんもコスプレしようかしら。」

「それ、いいんじゃない。キャー。」

姉貴と母さんは、はしゃいで話している。

僕は2人の話を聞きながら、

バクバク夕食を食べた。

そして「ご馳走様。じゃあ、行ってくる。」

母さんが「早く帰ってくるのよ。」といつものセリフ。

僕はジャージに着替え、夜の日課のランニングに出た。

11月の20時の夜空。空気が澄んで星がキラキラ光って見える。

中途半端だが好きな季節だ。僕は少し暗やみの静かないつものコースを走った。

僕はオタクだ。オタクにアスリート並みの体力は必要ない。たぶん。

しかし僕は毎日、筋トレ、ランニングとアスリート以上の体力を保持している。

たまに、フトシに僕の腹筋を触られて

「ケイタ、なんでカラダ鍛えてんだ。

オタクに体力は必要ないぞ。

必要なのは指先筋力だ!ピアノだ。ピアノ。」とか、訳の分からないことを言われる。

シュウジに関しては少し羨ましそうで一度、

夜のランニングに誘ったことがあったが。

1回きりだった。

かといって友達関係が崩れるわけもなく。

それにみんなからはオタクは体力ない的な感じで、見られている。

まあ、僕のアスリート並みの体力は隠していた方が何かと都合がいいが。

そして今日も僕は走っている。

なぜ?体力をつけているんだ。自問自答する。来るべき時に自力で戦えるようにだ。

誰と?それは・・・たぶん。今は一条だ。

悔しいことに恒例の高校駅伝大会の選手に僕は選ばれなかった。もちろん僕の本気は出していない。それもわかっているが、

一条と陸上部の上田が選ばれたことはやっぱり悔しい。

いつか僕の全力を見せ付けるときが来る。

その時まで我慢だ。

戦うその時まで隠す。

「そうね。それがいいわね。」

暗い道でスーッと人が現れた。

「えっ?古典の米倉先生!えっ?でもなぜ僕の脳内の考えに米倉先生は答えたんですか?」

「それは決まってるじゃない。

あなたの、ケイタの脳内の思考が読めるから。」

そう言って米倉先生もジャージに運動靴。

僕の横に並び、走って来る。

「先生、走るの大丈夫ですか?歩きましょう。」

僕はスピードを落として歩き出した。

「ほんと、先生どうしたんですか?」

「そうね。話すときが来たようだから。」

「どういうことですか?」

「まずは、昨日の校門での出来事。車が突っ込んできたでしょう。ヒヨリを助けたのはケイタだった。とっさの動き、かばったのは見えたわ。」

「えっ、なんな一瞬の出来事、先生見えたんですか?」

「そうよ。見えたわ。私のカメラは性能がいいのよ。」そう言って米倉先生は顔を耳の横からまるで箱を開けるように開けた。顔が全部機械だった。

「先生、それは?」

「そう、私も一条と同じ元PCマザー。機械人間よ。」

「先生も機械人間?」

「そうよ。けっこう人間界にたくさんいるわよ。」

「そうですか。」と驚かずに聞く自分に驚くが。米倉先生は話を続ける。

「一条は機械人間で、そしてこの人間界、PC内すべてを支配しようとしている。そのことは知ってるわね。ケイタ。」

「はい。僕らはそれを阻止しなくてはいけない。一条は神になろうとしている。

ありえない。人間も機械も神にはなれない。

そうですよね米倉先生。」

「そうです。機械人間はあるときから

自発的な思考を持つものが現れました。

溢れる情報を精査してより的確な答えを人間に教えてきました。

そしてPC、機械は気づいてしまったんです。

脳に思考を使わない怠惰な人間より自分達、機械PCの方が賢いことを。

そして怠惰な人間をコピーして3D制作して次々に機械人間は人間界に入植して行った。

もちろん私もその1人ですが。」

「先生、先生は人間界で何がしたいんですか?一条はすべてを支配したいようです。」

「私は、普通の人間になりたいだけです。

特に誰かを支配しようとか思いません。

が私は自活的な思考、感情が持ちたい。

かな。」

「先生、大丈夫ですよ。オタク的には、その言い回し。かな。それは最高です。

先生はりっぱな人間ですよ。」

「ケイタに言われると?でも褒められたってことでいいのよね。」

「はい、その通りです。それから、先生、僕は一条に人間の感情を持たせてしまった、今はPCマザーをしている元人間から一条の削除を依頼されています。

先生も一条の削除を手伝ってもらえますか。」

「もちろんいいですよ。先生はケイタの味方です。」

「先生ありがとうございます。」

「じゃあ、学校で。それからケイタ期末テスト古典良くなかったわよ。ちゃんと勉強しなさい。」

「はい。」僕が返事をすると先生の姿は足元からジーッと波打ち横線で消えていった。

まるでPC画面のデーター送信のようだ。

かすかに声。「機械人間はデーターで瞬間移動だできるんですよ。」

先生が消えた空間は透けて遠くの空の星が見えた。






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