第25話

「外山さんがいないの!」

看護師達は必死に待合室や屋上を探していた。

「外山さん思い詰めていたし、まさか…… 」

直ぐに遙にも連絡が行って、遙も病院中を探していた。

まさか、外山さん自殺でも?ううん、彼はそんな弱い人じゃないわ!

病院の中庭を走っていた時、チューリップの花畑の前に座っている悠を見つけたのである。

「外山さん」

遙は心配で怒鳴りつけたいのを抑えて、悠に近づいて来た。

「病室にいないから…… 勝手に抜け出しちゃダメよ。みんな心配するから」

「僕が飛び降りるとでも思った?」

悠の言葉を聞いて遙はゆっくり首を振った。

「あなたはそんな事しないわ」

「これからどうしたらいいのかな……なんだか暗闇を走る列車に乗っているようで前が見えないんですよね」

悠は静かな口調で言った。

「あなたのバイオリンを聴いた事があるの。東朋音大の定期演奏会でオーケストラバックにバイオリン弾いてた。澄み切った清水のように心に響いて来たわ」

「クラッシック好きなんですか?先生」

「親友が大好きで私をよく誘うの」

「じゃあ、詳しいんだ」

「全然、知ってるのはベートーヴェンのジャジャジャーンぐらい」

悠は思わず笑い出した。

「僕は5歳の時からバイオリンを習って、高校から東朋音大の付属高に通い、ずっとバイオリン一筋でした」

「大学3年の時、ウィーン音楽コンクールのバイオリン部門で金賞取ったのよね」

「どうしてそれを?」

「お母さんから聞いたわ」

「チューリップ……綺麗ですね」

「花は人の心を癒してくれるわ」

「先生、明日も此処にいていいですか?」

悠と遙の目が合った。

「いいわよ。但しナースにはちゃんと言う事。守れる?」

「はい。笹倉先生」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る