第20話【この先生怖い……】

 休憩時間に呼び出された俺達は雫ちゃんの前で正座をしている。

 ルナちゃんは雫ちゃんの隣でちょこんと座っている。


「二人とも、あの質問は一体何なのかなぁ?」


 雫ちゃんは足と腕を組みながら俺とアリスちゃんに笑みを浮かべながらそう言った。


「えーっとそれは……いや、逆に挙手していない俺達を指名したのが悪いかと……」

「それは君たちが勝手に居たからだよ? なんでこっちに来てるのかな?」

「それは東山さんが……」

「いやいや私はただどんな事を学ぶのか気になって」


 東山さんは慌てて両手を左右に振り俺の脇腹を肘で突いてきた。

 余計な事を言うなという圧がひしひしと伝わってくる。


「とりあえず二人とも何か言う事があるんじゃないかな?」

「「すみません」」

「二人ともお詫びにお寿司連れてってもらうからね」

「「分かりました」」


 そんな雫ちゃんの言いなりになっている俺達が面白いのかクスクスと笑っている。


「本当にさ、別に一言言ってくれれば全然来ても良いのになんで黙って来るのよ」

「そっちの方が驚いてもらえると思って……」

「そういうのは配信でしなさい!」

「配信ではしていいんだ……」

「篠くんは静かに。もう……そろそろ二部が始まるから居ても良いけど目立たないようにね。身バレなんて絶対しちゃいけないんだから」


 ついさっき俺とアリスちゃんを一番目立たせる行動をしたあなたが何を言っているんですかなんて言えるわけがなかった。言ったら今度はどんな事をされるか分かったもんじゃない。


 再び会場に戻ると直ぐに二部が始まった。

 二部では雫ちゃんがVTuberを始めたきっかけだったり事務所に入ってどんな事をするのかなどの実体験を話していた。


 俺もこれからブイラブの事務所に所属することになるからどんな事をするのか、どんな事に気を付けたら良いのかの話は正直為になった。


 最後に雫ちゃんが参加してくれた生徒全員に直筆サイン色紙をプレゼントするサプライズをして講演は終了した。


 講演が終わると俺達はブイラブ事務所に集まった。

 どうやらこれからダンスレッスンがあるらしく、俺も参加するらしい。

 そんな事聞いてなかったので今すぐに逃げ出したかったが雫ちゃんとアリスちゃんが俺の両腕をがっちりと掴んで逃げることはできなかった。


 レッスンスタジオに入ると目の間一面が鏡になっていた。


「あのー、本当に俺もダンスレッスンしないといけないんですか?」

「しないとダメに決まってるでしょー。利香ちゃんの記念配信は篠宮くんは一曲だけだけどこれから先自分の記念ライブだってするんだから今からレッスンしておいて損はないんだから」

「……はい」


 そうか、これから先俺が主役となってライブをする時は何曲も歌って踊らないといけないのか。


「じゃあまずは二人一組でストレッチをしてね」


 そう手を叩いて指示を出したのはありえないくらいスタイルの良い女性だ。

 

「じゃあ私と由香。利香ちゃんと篠宮くんでペアになろっか」

「うん、分かった。じゃあ篠宮さん、ここに足を伸ばして座ってね」


 言われた通りに座ると、ルナちゃんの柔らかい手が俺の背中に触れた。


「じゃあゆっくり押すね」

「……うっ…………いっ、痛ったた」

「え……篠宮さん。これが限界ですか?」

「はい、限界です」

「えー篠くん身体固すぎない?」

 

 身体が固い俺は指の先端が足のつま先に付くことなく固まった。

 

「ま、まぁこれからゆっくり身体をほぐしていけば大丈夫ですよ。じゃあ次は私の背中押してください」

「分かりました」


 俺はルナちゃんの後ろに回り、背中に手を付けて押すと――


「え、凄い柔らかい!」


 ルナちゃんの手は一瞬で足の先に付いた。


「篠宮さんも直ぐこれくらいできますよ」


 そう言って笑うルナちゃんに無理なんて言葉が出るはず無かった。


「よし! それじゃあ早速踊って行こうか。今日は篠宮くんも居るから最後の曲の練習をしていこうか。とりあえず最初の方が篠宮くんは見学しておいてね。本番も最初は篠宮くんは歌わないから」


 とりあえず部屋の右端に座り、三人の踊りを見る事になった。

 

 三人が揃って立つと真剣な表情に変わり、先生が音源を流し手拍子をすると三人の息はしっかりと揃って既に練習は必要ないんじゃないかと言うレベルだった。

 この中に混じって自分の踊ると考えると緊張と不安でいっぱいになる。


「心配しなくても篠宮くんが出るのは最後のラスサビだけだから大丈夫」


 先生はそう言って俺の肩に手を置いた。


「が、頑張ります……」

「まぁだからと言って手を抜くつもりは無いからね。明日は筋肉痛になってないと良いわね」

「…………あのちょっとお腹が痛いので今日は帰っても…………」


 すると俺の肩に置く手の力が物凄く強くなった。


「あ、なんかお腹の調子良くなったので大丈夫です……」

「そう、なら良かったわ。頑張りましょうね」


 そう言って笑顔を見せる先生。


 この先生……怖い……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る