第3話 現状把握

 俺は若干混乱したまま、自分の席に座ると、今置かれた状況を考える。


 どういうことだ?

 みんな、グルなのか?

 それとも、俺がおかしいのか?

 とにかく、これ以上騒ぐのは、得策じゃないのは確かだ。

 ひとまず様子見だな。


 背中越に感じる、彼女の事が気になって、ちっとも集中できないでいる。


 それとなく、周りを観察してみる。


 皆同じように、彼女のことを知っているみたいだった。


 それどころか、昔ながらの仲間のような振る舞いになっている。


 どういうことだ?

 ついさっきまで、俺の席はクラスで一番後ろだったはずだ。それは間違い無い。

 席替えもしていない。


 他のみんなは、昨日とまったく同じ席に座っている。


 視力低下のために、前後の交代はたまにあることだ。

 実際、三田村が俺の前にいるのも、視力の落ちた川村と替わった結果なのだから……


 彼女の席替え相手の存在が仮にあったとして、誰一人として席が変わっていないのは変だ。


 それに、前列に移動した可能性ならまだしも……

 後列、一番後ろの席だ。


 しかも身長のある男子の後ろの席に、わざわざ替わるなんて、とても考えにくい。


 それよりなによりもだ!

 俺は彼女を、今までまったく見たことがない!

 そもそもこんな美人、一度見たら忘れるものか!


 席に座った他の男子だって、これ見よがしにチラチラと、彼女を見つめている。

 まあ今の俺とは、少々違う意味での観察なのは、明らかだった。


 休み時間にもなると、彼女の周囲には、女子達が三、四人集まって来て、話し込んでいる。


 男子達はそれを遠巻きに見ながら、よからぬことを言って、盛り上がっているのが、見てとれた。


 三田村の、昨夜のとぼけた行動を聞かせられながら、耳に集中して話を総合すると、彼女の名前は園部奈々美そのべななみ、どうやら俺と小・中ともに同じ学校らしい。


 だがしかし……俺にはまったくそんな記憶はない!


 どういうことだ?

 俺の頭の方がおかしくなっていると、そういうことなのか?


 ついさっきの出来事を思い返しても、尻や腰はぶつけた、確かにぶつけたが……

 頭をぶつけた覚えは無い。


 そもそも頭をぶつけたとしても、あのくらいで人ひとりを忘れるなんて、無理はないか?


 昨夜の実験の副作用だろうか?

 いやいや、それも考えづらい。


 前提として、特定の一人だけを、自然に忘れるなんておかしい。

 意図的にその効果のあるものを、用意しないと難しい。


 特定の誰かだけを忘れる効果か……なかなかいいね、興味深い。

 今度研究をしてみるのも、いいかも知れない……

 いや、違った。違う、違うぞ俺。それどころではない。


 そんなこんなで悶々としていた俺は、今日一日、授業内容が頭に入ってこなかった。


 その上、この状況に陥った問題も、ちっとも解決していない。


 このまま俺は帰るのか?

 何も分からないままで、気にせず謎のまま帰れるのか?


 直接彼女に聞けばいいのか?

 どう聞く?


 あなたの存在に覚えがないんだが、なぜなのか?

 いや、殴られそうだ。

 まずいな。


 そもそも、素直に答えてくれるものなのか?


 いや、どちらにしろ今日は無理だ。印象が悪すぎる。

 だからって、こっそり付きまとうなんてことも、できやしない訳で……


 深い溜息をついた。








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