第5話 幽霊論4 反オカルト派

 ESPカードというものがある。

 カードに五種類の図形が描いてあるもので、送信者がランダムに一枚を引いてこれを見つめ、受信者がその内容を当てるというものである。

 これはテレパシーの実験に使われるものである。


 何の力も働かないとすれば、これは統計的に正解率20%に収束する。

 だが実験をしてみると、オカルト派の人間はこの20%よりも高い的中率が出る。

 中にはズバズバ当てる人もいるらしいが、そういう人はたいがい実験に長く関わりたがらない。

 噂を聞きつけて宝くじの当たりを見つけてくれという者が出るからである。また会社の行く末を相談しに来る者もいる。それで会社が上手くいけば良くてお中元が来る程度、会社が傾きでもしようものなら最悪は逆恨みの果てに殺しに来る。

 たしかにこれでは堪らない。人間の欲深などは放っておくに限るのである。


 さて、問題はオカルトなんか存在しないという立場を取る人たちである。自分たちが合理的で啓蒙された意識のバランスが取れた素晴らしい精神的超人であると信じて止まない人たちである。

 彼らにESP実験を行うと、おかしなことに結果は予測値の20%を遥かに下回る。

 これは何を意味するかというと、反オカルト派は無意識に超能力を使って、超能力なんて無いという結果を作り出しているということである。

 大笑い。


 反オカルト派の人たちは怪奇現象や幽霊を見るということほとんどない。だから彼らに言わせればそんなのは存在しないことになる。

 彼らは自分たちの周りに「お化けなんかないさ」結界を形成している。

 この結界には並みの力の幽霊は近づけないし、近づかない。この結界の内部では超能力の類は阻害されてしまう。

 結果として彼らの幽霊なんか見たことが無いという経験は思い込みをさらに補強してしまう。


 幽霊も元は人間なので自分たちを嫌う人間や認めない人間には近づかない。そうやって嫌われて否定されると心が傷ついてしまうのは生きている人間と同じなのである。

 幽霊退治にファブリーズを撒くという最近の流行りも同じである。

 お前らなんか消えちまえと消臭剤を撒かれたら、誰でも呆れてその場を去ってしまう。この点では生きている者も死んだ者も同じである。

 西洋で妖精に取り換え子をされたときは、卵の殻でスープを煮ると、こんな馬鹿な場所には居られないと妖精が逃げ出すのも、似た類のものであろう。

 下半身を丸裸にして踊る「びっくりするほどユートピア」という除霊もその理屈である。

 ただ中には顔に消臭剤をぶちまけられて激怒する者もいるので、私はこの方法を勧める気はない。


 アメリカでトップのお祓い屋(エクソシスト)の座に君臨しているおばちゃんは霊能力を一切持たないので有名だ。

 彼女は依頼のあったお化け屋敷に泊まり込むと、見えない相手に延々と説得をするという除霊スタイルを取っている。

 だいたい三か月目にはどの霊も家を出ていくそうだ。

 私にはそうした幽霊の気持ちが分かる。

 目が座ったおばちゃんに毎日説得されるその憂鬱さを考えると、私なら三日で出ていく自信がある。


 私見ながら、私の周辺で怪奇現象が起き易いのは私がそれら一切の事象を否定せずに受け入れてしまうからであると思っている。

 私の周りには「お化けなんかないさ」結界が存在しないのだ。

 あらゆる観測や情報はそれ自体が完璧な存在意義に満ちている。頭の中に詰まっているわずかな知識だけでそれらを否定することは、世界に対する冒涜だと私は考えている。

 予想が当たれば自分が正しい道を歩いていると確信できるし、予想とは違うことに当たればそれは新しい学びの機会を与えてくれる。

 どんな知識でもその中には真理が含まれている。完璧なる調和と整合性に満ちたこの世界はそれ自体が一つの芸術作品なのだ。

 それを拒むことなどどうしてできようか?


 世界は常に美と喜びと謎に満ち溢れている。

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