第11話 頑張ろ

「師匠!読み書き大体覚えました!」

「いや、流石に早すぎでしょ」


 この三日間、色々とあったがまずは読み書きを覚えた。

 やはり読み書きできると便利で街中を歩くだけでも看板に書いてある文字が読めるからそれがどの店なのかすぐに分かる。

 文字の横にある絵で今までも分かっていたが分かりにくい絵もあったから助かっている。


「普通は数か月かけてゆっくり覚えていくものだよ?」

「でもお兄ちゃんは一日で覚えたんですよね?それに比べたら遅いですよ」

「この規格外兄妹め……」


 私が凄いのではない。お兄ちゃんが凄いのだ。私はお兄ちゃんのおこぼれを貰っているにすぎない。


「魔力操作も大分上手くなってるしもう教えることが無いんだけど」

「いやいや、魔法の発動までに時間掛かりますし新しい魔法なんて一度も成功してませんよ!」

「三日で新たに魔法スキルを取得出来たら魔法使い涙目だよ……」


 どうやら師匠が言うには《転職》スキルを使わなくても下級職から上級職になれることがあるらしい。

 例えば二種類以上の魔法スキルを魔法使いが取得すると魔導士になるとか。実例が数えられるほどしかないらしいけれど。

 

「とにかくもう教えることがないんだよね。どうする?セシリアの訓練に集中する?」

「そうですね。午後からは団長の訓練に行くことにします」


 と言うことで午後からは団長の方に向かったのだが……。


「私と勝負しなさい!団長のお気に入りだからって訓練をサボっていいわけがないから!」

「え、と……誰?」


 いきなり戦いを挑まれた。恐らくは私と同じ兵士の一人だと思う。

 立派な剣を私に向けて私を威嚇してきた。


「待て、剣を収めろ」


 この騒ぎに団長が駆けつけて私を威嚇してきた女の子が剣を収める。

 団長命令には逆らえず女の子は不服そうに剣を下ろした。


「マヤ、こっちに来てくれ」

「あ、はい」


 訓練所の隅まで連れていかれた私はどういう状況なのかを団長に話された。

 どうやらここ数日、訓練に来ていなかったのをサボりと思われていたらしい。それに団長は私にだけ特別メニューの訓練だったようでそれも反感をかったらしい。


「確かに私が悪いような気がしてきました。でも私だけ訓練内容違うなんて知りませんでした」


 確かに団長との組み手とか多かった気がするな。


「マヤは《身体強化》を使っていただろ?それ専用の訓練内容だ。常時使用しているのには驚いたがな」

「やっぱりバレてました?」

「ああ、あれだけの魔力を纏っていたらな。ここの兵士でも実力のある者は気づいているだろうな。訓練にいないのは《身体強化》の反動だろうと思っているのだろうな」


 なるほど……ん?もしかして《身体強化》のせいで余計に辛い訓練になってた?

 そう思って団長を見るとニッコリと微笑みを浮かべてきた。《身体強化》を使って訓練を楽しているつもりが逆効果とは……。


「特に先程マヤに喧嘩を売っていたフレインは特に私に慕ってくれていてな……マヤの待遇に我慢出来なかったのだろう。私の説明不足でマヤに迷惑をかけるが戦ってやってくれ」

「ここ数日、勉強ばっかりで身体を動かしていなかったので全然良いですよ。訓練の成果を見せますね!」


 戦闘での魔力操作の練習にもなるしちょうど良いかもね。

 というわけで団長との話も終わり、フレインという女の子の元まで戻ってきた。


「決闘を許可する!存分に戦え」

「ありがとうございます!団長!」


 ジッと私に睨め付けながら剣を構えてきた。あちらの準備は良いようだ。

 私も剣を構えてフレインと向かい合う。


「安物の剣で私は充分って?バカにしないで!」

「安物の剣……?ああ、なるほど」


 私は二本の剣を装備している。メモリアから借りた長剣とお兄ちゃんからの贈り物である聖剣。

 聖剣は相変わらず使えないから装備だけしてるけれどかなりの重量があるから装備しているだけでも鍛えられる。


「この剣は飾りだから気にしないで良いよ」

「それで負けても文句は無しだから!」


 なんとか納得してくれたようだ。

 聖剣は……このまま装備したままでいいか。これも訓練になるだろう。


「両者準備は良いか?それでは……開始」


 開始とともにフレインが正面から突撃してくる。

 様子見で避けるか受けるか。いや、あれをやろう。


「訓練をサボっている奴なんかに負けないから」

「サボってはないんだけど……ごめんね」


 振り下ろされた剣を受け流して軌道を逸らす。

 受け流されるとは思わなかったのかそのまま体制を崩して剣が横切る。

 カウンターは……なさそうだな。

 フレインから次の攻撃がなさそうだったので回し蹴りをして剣を持っている手首を狙う。


「嘘っ!?」


 回し蹴りが見事に当たり、フレインの剣をたたき飛ばした。

 そして私は剣をフレインの首に向けて身動きを取れなくする。


「そこまで!勝者マヤ」

「ありがとうございました」

「くっ……ありがとうござい、ました」


 完璧な勝敗に何も文句は言えず悔しそうに涙目でこちらを見てくる。


「まあ、だろうな」

常時身体強化してる化け物だぜ」

「さっきの動き……団長にそっくり」

「俺も戦いてぇ」


 観戦していた他の兵士がざわざわと騒いでいる。


「マヤ、見事だ。フレインも良い動きをしていた」

「でも負けました……」

「ふむ、そうだな。あの動きに対応する立ち回りを教えてやる」

「団長直々になんて良いんですか!」


 団長が気を利かせてくれてフレインは元気になってくれた。今にも泣き崩れそうだったから助かったよ。


「次は俺と戦わないか?」

「え、まあ、団長が許可してくれるなら」


 一人の兵士が近づいてきて戦いを挑んできた。私としても呆気なく終わって動き足りないから戦いたい。


「良いぞ。今日は各自組み手を訓練とする」


 団長が許可をしてくれたので戦うことにした。


「よっしゃ!では早速……行くぞ」

「はい!いつでも!」


 その後も数人との組み手をして今日は終わりを迎えた。

 負けたり勝ったりと今後の課題にもなって有意義な戦いだった。


「まずは体力だよね……」


 そこまで激しい動きをしていないはずなのに敵の動きを学習するのでかなりの体力を使ってしまう。

 短期決戦だと敵の行動予測が難しい。そうなると敵の攻撃を無理に受け止めたり避けることになって体勢が崩れる。あとは負け試合だ。


「《身体強化》のおかげで立ち回れてるけどこれに頼り切りもダメだよね」


 それに強い人は一瞬だけ《身体強化》を使っていた。緩急のある攻撃に目がついていけず予測出来なかった事もある。


「《身体強化》もむやみやたらに使ったらいい訳じゃない。要所要所で使う方が良い事もある」


 私は魔力が多めらしいからずっと使っていたけれど魔力が多くない人は工夫して使っている。練度が全然違った。


「頑張ろ」


今日戦って得た知識を思い出しながら私は目を瞑った。

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