第44話

4年生が引退する日が来た。

「歩希、頼むぞ。新チーム」

今、歩希は前のキャプテン岡島からバトンを受け取った。

「はい」

歩希はしっかりと返事をした。

そして阿部がサブキャプテンになった。


「話って何?」

咲香が歩希の顔を見る。

大学の近くの喫茶店で2人は話をしていた。

「俺、ずっと臼井先輩の事が好きでした。でも、先輩には阿部がいる事知っています。だけどこの想いだけは伝えたくて…… 」

「嬉しい。私もずっと好きだったの。宮本君の事」

「えっ?」

歩希は驚いて思わず咲香を見た。

「アピールしていたつもりだったんだけどな」

「で、でも阿部との事は…… 」

「どうして阿部君が出て来るの?」

「俺、去年の箱根駅伝の前に見たんです。先輩と阿部がキスしている所を」

歩希がそう言うと、咲香はキュッと唇を結ん

だ。

「どこまで見たの?」

「直ぐに窓を閉めました」

「どうせなら全部見てたら良かったのに、確かに私、キスされそうになったけど阿部君を突き放したわ。そして好きな人がいるってちゃんと言ったわ」

「それって…… 」

「あなたの事よ」

咲香はそこまで言うと、真剣な眼差しで歩希を見つめた。

「ずっとあなたが好きだった」

「俺もです。臼井先輩」

「咲香と呼んで。もうマネージャーじゃないんだから」

歩希は咲香から視線を外さなかった。

「咲香」

「歩希」

初めてお互いに名前を呼んだ。

歩希はまるで初めて恋をした中学生のようにドキドキしていた。

咲香の顔を見ているだけで温かい気持ちになれる……それだけで歩希は幸せだった。

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