第18話

演技稽古は厳しかった。

表情の表現が乏しいという事で、毎日鏡の前で表情を作る。

早朝の発声練習、柔軟体操、ジョギング……

愛はそれらのカリキュラムを熟して行った。


「そうか。愛ちゃんも頑張っているんだね」

昼休みには弁当を片手に屋上で、晃也と話をする。

「芹沢君こそ朝練やっているんでしょう?毎日何時に起きるの?」

「俺は4時30分。朝食食べて、センターの前の公園でストレッチと、ジョギング。それから氷の上に乗って8時まで練習」

「凄い!」

愛は目を丸くしている。

「小学校1年からそうだから」

「センターの前の公園ってわかば公園?」

「ああ、そうだよ」

「明日から私も一緒にやってもいい?」

「勿論、いいよ」

愛は目を輝かせている。

晃也と2人でいるだけで、胸がドキドキしていた。

よく見ると、お弁当箱がグリーンだ。

「芹沢君は緑色が好きなの?」

「ああ、森の色だからね」

「森の色?」

「俺、森林浴するのが好きなんだ。練習で行き詰まった時に行くと気持ちが洗われる」

「ふーん」

愛はお弁当のウィンナーを食べながら、晃也の話を聞いている。

「愛ちゃんも忙しいだろう?愛ちゃんの癒しって何?」

「トイプードルのゆららと遊ぶ事かな」

「トイプードルか、可愛いだろうな!」

「うちに遊びに来れば?日曜日は私午前中仕事だから、午後とか」

愛は胸の鼓動を抑えながら、出来るだけさり気なく誘った。

「日曜日も仕事なんて大変だな」

「少しでも学校に行きたいから」

「そんな貴重な時間を俺と過ごしてくれてるんだもんな…… 」

「デートも出来なくてごめんね」

「お互い様だよ。じゃあ、家行ってもいいかな」

「うん、勿論」

晃也はふと腕時計を見た。

「いけない。5時間目始まる!行こう、愛ちゃん」

愛は晃也に手を握られたまま、屋上から教室まで走った。

心臓が飛び出しそうなほど、ドキドキが止まらない。

教室の前で晃也は愛の手を離した。

そのまま晃也は自分の席に向かったので、愛も席に着いた。

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