第1話 オカルト擁護

 オカルトとは周辺にごく普通に存在するものである。

 一般にはオカルトとはごく一部の特別な人間だけが出会うお化けや怪奇現象だと捉えられている。

 だが実はこの前提からして間違っている。


 三十歳までに怪奇現象もしくは神秘的体験をする人間はほぼ二割程度である。

 だがこれを七十歳、つまり死ぬ寸前の人間まで広げると、ほぼ九割の人間が一度は出会っているというアンケート結果がある。

 つまりオカルト現象はマイナーなものではなく、むしろメジャーなものなのである。

 よくオカルト話をしている人たちをそんな戯言を信じる頭の悪い人たちと笑う、自称高学歴という人間がいるが、実際には彼らがオカルトなんて存在しないのだと馬鹿にするのは、その啓蒙度が高いことを意味しているのではなく、その逆に見識の狭さと人生経験の少なさを示していると考えてよい。

 きちんと目を開いていれば多かれ少なかれオカルト現象には触れるものなのだ。


 趣味で占い師をやってきた私の経験に基づいて述べさせてもらえば。

 人々の内の一割は何らかの特殊な力を持っている。

 霊が見える者、霊が聞こえる者、臭いで反応する者、見えないが触れる者。その力の噴出方法は様々だが、いずれも紛れもない結果を出してくる。

 きちんと外部事象と色々と符合するので、証明できてしまうのだ。

 ただその人たちのほとんどが力を持っていることは黙っている。

 キチガイ扱いされるためである。

 世の人は偏狭だ。



 私見ではあるがオカルトに関わる者たちの一割は真面目なオカルティストである。

 オカルトにもそれなりの理論があり、知識がある。その辺りをきちんと勉強する者たちである。

 魔術書のほとんどはラテン語などで書かれているのでラテン語を勉強したり、密教のお次第書などを真面目に学んだりする者たちである。

 これらの中には魔術が使えるようになるとそれを悪用する者たちも多い。

 魔術が効き、結果が目に見えるようになると、たいがいの人間が万能感に捕らえられるようになる。自分はこの魔術の道を究めればもっと凄い存在になれると感じるのだ。

 そして歯止めが効かなくなる。

 最初は恐るおそる小さな術を使っていたのに、そのうち無謀な術なども平然と手を出すようになる。

 そしてそこそこそれらが進んだときに、「支払い」の期日がやって来る。

 魔術はタダではない。必ず支払いを要求してくる。

 プチ・オカルティストの死因はたいがいが心臓麻痺である。これが魂を食われた者の末路である。

 実際に都会の中の一件屋の庭で、存在しないはずの大型獣に体半分食われて死ぬところまで行くオカルティストは極めて稀である。


 さて、残りの半分はオカルトから「オ」が抜けてカルトになっている者たちである。

 紙にぐるぐるの絵を描いてそれが電波を止めると叫んだり、人間は死ぬと体温が零度にまで落ちるのが定説であるなどと嘯く、まあありていに言えば馬鹿の集まりである。

 彼らは書物などでは勉強しない。ただ単に人の言葉を真に受けて右往左往する者たちである。

 この辺りは近づきさえしなければさほどの害はない。


 そして残りの半分は詐欺師たちである。

 なぜ詐欺師がオカルトに集まるのか?

 それはオカルトが金になるからである。

 

 いくつか例をあげよう。

 壁に飾ったマリア様の絵が血の涙を流すという奇跡がある。

 これは大変有名になり一目見ようと大勢の見物人が集まった。

 一人5ドルの拝観料を取るとして、一人につき1分として、1時間で300ドル。一日8時間として2400ドル。一カ月で72000ドル。月に1000万円近く儲かることになる。

 こうなると捏造でも何でもやるしかないとなる。目指せ月収一千万円だ。

 あるテレビの取材クルーがこの目から流れる赤い水をこっそりと採取して調べるとそれはただの赤絵の具を溶かした水だという分析結果が出た。

 半年後、また別の取材クルーが同じことをしてみると、今度は人間の血液が検出された。

 月収一千万円のためならば、人間の血を集めるのも辞さない。それが人というものである。


 一時期ブームになったフィリピンでの心霊手術も同様であった。

 末期ガンなどで助からない人間が外国からツアーでやってきて心霊手術を受けるのである。

 術師が患部の上を手で摩ると、たちまち辺りは血で染まり、術師の手には取り出された肉片が握られているという仕組みである。その後患部を水で洗い流すと傷跡も何もない。綺麗なものである。

 これも取材クルーが肉片を分析し、豚肉であることを突き止めた。その半年後に同じように分析したチームが出た時には、人肉だとの判定結果が出た。

 詐欺師は反省し、手管を一段と進化させたのである。

 そこで取材局は肉片から心霊手術を受けた者のその後を追跡することに切り替えた。これはさすがに誤魔化しようがなく、ほとんどの人間が心霊手術の直後に元の病気が悪化して命を落としていた。


 ルルドの泉はそこを訪れた歩けない者たちが歩けるようになり、要らなくなった松葉杖を置いていったとして、泉の周りに無数に立てかけてある。

 実はこの松葉杖、オブジェなのである。すべてルルドの泉の管理会社が作ったディスプレイで、ルルドの泉で足が治った者は確認されている限りでは一人もいない。

 千客万来笹持ってこい!


 このように偽オカルトは金になるので、詐欺師の参入が後を絶たないのが実情である。

 ちなみに本物のオカルトはどうかと言うと、「身の回りの実話怪談」でも書いたように、神に願い事をするのには最低でも二千万円、末期ガンを消滅させるのに三億円ぐらいが相場である。

 偽オカルトよりも本物のオカルトの値段は遥かに高い。

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