「小さい頃、こんなことがあった」


 田舎のおばあちゃんの家に預けられて、泊まりにいった日。畳の部屋に布団を敷いてもらって寝たんだけど、家には畳なんてなかったから新鮮で、普段と違う家なのもあってなかなか寝つけなくて。布団から手足を出して、さらさら感触を楽しんでいたんだよね。そのうち、右手と左足のつま先に誰かの肩と太腿が当たった感触があって、とっさに、ごめんなさいって言って掛け布団の中に手足を引っ込めたんだ。

 おばあちゃんはまだ起きていて居間でテレビを見ていたし、おじいちゃんは集会所で集まりがあって帰ってきてなかったし、お父さんたちはとっくに帰ってた時間で、そこには他に誰も寝てなかったのにね。


「小さい頃、こんなことがあった」


 女の子に告白されたことがある。

 おとなになったら結婚してね。お嫁さんにしてあげるからねって、随分熱烈だったなあ。

 そこのお家は古くから神さまにお嫁さんを差し出す当番になっていて、五年に一度の順番がちょうど、その子の時だったみたい。


「小さい頃、こんなことがあった」


 家族旅行で撮った写真をまとめたアルバムがあって、ときどき見返して見るんだけど、何枚か明らかに自分ではない子供が写っているし、そもそも一度も家族旅行に行った記憶なんてないのに。


「小さい頃、こんなことがあった」


 そんな話を語ってかれこれどのくらいかな、いつになったら出られるだろう、まだ聞かせていないお話があるだろうって、今日も鬼がやってくるんだ。

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