第5話 俺だけが知らない
慌てて家に帰ると、2階の自分の部屋へと駆け上がる。
「あら、おかえり。ちゃんと手洗いうがいするのよ」
「あぁ」
ダイニングから母の声がしたが、そのまま部屋に入り、ドアを慌てて閉めた。
室内電気と共に、PCや周辺機器の起動が確認される。
壁に埋め込まれた大型液晶ディスプレイが起動し、一人の少女が映し出される。
“おかえりなさい”
「ただいま」
彼女は、この部屋を管理するために作ったAIだ。
クローゼット奥にある物置スペースから、目的の古いアルバムを引きずり出す。
小・中学校のアルバムだ。
「ふぅーー捨てなくてよかったよ」
無意識に独り言をつぶやくと、早速ペラペラとページをめくりながら、その中に園部奈々美を探した。
何度となくめくっても、その姿も名前も載っていなかった。
一緒に挟んでいた、その頃のスナップ写真も確認したが、彼女の存在はどこにも見当たらなかった。
“マスター、僅かに血圧の上昇がみられます”
「ありがとう。ちょっと休むよ」
俺はアルバムを広げたまま、ベッドで仰向けになると、深くため息を漏らした。
……どういうことなんだ?
俺の周りでいったい、何が起こっているっていうんだ?
園部奈々美……彼女って一体何者なんだろうか……
考えても答えの出ない出来事に、興味と僅かな不安で、俺は再び深いため息を漏らした。
もやもやと答えの出ない状態は、落ち着かない。
とにかく、解明するにはデータが少なすぎる。
そうだな、明日から彼女のことを調べる必要があるな。
悶々と、これからの方針について、考えを巡らせていると、下から声がした。
「航起!お客さんが来てるわよー!可愛い女の子!」
母が楽しげに、声をかけてきた。
え?
“ガバッ”上半身を起こすと、まさかという予感に、慌てて一階へと向かった。
階段下を覗くと、ついさっきまで考えあぐねていた、その不可解な出来事の中心人物である彼女が、玄関先で母と並びこちらを見上げていた。
何とも言えない沈黙が、流れる。
階段の途中で、動けずにいた俺を見て、母は面白そうにやってくると、耳元でささやく。
「可愛い子ね。家に上がってもらったらどう?」
ニヤニヤとからかうように、軽く肘でつついてくる。
ちょっとイラッとしつつ、園部を連れて外に出る。
「ちょっと出かけてくる」
母はちょっと残念そうな顔をしたが、何も言わず送り出してくれた。
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