第9話 襲撃

 それはすぐにやってきた。


 その日は朝から雨だった。

 

 いつもは、レインコートを着込むか、傘を自転車に装着して、学校に行くが、その日は外に出て間もなく、どしゃ降りの雨が降ってきた。


 諦めて雨具を取りに帰ろうかと、引き換えす気になった途端、“グニャリ”目の前の空間が変形したように思えた。


「……」


 雨による乱反射で、目がおかしくなっているだけか?


 不思議に思い、立ち止まった次の瞬間


 何もないはずの空間から、自分の方に向かって、何かが突き出てきた。


 現状の把握に頭がついていけず、固まっていると、今度は違う角度から、わらわら何かが現れた。


 それは見たことの無い人達で、どこからともなく現れ、俺の周りを囲うように立つと、最初に現れた、その手のような何かに向かって、臨戦態勢に入っている。


 この目の前に立つ人達が、昨日彼女の言っていた、他の人員というやつだろうか?


 いきなり現れた腕は、空間を無視するように湧き出すと、俺に向かって捕まえようと、執拗にその手を伸ばしてきた。


“ぬうっ”


 その腕を伸ばし、それに引きずられるように、肩、頭、上半身へと順に這い出ること3人。


 動きやすそうな黒に近い服は、フル装備のうえ、認識しづらい。


 頭部も顔形も判別できないように、同じ材質で覆われている。


 たとえ認識しずらい材質でも、その姿は、差し込む朝の光の下では、笑いたくなるほど、違和感があり目立つ。


 それとは別に、その異様な雰囲気に気圧される。

 

 でもふと今現状、周りを歩いているだろう人達は、どうなっているんだ?


 反応が気になりはじめた。


 瞬時に辺りを確認した俺は、再び驚く。


 これは……


 自分が狙われているらしいことも忘れて、周りの光景を見まわし驚いた。


 そして我知らず、感嘆のため息を漏らしていた。


 道を行き交う人は、中途半端な格好のまま、その動きを止め、微動だにしない。


 道路沿いの家の屋根から、滴り落ちるはずの雨水は、落ちる寸前の不安定な状態で、止まっている。


 そう、降る雨もまるで空間にさす水玉模様のように、その動きを止め、微動だにしない。


 人も車も雲も雨でさえも、時を止めているのだ。


 あるもの全てが止まった空間の中、その耳鳴りがしそうなほどの静けさを、引き裂くように、6人の戦いは始まっていた。


 凄まじい速さで繰り広げられる拳や、見たこともないような刃物に似た鋭利な凶器は、時に変幻自在に、まるで持ち主の意思を読むかのように動いている。


 迎え打つ方も、接触するたびに染まる鋼色の腕で、弾き飛ばす。


 彼らは、人間じゃないのか?


 風切音、拳や蹴りによる鈍い音、金属や鈍器の破壊音、布を切り裂くような音。


 あまりの速さに、俺の目ではとても、その動きを追いかけることはできなかった。


 そんな中、ふと体の異常を感じた。


 身体がだんだん重く、息苦しくなる。


 おまけに頭痛と吐き気もしてきた。


 抗いきれないだるさの中で、目の前が一気に霞んでくる。


 一体何が?


 立っているのも難しくなり、その場に崩れ落ちる。


 気を失いそうになる直前、口の中に何かを放り込まれた。


 同時に、柔らかい様なほんのり温かい感触が、片側に触れている何かを感じさせる。


 揺れる視界に、園部奈々美の心配そうな顔が、映り込んだ。


 その唇が「危なかった。間に合ってよかった」と呟いていた。


 願望による幻覚だろうか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る