第13話 博士

 間もなく連れてこられた場所は、俺にとっては夢のような場所だった。


 おそらく研究所に違いないのだ!


 いろいろな所で、いろんなものを試作・運転・実験していたのだ!


 見たことも無いような物が、溢れかえっているのを見るにつけ、是非とも参加したい!


 などと場違いな感慨に浸っていると、一人の人物がゆっくりとやってきた。


 その人はなぜか、鼻先から上にかけて隠すかのように、飾り気のない仮面のようなものを被っていた。


 そのため、表情は口元以外では、ハッキリとは読み取れない作りになっていて、顔のつくりも年齢も不確かだった。


 けれど、初めて会ったはずのその人は、何だか俺には、まるで親族にでもあったような、とても近しい人物に会ったような、不思議な感覚におそわれ、戸惑った。


「やあ、奈々美くん、どうしたんだい?

 こんなところに時空間監視員様が来るなんて。

 私達は違反などしていないが?」


 時空間監視員?聞きなれない言葉を心の中で反芻しながら、黙って二人を眺める。


「博士、個人的にお願いがあってきました」


「君にお願いされる日が来るとは、思わなかったよ」


「……」


「みんな、少し早いが休憩にしよう。

 私は今からちょっとした用件ができたようだ、すまないね」


 どうやら責任者だったらしい博士と呼ばれるその人の一言で、室内はすぐに俺たち3人だけになっていた。


「実は、連れてきてはいけない人を、連れてきてしまったんです。

 だから、彼をもとの時代に帰すために、力を貸してください。

 お願いします」


「その彼というのは、ここに来ているんだね」


 俺は慌てて姿を、博士に見せた。


 いきなり現れた俺に、博士は一瞬大きく目を見開いた後、ほうっと少しため息をついたように見えた。


 何もかもわかったと言わんばかりの、深い笑みを向ける。


「そうですか……ではこちらへ来なさい」


「えっ、説明は?」


 慌てて問う俺達に、博士は深い笑みを浮かべた。


「いりません。分かっていますから」


「どういう……」


 言われるまま前に進む。


 間もなく古めかしい重い扉を開き、博士と俺だけが中へと入る。


「ここは?」


「誰も入ることのできない封印の扉だよ。

 移動装置はこの中にあるんだ。

 入れば起動するようセットしておいた。

 おそらくここからなら、君一人でも迷うことなく、もとの時代に戻れるでしょう。

 さあ、入って」


「なぜ……なぜ皆んな、俺を助けてくれるんですか?」


「……そうだね、これから君は、世界で初めてのものを作るんだ。

 私に言える事は、それだけだよ」


 たくさんの違和感に答えを求めたが、答えを聞くことなく世界は暗転した。


 最後に見た博士の、俺を見るその表情は、深い悲しみをたたえていたように見えた。


 その仮面越しの悲しみの表情が、なぜだか胸に焼き付いた。

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