第8話

少しだけ勇気を出す事が出来た。

「越智さん」

声を掛けて来たクラスメートの女の子と少しだけ話が出来た。

「お弁当美味しそうだね」

「あ,ありがとう」

「お弁当作るのお母さん?」

「自分で……」

「へえー。めちゃ美味しそう!料理得意なんだねー」

静香のお弁当は卵焼き,唐揚げ,ブロッコリーの炒め物,野菜の煮物など彩りも豊かだ。

その女の子は驚いたように静香を見ている。

かなり感心している顔だ。

「そうかな……」

静香はそれ以上言葉が繋がらない。

静香には母親がいない。

8歳の春に交通事故で突然死んでしまった。だから春が来る度に思い出す。母は桜が好きだった。母が生きていた時、毎年家族で桜の木の下でお花見をした。父も母も笑っていた。赤い3段のお重の箱には大好きな唐揚げと甘い卵焼きが入っていた。静香は母の作る卵焼きが大好きだった。優しい母の味がした。

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