第19話

合唱部で歌うようになって、静香は少しだけ笑顔が見えるようになった。

「静香」

背後から声がかけられてふと振り返るとそこには七海が立っている。

「何?」

「今日、部活終わったらスノーホワイト行かない?」

「スノーホワイト?」

「うん、真輝がバイトしてるの」

それは6月に入ってすぐの事だった。

スノーホワイトのバイトってあの人の事かな……

真輝って言うの?

「もー超イケメンなの!あの眼差しがたまらない」

「七海の好きな人ってその人なの?」

「違うよ。私,他に好きな人いるし。でも騒ぐぐらいいいじゃん」

「誰なの?」

静香がそう言うと,七海は静香の耳元でそっと囁いた。

「E組の来栖君」

「そうなんだ。頑張ってね」

「越智さんには無縁よ」

他のクラスメートの女子がそう言いながら笑う。

「そうね」

静香はあっさり返した。

「静香も言うじゃない」

七海は意外そうに静香を見ている。

「だって大学生なんでしょ?」

「真輝?違うよ。E組の同級」

「高校生⁉︎しかも1年⁉︎」

静香は驚きを通り越して唖然としている。

「今頃、何言ってんの?越智さんって抜けてんの?」

他の女子が呆れた目で静香を見る。

「そんな超イケメン…私には無縁の人だよ」

静香はポツりと言った。

「分かってんじゃない。自分の立場」

女子達はそう言って,また馬鹿にしたように笑った。

「もー頭来た!あいつら静香がおとなしいからって好き放題言いやがって!」

授業が終わった後の廊下で七海は爆発した。

「私のために怒っているの?七海」

「当たり前じゃん!友達がバカにされて怒らない子なんかいないよ!」

静香はその時、胸の中に暖かいものが広がっていくのを感じていた。

「ありがとう」

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