第12話 見知らぬ場所
空気をふるわす金属音や打撃音
鋭く跳ね上がる髪、硬くなびく制服は、戦いの激しさを物語る。
その都度俺は、何もできずに、ただ戦う彼女を見つめ、立ち尽くしている。
あぁ、俺はなんて無力なんだろうか。
……いや、違うな。
何もできない自分を嘆くのは、いつでもできる。
俺には俺の、戦い方があるはずだ。
俺には、今更あのレベルまで、戦うことなんてできやしない。
ならせめて、自分自身を守るために、何か作れないだろうか。
「君たち未来人は、誰でも強いの?」
「まさか」
流れる汗で、顔や首に纏わり付いた髪を、パッとはらうようにかき上げる。
持っていたらしい髪ゴムを軽く口で挟むと、手櫛でまとめ、ギュッと一つ結びをつくる。
そんな一連の動きを、縫い留められたかのように、見つめ続けていた。
「この仕事をするために鍛えたの」
「何だってまたこんな危険な仕事を?
もっと安全な仕事はなかったの?」
心配しつつも、言うつもりの無かった疑問を、口走っていた。
彼女がこの仕事に携わらなければ、僕達は出会ってすらいなかった事実にそっとフタをする。
「会いたい人がいるの。その人を探すために、必要だったのよ」
そう言って彼女は、恥ずかしそうに微笑んだ。
そんな彼女が、とても眩しかった。
なぜか胸が、痛い気がした。
そっと目を閉じると、深く息を吐いた。
彼女がずっとここに、いられるわけではない。
ハッキリといつまでと、期限は知らされていないらしいが、いずれは帰っていくのだろう。
なぜ俺は、同じ時代に生まれなかったんだろうか。
どうにもならない事を、考えながら、彼女の細い背中を見つめる。
この時間の止まった特殊空間で、たとえ何が起きても、解除されると、止まる前の状態にもどっている。
彼女の武器に関しても、使えるのはこの空間だけらしい。
もとの時代なら、普通に使えるらしい。
何かしらの制約がかかっているのだろう。
一体どういった仕組みなのか不思議でならない。
特殊空間以外で襲われたら、危なくないか?
心配になって問うも
「武器が無くても、私強いから」
そう言って彼女はイタズラっぽく笑う。
そんな彼女に、いろんな意味で俺は、とても敵わないと思うんだ。
その後も、しつこくモノクロな人達はやってきた。
その都度、いつの間にかやって来た人達に、また助けられた。
俺は何故、ここまで狙われるのだろうか?
何でこの人達は、助けてくれるのだろうか?
納得ができず、彼女に聞いてはみるけれど、口は堅い。
その日、俺は彼女の後を、そっとつけることにした。
もちろん、例の試作品は完成していたので、応用版を早速使用。
今、誰にも見えないはず。
彼女も、俺の姿に気づいている様子はない。
間もなく、真っ暗な、それでいて奥行きを感じさせる、奇妙な空間に差し掛かる。
一度立ち止まると、周りを確認後、何の躊躇いもなく、彼女は入っていく。
俺も慌てて追いかけた。
一瞬、上下の感覚が曖昧になり、何故か少しの浮遊感と軽い膨張感の後、一気に元の重力と感覚が戻ってきた。
真っ暗だった周りも、煌々とした光に包まれていた。
「何だ?ここは……」
しまった!
黙って後をつけていたのも忘れて、つい声に出してしまった。
驚いた彼女が、何もないはずの後ろに、
まっすぐ俺の方へ振り向いた。
「誰なの、姿を見せなさい!」
キッと睨んだ表情は、とても殺気立っているが、場違いなことに、とても綺麗だと思った。
バツの悪そうに、のろのろと姿を見せる俺に、これ以上はない程驚き、すぐに責めるような顔をした。
「何でついてきたんですか!」
「何でって……やっぱり気になって……ごめんなさい」
俺は彼女の気迫に押され、思わず謝っていた。
彼女は呆れたようにため息をつくと、キリッと気持ちを切り替えたようで、周りに神経を張り詰めるように見渡した。
「それ、ちょうど良いわ。ちゃんと身に付けておいて。
この時代にあなたはいるべき人ではないし、本来なら来られるはずが無いのよ。
普通だと、管理局員に見つかれば、強制送還だけど……
反勢力の団体にでも見つかれば、どうなるか……
あなたは自分の立場が、分かっていなさすぎなのよ。
説明していないのが、悪いのはわかるけど……」
「はぁ……すいません」
何とも情けない返事をする俺は、言われるまま姿を消すと、彼女と同じように周りを確認した。
何でもない、白一色のその建物は、せっかく未来まで来た俺の、好奇心を満たすような面白いものは、全くと言っていいほど無かった。
「〜〜悪いけどあなた、何処にいるのか分からないから……
そうね、これ持っていてくれるかしら?
もしはぐれても、これさえ持っていれば、連絡が取れるから。
でもこれは、あくまでも最終手段だから。
とにかく、はぐれないように、私についてきて!」
彼女は俺の手に、黒く光沢のある、鉱石のようなものを、差し出した。
それには小さな穴が一つあいていた。
そのままだと無くしそうだな、どうしたものか……
ガサゴソとポケットの中を探る。
俺はその穴に、たまたま持っていた紐を通すと、首にかけた。
胸にあたるそれは、少しひんやりとしていた。
俺が来た事は、彼女の立場的にも良く無かったようで、いつも使っているらしい移動装置には、行けないらしい。
いや、ホント申し訳ない。
渡された鉱石のような物は、持っている者の位置を示すもので、同じ時代でしか使えない、要はアクセサリー型の通信可能なGPSだ。
ただ違うのは、たった一度だけ、時空を超えて連絡ができるらしい。
値段によって回数が違うらしく、たまたま持っていたのがこれらしい。
値段か、実に世知辛い。
「今すぐあなたを、もとの時代に帰さないといけないんだけど……
管理局の助けを求められない以上、私だけの力じゃ無理だわ。
……はぁ、あの人の力を借りるしかないわね」
「あの人って?」
「研究室にいる博士よ。私と同じく十年前の事故の時、助けられた生き残り」
十年前の事故?
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