第10話 襲撃
そのまま気を失うのではないかと思った次の瞬間。
頭痛と吐き気が、見る間におさまり、重くのしかかるような、倦怠感に似た不快感も無くなっていた。
“ガバッ”
勢いよく起きあがると、自分の感覚を確かめた。
「……どういうことだ?」
思っていたより近くに、寄り添うように立ち上がった彼女は、俺の方を見つめ、安心したように息を吐いた。
次の瞬間、傾ぐ身体。
追うように、鋭利な刃物が喉元近くをすり抜ける。
俺をかばい、スラリと長いその武器を、縦横無尽に振り回す。
剣先は俺では見えない、ただぶつかり合う音だけが、その激しさを物語る。
風切り音と共に、時折みえる彼女は真剣で、それでいて粗暴な感じはなく、さながら剣舞を思わせた。
闘いはこちら側が優勢のようで、一人捕縛し、残りの2人は深い傷を負ったまま、隙をみて、現れた時と同じように、空間の隙間の中へと消えていった。
俺を庇って戦ってくれた3人にも、腕や足に傷を負っているのが、確認できた。
俺は何もできなかったことを、なんとも申し訳ないようなそんな思いにかられて、恐るおそる声をかけていた。
「あの……大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。私達はこのまま、このモノを連れていきますので離れますが、すぐに他の人員が対応しますので、安心してください」
そう無表情で言い残すと、気絶しているであろう傷だらけのモノクロな人物を、引きずるように掴んだまま、何もない空間へと消えて行った。
次の瞬間、周りの喧騒が帰ってくる。
雨の中、傘もささずに立ち尽くす俺を、不思議そうにタラチラ見ていく通勤通学途中の人からの視線に気づく。
ついさっきまでの出来事で、心の感覚が若干麻痺しているのか、あまり気にならなかった。
俺はハッと思い出し、そばにいるであろう園部奈々美の方を見る。
彼女はその手に、何の武器も持ってはいなかった。
「……」
そのかわり、いつの間にか持っていた傘を、すっと俺に差し出してきた。
「えっ?」
「予備の折りたたみ傘があるから、使って」
「あ……ありがとう」
手渡された傘を、ただ流れ作業のように受け取っていた。
一瞬目が合い、そのあと互いに無言のまま、学校への道を急いだ。
何から聞けば良いのか、それにちゃんと答えてくれるのだろうか……
「……さっき、俺の口の中に入れた物って、何?」
「……あれが何かは、ハッキリと説明できないけど……
簡単にいうと、息を吸うためのものよ。
さっきの空間、あなたならわかると思うけど、全ての物質が止まった状態になっていたの。
そうすると、きちんとした装備がないと、あなただけが動いて、周りの止まっている空気を使っている事になるから……
どうしても、そこだけ濃度が変わってしまうのよ」
するとさっき俺が陥ったのは低酸素状態、つまり高山病に似た症状だったのか。
どうやってあんな状況を作ったんだ?
どうやったら、流れている時を止めることができるんだ?
彼らは、彼女はいったい何者なんだ?
今の科学技術を駆使しても、こんなこと、できるとは思えない。
いや、できなくはないな、特殊な状況下で僅かな間だけなら。
あるいは、理論だけなら。
現実問題、まだ机上の空論でしかないのだ。
あんなことのできる理論を考えられる、研究所や発明家が今いたなら、ノーベル賞ものだ。
さっきのように、実際に使用出来るまで成功していたのなら、知られていないのがおかしい。
とっくに学会に発表なり、メディアに報道されているはずだ。
いったい……
これまで何度となく抱いた疑問を、問うべきなのか躊躇うも、思い切って尋ねた。
「君たちは、人間なの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます