第6話

その頃、平塚中継所ではまもなく8区のランナー山根が歩希の到着を今か今かと待っていた。

だが既に繰上げ襷は掛けられている。

残り10秒。

来ないか……そう思った所に、歩希の姿が見えた。

5.4.3.2.1……

無情にも合図のピストルが鳴って山根は走り出した。

走って行く山根の姿がハッキリと見えた。

到着した歩希は山根に渡すはずだった襷を右手に握ったまま、その場に泣き崩れた。

後5秒早かったら、この襷を繋ぐ事が出来たのに!

18年生きてきてこんなに悔しくて申し訳ない事はなかった。

「ごめんなさい……ごめんなさい」

歩希は悔し涙に身体中を震わせて泣いた。

係員も大学の先輩もジャンパーを歩希に被せたまま、黙って背中を撫でていた。


その時側にいたのが、マネージャーの臼井咲香(えみか)である。

言葉を掛けるのではなく、ただ優しく背中を撫でてくれた。

漸く落ち着いた歩希に柔らかな笑顔を見せて、水の入ったボトルを渡した。

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