第8話 ロバート叔父さん

 家に帰ると母が、彼女の事をあれこれ聞いてきたが、適当に答えて、自分の部屋へと向かった。


 部屋に入ってすぐ、大型液晶ディスプレイが起動し、一人の少女が映し出されると、画面下に、着信用ライトが点滅する。


“ロバート様より電話です”

「分かった。つないでくれ」

“はい。つなぎます”


 間もなくモニター画面に、一人の人物が映し出された。


 色白の細面、彫りは深く目鼻立ちはかなり整っているのに、不健康そうに見える。


 下瞼には、薄っすら青白いクマができているし、茶色に近い金色の髪は、元々の癖っ毛が、ボサボサに跳ねていた。


 また寝ないで、研究に没頭していたのだろう。


 本人はそのことに、一切頓着していないようだった。

 

 彼の瞳はいまだ、興味のあるおもちゃを与えられた子供のように、輝いている。


「航起、元気かい?うわぁー!」


 隣から煙のようなものが吹き出し、スタッフが慌てて始末しているのが、写っている。


「あぁ、元気だよ。叔父さんも元気そうだね。ははは……今は何を作っているの?

 頭、爆発しているけど」


「内緒だな、そのうちそのうち。そうそう航起、この間の実験の結果はどうだった?」


「ああ、二、三時間のタイムラグはあったけど、ほぼほぼできているね。

 戻るのに、学校へ行くまでかかっちゃってさ、正直ちょっと焦っちゃったけどね、なんとかなったよ。

 もう少し改良すれば、ちゃんと問題なく、使えるようになるよ。

 出来上がったら、叔父さんのところにも送るよ」


「そうかい、それはありがたいね。ふふふ……

 そうだ、前にも言ったが……航起、こっちに来る気はないかい?

 こっちに来たら、キミの好きなように、実験や研究ができるはずだ。

 叔父さんもその場でアドバイスできるし……」


「あぁ、その話ね。うぅーん。今のところは、まだいいかな……

 嬉しい誘いだけどさ、もうちょっとこっちにいるよ。

 昔からの友達もいるし、だいたい、人付き合いも大事だって言ったの、叔父さんだったよね。

 研究や実験も大事だけど、学生の時に友達を作るのも、同じくらい大事だからって、教えてくれたじゃないか。

 確かに俺もそう思うよ。

 友だちと話すと、いろんな考え方に触れられるし、自分の興味の無かった事柄から、新たな発見をすることもあってさ、面白いし、もう少しここで考えてみるよ。

 いつも誘ってくれてありがとう、叔父さん」


「なんの、叔父さんはしつこい方だからね、また誘うかもしれないが、その時は許してくれ」


 叔父さんは、ニヤリと微笑むと、いたずらっぽくウインクしてみせた。


「ははは……ありがとう。そうだな、それに今は気になることがあってね、ここを動けないよ」


「気になること?何か新しい研究かい?」


 叔父さんは、俺のそんな言葉に、興味津々で画面に乗り出してきた。


「う〜ん、そういうものではないんだけど……まだ俺自身、理解できないから、動けないんだ。

 分からないのは、落ち着かないだろう?叔父さんも」


「あぁ、その気持ちは、すごくよく分かるよ」


 二人それぞれ腕を組み、思い当たることを考えながら、画面越しに唸る。


 そんな会話をしていると、二回目の煙が勢いよく吹き出す。


 焦ったスタッフが、叔父さんを呼ぶ声が響いた。


「おっとまずいことになったようだ、ちょっと戻ってくるよ。

 航起、気が変わったら言ってくれ。キミがいつきても良いように、ここの席は空けておくよ。それじゃぁまたな」


“通話が終了しました”


 再び少女の無機質な声が、室内に流れた。



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