第7話 タイムマシン論2

 今度は別の観点からタイムマシンを考えてみよう。

 

 まず前提としてタイムマシンは可能であるとする。(そうでない場合はタイムマシンは不可能であることになり、タイムマシン論1の内容に反してしまう)

 そしてタイムマシンで過去に戻ったときに歴史は変わるとも想定する。歴史は変わらないとするとあまりにも不自然だからだ。

 例えば過去のどこかの時点に核爆弾を投下したとする。これでも歴史が変わらないとすればこの核爆発が何の理由もなくどこかに消えたということになってしまう。そういったことを引き起こす力が世界の中に存在すると仮定することにはそもそも無理がある。映画のタイムマシンものでは不思議な偶然が重なって歴史改変を妨害するが、それを引き起こすのに必要な計算能力はどこから提供されるのかという大きな問題がある。

 それなら最初からタイムマシンが作動しないのが一番自然ということになり、これは最初に決めた前提に反してしまう。

 ああ、ややこしい。


 さてタイムマシンで過去に戻るたびに歴史が書き換わってしまうとどうなるかを考えてみよう。

 世界線はタイムマシン到着時点から変化する。その世界線の中でまたタイムマシンが現れると世界線は次のものに変化する。

 これはフィードバックを持つ回路であり、パソコンの中の動作と同じである。


 このような構造の場合は次の状態が考えられる。


1)巡回

 Aの世界線からBの世界線に、そしてC,D,Eと遷移してまたAに移る。これを永遠に繰り返す。

 だがこれは長くは続かない。世界の変化はカオス的であるから、いつまでもこれが安定することはない。

 ただしそう敏感には変化しないだろう。歴史の中にはアトラクタ的な部分が多く含まれ、それらによりある程度歴史の流れは定常性を保つからだ。

 例えば北アメリカ大陸西海岸の金鉱脈がある以上、ゴールドラッシュはどの世界線でも起きてしまうのだ。

 これに対してカオス的変化は例えば馬の鐙の発明などが挙げられる。この単純な発明により馬上の人間が踏ん張ることができるようになり、その結果としての騎士の時代つまり封建制度が始まる。これは歴史を大きく変えるカオス事象である。


2)遷移の途中

 新しい繰り返しが延々と続く。

 我々はその途中にいるが、記憶を継承できないのでそのことには気づかない。


3)終点

 タイムマシンが発明されなかった世界。そこでフィードバックは止み、世界は固着する。



 我々はこの三状態のどこに居るのだろう?

 変化は延々と繰り返される。そして我々はどの状態にあるのかを計測できない。

 一番可能性が高いのは3、つまり変化しない世界である。

 各状態の中で3の状態が一番存在確率が高くなる。残りのすべての可能性の確率よりも、3の確率は1レベルほど無限の濃さが大きくなる。

 歴史の中で自分が生きていた期間よりも死んでいた期間の方がうんと長くなるのと良く似ている。


 だが科学的にタイムマシンの製作が可能ならば、それが作られない世界線はどんな世界であろう?

 これも簡単である。

 知的生命が絶滅した世界だ。


 つまりタイムマシンの製作が可能だとすれば知的生命は必ず絶滅するという結論が生じてしまう。

 だからこそ、今我々に必要なのは・・あらゆるタイムマシンの発明を未然に防ぐ正義の味方タイムパトロールの創設である。

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