第21話【次の企画】

「もうダメ……もう動けない」


 こんなに身体を動かしたのなんて何時ぶりだろうか。少なくとも五年はろくに運動してない。高校の頃なんて部活入ってないし。

 明日は筋肉痛確定だな。


「篠宮さんお疲れ様」

 

 そう言ってルナちゃんは俺に水を差しだしてくれた。

 なんて天使なんだ……ルナちゃんが光輝いて見える。


「想像よりかは動けたわね。でも本番までにはまだまだレッスンが必要ね。このレベルなんて序の口だからね」


 この人は悪魔だ。天使と悪魔が同時に目の前に居る。

 迷いなく天使の方にダイブしたい。


「まぁ今日のレッスンは終わりだからみんなでご飯でも行こうか」

「行く行く! 綾乃の奢りね!」

「なんであんたに奢らないといけないのよ。この前奢ってあげたでしょ」

「むぅ。じゃあ私が奢ってあげるから皆行こうよ」


 そう言う事で俺達は近くにある雫ちゃんお勧めのもんじゃ焼きの店にやってきた。

 

「それじゃあ皆お疲れ様―」

「はぁ疲れたー」

「こんなにレッスンが辛いなんて思わなかったです。なんならこれからもっと辛いレッスン内容になるって考えたらレッスンの日だけ体調不良になりたいです」

「むぅ……」


 ルナちゃんは少し不機嫌なのはルナちゃん以外の皆はお酒を手にしているがルナちゃんだけはソフトドリンクを手にしているからだろう。

 一人だけ輪に入れていないと思っているのだろう。

 

「私お酒飲めるのに」

「利香ちゃんはお酒に飲まれる側でしょ」

「利香ちゃんこの前お酒に飲まれて篠宮くんに何したか覚えてる?」

「え……私篠宮さんに何かしちゃったの?」


 あの時の記憶は全くないそうで不安そうな表情で俺の方を見つめてきた。


「あの後利香ちゃん篠くんにお持ち帰りされちゃったんだよね。そのままホテルに直行してたね」

「え!?」 


 それを聞いたルナちゃんは一瞬で顔を赤らめた。


「わ、私篠宮さんと……!?」

「何もしてませんから‼ お持ち帰りもしてないですから!」


 本当に雫ちゃんは放っておいたら何を言い出すか分からない。要注意人物だ。


「でも本当に私達が居ないときに飲んじゃダメだからね? 本当にお持ち帰りされちゃうから。利香ちゃん可愛いんだから」

「むぅ。は~い」

 

 ルナちゃんは少しむっとしながらソフトドリンクを口にして何かボソッと呟いていた。


「別に篠宮さんなら良いのに……」


「利香ちゃんの記念配信の前に一回くらい二期生で何かしたいよね」

「そうだねー、でも何しようか。そうだ篠宮くんファン目線で何かしてほしい事ない?」

「え、二期生でしてほしい事ですか……あ、料理対決とかしてみてほしいかもしれないです」

「おー良いじゃん! 私の腕の見せ所だね」

「篠くんその企画はセンス無いんじゃないかな?」

「料理ができないからってそんな事言わない!」

「でも審査員はどうするの? 篠宮さんだったら私達二期生と関わりすぎて勘の良いリスナーさんなら篠宮さんが二期生になる前にもしかしてってなっちゃうかもしれないよ?」


 確かに普通に考えて俺は二期生の皆と関りが多すぎる。

 それだけじゃない、俺は二期生の皆以外のVTuberとコラボは一回もしたことがない。そんな状況なら怪しまれたりしてもおかしくないな。


「確かにそうだね。うーん、じゃあ後輩ちゃんに審査員してもらう?」

「料理対決で後輩ちゃんならやっぱり歩夢ちゃんかな」


 アリスちゃんが言った夢乃歩夢ゆめの あゆむちゃんは二期生の一つ下の三期生でピンク色の髪でツーサイドアップで声が可愛らしく料理が得意なVTuberだ。

 歩夢ちゃんは月に一、二回料理配信をしているのだが、毎回手際が良くどれも凄く美味しそうだ。


「じゃあ私歩夢ちゃんに聞いてみるね」

「ありがとう利香ちゃん。あ、良い事思いついた!」

「良い事ってなんですか?」

「料理対決で勝った人の商品だよ」

「商品も用意するんですか? どんな商品なんですか?」

「まぁ私は用意しないけど……商品は篠宮くんの手料理なんて良いんじゃないかな。一応篠宮くんも二期生なんだから二期生一人だけ料理しないのは良くないな~って」

「いやいやいや! 俺料理そんな得意じゃないですよ!」


 料理ができないってわけでは無いが人に振舞えるほどの技術は無い。それも優勝賞品なんて到底言える程じゃない。

 そんな事を思っていると雫ちゃんが俺の方を見てゆっくり頷いた。


「篠くん、一緒に頑張ろうね」

「……はい」


 今日から料理の勉強だな……。

 せめて雫ちゃんよりかは美味しい料理を……。

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