第2話  フィギュアの早川くん

時計を見た。3:00。机の上にフィギュアの姿の早川くんがいる。「戻った。」

僕はフィギュアの早川くんを触ってみる。

いつもと変わらずに柔らかい。

きめポーズの早川くんだ。動かない。

もちろん、しゃべりもしない。

「どうなってるんだ。やっぱりさっき見たのは夢?だったのか。」

僕はもう一度、時間を見た。3:02。

「寝よう。」

PC画面が明るい。

エンターキーを押した。

ネットニュースが明日11月10日 日曜の池袋。お昼の時間にSビル内エスカレーターで緑のフードの男が女性のカバンを盗む事件が起こりました。

11月10日?見間違えか?今日は深夜、早朝11月9日?まあ、いい。

僕は画面をそのままスリープモード。

ベットへ戻った。正直眠い。頭もふらつく。

さっきの幻の動きだしたおもちゃの早川くん、人型になっていたことが気になるが、とにかく今は寝る。

僕は布団をかぶった。

目を閉じた。睡魔はすぐさま僕を眠りの中に連れて行った。瞬殺だ。

しばらくした。今度は夢だ。夢の中だ。

カラダが浮いている。小さい頃の僕がいる。

絵本を見ている。おもちゃの兵隊。

そうだこの本。なぜか好きだったんだよな。

5才?ぐらいかな。小さな僕が、男子の悲しい過ぎる現実を知るための本だった。

でも絵がきれいだった。バレリーナ。

「ピピッツ」携帯がなる。朝だ。寝不足か。「頭が痛い。」

「ケイタ。起きなさい。遅刻するわよ。」

そうだ、今日は一限目から体育だった。

決まって土曜日の体育。

だるい。

今日は2時限目から学校へ行くか。

なんて気の弱い、僕には、できないし。

仕方ない。よし起きるか。

僕は起きてチラリ、机の上の早川くんを見た。

「おはよう、早川くん。」

これもいつもの朝の儀式だ。

「おはようございます。隊長。」

えっ?「えーーー!」今、返事した?えっ?

いやいや。幻だ。昨日の夜に変な、人型の早川くんの幻を見たからだ。

あるはずがない。幻だ。幻。

幻聴も聞こえるとは。

オタクはすべて2次元で脳内は完結しなければならない。

さあ、ご飯、ご飯と。僕は部屋を出た。カタン。机の上の早川くんが少し動いた。

僕は少し遅刻気味で家を出た。

途中校門前、信号に引っかかる。

反対側からイケメン男子の一条とクラス一番人気の可愛い、ヒヨリが一緒に歩いて来た。

2人は付き合っているのか?

目立つ2人だ。

まあ、僕には関係ないが。

ヒヨリは幼なじみだ。

特に可愛いと意識したことはない。

小さい頃は、近所の公園でよく遊んだが、

いつ頃からか、話さなくなったな。

別に興味はないし、まあ、いいけど。

信号が変わる。僕らは横断歩道を渡った。

右から信号無視の車が。

「危ない。」

僕は、とっさにヒヨリを押して一条側に

押し飛ばした。

「キー!」っと車の急ブレーキの音。

「ヒヨリ大丈夫!」さわがしい女子達が集まって来る。

校門に立っている先生達も「大丈夫か。」

みんな2人のまわりに集まった。

かなりの騒ぎになっている。

古典の女子の米倉先生だけが

「ケイタ、大丈夫?」僕のそばに来た。

なぜか、米倉先生は、不思議だが、いつも僕を気にかけてくれる。

「僕は問題ないです。2人を見てあげてください。」

僕はするりと生徒たちの間を抜けて校門へ入った。

「おーいケイタ。大丈夫だったか?」

オタク友のシュウジにフトシが、かけよって来た。

「大丈夫だ。問題ない。」

「そっか。じゃあ教室へ行こうぜ。」

フトシが僕の背中を押す。 

車からの瞬時の回避。誰にも見られていないようだ。よかった。

オタクが運動神経がよくって、動きが早いのって似合わないからな。


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