第10話

「メガネ…」



「ん?」



「メガネ外してよ…。伊達メガネなんでしょ?


こんなに近くに居るのに、なんか寂しいよ…。」




私がそう言うと、涼翔は視線を右に向ける。


これは、彼の困った時のクセだ。




「ゴメン。それはちょっと…


これは、俺のケジメでもあるから…。」




涼翔は珍しく言葉を濁していて。


私はなんとなく不安になる。


涼翔が遠くへ行っちゃう気がしたから。




「ねぇすずと…


ずっと、一緒に居てよ?」



私の声は、思ったよりも頼りなく、か細く空気を震わせる。



涼翔はそんな私の不安を感じ取ったのか、温かい顔で笑ってくれて。


くしゃくしゃと私の頭を撫でながら、「ったりめーだろ。」と言ってくれた。



その笑顔の温かさと体温に少なからず安心する。



だけど。


この言い知れぬ不安は現実になることを、私はまだ知らないでいたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る