第5話

翌日、早朝練習のランニングをしていた涼真を幸が待っていた。

「氷室…… 」

「あの!ごめんなさい!私……砂糖入れ忘れちゃって」

幸は恥ずかしくて半泣きになっていた。

「でも……どうして食べてくれたの?あんな不味いもの」

幸は漸く顔を上げて、涼真を見た。

そこには涼真の優しい笑顔があった。

素敵……!

なんて素敵な笑顔だろう。

「嬉しかったから」

え?

幸は今、涼真が言った言葉が、信じられなかった。

「あ、あの…… 」

幸はまた緑の紙袋を渡した。

「今度は大丈夫だと思うから……迷惑でなかったら」

涼真は袋を受け取った。

「ありがとう」

涼真はまた目の前でクッキーを食べた。

「美味しい!」

「良かったー!」

幸は胸を撫で下ろした。

「やっぱ可愛い!俺、黙っていようと思ってたけどもう無理だ……!」

涼真は声を上げた。

「え?」

「氷室。俺、入学してからお前の事ずっと見てた。俺、お前が好きだ。だから……俺と付き合ってくれないか」

涼真の言葉を聞いて、幸は思わず卒倒しそうになった。

今、なんて言ったの?

入学してからずっと私の事を見ていた?

妹尾君が私を好き?

学年人気ナンバーワンの妹尾涼真が私を好き?

こんなデブでブスな私を⁈

「…… 」

何か言おうにも幸は驚きすぎて言葉さえ出てこない。

涼真の痛い程の眼差しが幸を捉えている。

「あ、あの…… 」

漸く口を開いたものの後が続かない。

「やっぱ唐突過ぎたな。筒井の事ずっと見てたんだろうし…… 」

「…… 」

「2年生になるまで保留にしようか」

涼真は幸を見つめながら言った。

「4月になったらまた告白するよ。それまでに俺の事考えてくれたら嬉しい」

涼真はそういうと走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る