カツアゲ!?

クラスの空気がおかしいと気づいた時には遅かった。

皆んなが喧嘩を見ている。

「白金に話しかけられてたぜ」

「桐島さんって、白金君と仲良の?」

(あーー。うちはそこら辺に転がっとる石になりたい)

今まで、目立たずに暮らしてきた喧嘩にとって、人々の目線が声がいたたまれない。


白金が席に戻ると、男の子が近づいて来た。

「白金正矢君。ぼ、僕は森宮潔彦(もりみやきよひこ)って言いま…」

森宮潔彦と名乗った男の子の言葉は、周囲の音に消されて、酷く、態とらしく、聞こえづらかった。

手にはお札が握られ、お札が揺れている事から、森宮が震えてる事が分かった。

「き、昨日は…」


さっきまで喧嘩を見ていた視線が、声が、白金と森宮に移る。

「今度は何?」

「白金にお金渡してるぞ」


「何の真似ですか?」

白金は森宮とは違って、周囲に聞こえるように、声を発した。

「ごめんなさい。ごめんなさい。これ受け取って下さい」

その声に、更に森宮は大袈裟に震え上がり、お札を白金の胸ポケットに捩じ込むと、その場を立ち去ろうとした。


「あれがカツアゲってやつ!」

「白金君の噂は本当だったの?」


「ちょっと待って下さい。貴方にお金を貰う義理はありませんけど。それに…」

立ち去ろうとした森宮の腕を掴み逃がさないよう、前に立ちはだかった。

「痛ぃ!これだけしか無くて、ごめんなさい」

その森宮の言葉だけ、態とらしく大きくなり、周囲に聞こえた。


「やだ。痛そう」

「先生呼んで来た方が、よくねぇ!?」

「先生が白金に何が出来るんだよ」

「裏で人を脅して、こき使ってるって本当だったんだ」

「やっぱりヤクザに近づいたら怖いのね」

周囲の音が、波の様に大きくなる。


(違う。違う。)

喧嘩の否定は言葉にならなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る