第17話

「え?」

幸はその言葉を聞いて、顔が強張った。

「芸能界に入ろうと思うんだ。誘われていて……何処まで出来るか分からないけど、やってみたい」

涼真の話を聞きながら、幸の目に涙が浮かぶ。

「凄いね。でも妹尾君ならきっと大丈夫。いつ行くの?」

「今月の終わり」

「…… 」

「夏休みにデビューして、2学期からは向こうの高校に行く」

「じゃあ……お別れだね」

「俺は別れたくない」

涼真はきっぱり言った。

「でも妹尾君、東京に行ったらきっと私の事忘れちゃうよ」

幸は涙ぐみながら言った。

「忘れないよ。だって東京には氷室幸はいないだろう?」

幸が東京へ行こうと決めたのはこの時だった。

「私、漫才師になる。高校を卒業したら東京のNSCに行く」

幸の目に力が入っていた。

「幸……!」

涼真の顔が輝いた。

「私もそっちに行く。何年かかっても妹尾君と同じ世界に行く」

「待ってるよ。幸」

「妹尾君……!」

涼真は幸を強く抱き締めた。

「涼真だよ。幸。涼真って呼んで」

「せめて……涼ちゃんじゃダメ?」

幸は涼真を見つめた。

「そっちの方が幸らしい」

涼真は優しい微笑みを浮かべた。

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