第10話 耐えきれなかった

「問題児たちをまとめている聖騎士団長のダイン・レコートだ。よろしく頼む」

「マヤです」


 聖騎士団長であるダインさんが内密の話があるらしく武器庫のような部屋に連れていかれた。


「実はウィルからお前さんに伝言とプレゼントがあるんだ」

「お兄ちゃんが私に?」

「ああ、実は――」


 ◆◇◆


「なんだ話って?」

「僕に妹がいるって話はしたよな?僕が魔界に行った後、もしかしたらこの騎士団に入ってくるかもしれない」

「ウィルを追いかけてか?ここは言ったら悪いが優秀な聖騎士しか入れない騎士団だぞ。その妹は聖騎士なのか?」

「マヤなら聖騎士ではなくとも僕を追いかけてここまで来るさ。もしマヤが来たらこれを渡しといてくれよ、僕からの餞別だってね」


 ◆◇◆


「まさか本当に来るとは思ってもみなかったぞ。それも大神官の弟子で現れるとはな……」


 ダインさんはそう言ってとても綺麗な剣を取り出した。

 その剣は見るだけでもかなりの威圧感を放っている。


「それがお兄ちゃんからのプレゼント?」

「聖騎士系統のクラスでかつ選ばれた者にしか扱えない特別な武器……聖剣だ。ウィルが”マヤなら使いこなせる”と」


 手に持つとずっしりとした重量がある。

 近くでみて分かったけれど威圧感の正体はこの剣自体にかなりの魔力が込められている。さすが聖剣だ。


「抜いてみていいですか?」

「出来るものならな」


 どういう意味だろう?鞘から剣を取り出すなんて誰でも出来るだろうに。

 そう思っていたのだが抜こうとした瞬間にバチッと痛みが生じて弾かれてしまう。


「痛っ……」

「やはりな」


 剣を握ろうとした手のひらは火傷で爛れてしまっていた。


「聖剣に拒否されるとこうなる《ヒール》」


 ダインさんが回復魔法で火傷を直してくれた。

 なるほど、これが選ばれし者しか使えない理由か。


「今は使えないがそのうち使えるようになるかもしれないからそんなに落ち込むなよ」

「はい、この聖剣に認められるように頑張ります」


 落ち込んでいた私を慰めてくれた。

 お兄ちゃんの期待に応えられるように頑張る!


「話は聞かせてもらったわ!ウィルの聖剣はアタシが貰うから!」


 ガシャンと扉を開けて部屋に入ってきたのは私と同い年くらいの若い女の人。

 いきなり私の聖剣を取ろうとしてきたのをダインさんが止めてくれた。


「誰!」

「すまん、団員の一人で一番の新人……と言っても入団したのは4年前だが……」

「セレナ・ルーゼントよ!」


 このセレナという人は入団してすぐの頃、お兄ちゃんが手取り足取り魔法やら剣を教えていたらしい。

 私でも見せてもらっただけで教えてもらった事はないのに羨ましい!


「聖騎士でもないのに聖剣を使えるわけがないわ!」

「これは”妹”である私が貰ったプレゼントだし!どう使おうが人の勝手でしょ!」

「くっ!剣は使ってあげないと可哀想よ!アタシが使ってあげる」

「そう言って貴方はこの聖剣使えるの?選ばれた者じゃないと使えないし!」

「アタシのようなエリート聖騎士が使えないわけないわ!貸しなさい」

「あ、ちょっ」


 素早い動きでセレナが聖剣に触れる。


「熱っ!」


 しかし聖剣はセレナを拒んだ。

 私とは違い、鞘を触れただけで。


「…………」

「…………」


 二人の間に沈黙が続く。


「…………き、休憩時間が終わりそうね。訓練場に戻らなきゃ!」


 そそくさと部屋から出て行ってしまった。


「……私の勝ち!」










 お兄ちゃんに貰った聖剣は腰に装備する事にした。

 長剣を二つ装備する変な人になってしまったがそこは気にしないようにするとして今日は遅いし帰ろうか。


「皆さん、色々とありがとうございました!」

「またいつでも来てくれ」

「今度は一緒に訓練しましょ!」

「またな〜!」


 別れの挨拶も程々に宿へ帰った。

 聖剣が重いからそれだけでも訓練になりそうだ。


「お兄ちゃん……」


 宿に帰った後、ご飯を食べて身体を布で綺麗にしてからベッドに寝転ぶ。

 聖剣を眺めながらお兄ちゃんを思い浮かべているとすぐに眠りについた。

 そして数日が経った。


「今日は僕の訓練だね」

「はい、よろしくお願いします。師匠」


 三日間の走り込みと剣の訓練を終えた後は師匠の魔法訓練だ。

 しかし魔力操作は慣れと言っていたがどう訓練するのだろう?


「とりあえずこの紙を見てよ」

「うわ、凄く良い質の紙ですね……」


 師匠から肌触りの良い紙を渡される。

 その紙には何か文字が書いてあった。しかし私は文字が読めない。


「何が書いてあるんですか?文字なんて読めません」

「……礼儀作法がしっかりしてて忘れがちだけどマヤは平民だった」

「最低限の礼儀作法は身につけないと貴族様に殺されると村長が教えてくれました!」

「文字は後で教えるとしてその紙に書いてある事は口頭で言うね。それはマヤを鑑定した結果を書いたものなんだ」


 おお、鑑定。高いお金を払わないといけないはずなのになんだか申し訳なくなる。

 そんな顔をしているのがバレたのか師匠は「弟子なんだから気にしない」と言ってきた。


「早速、鑑定結果を言うね」


 マヤ 剣士

 《剣術》《器用貧乏》《瞬間記憶》《光魔法》《無魔法》


 というのが私の鑑定結果だ。

 12歳の頃に教会で教えてもらった時と比べてかなりスキルが増えていた。


「《剣術》とか魔法スキルは理解できるんですけどこの《器用貧乏》と《瞬間記憶》ってなんですか?」

「えっとね……」


《器用貧乏》はある程度なら何でもすぐに出来るけれど成熟しない。

《瞬間記憶》は物事を見たり聞いたりするだけで完璧に覚えることが出来る。とのこと。


「最初見たときは驚いたよ。《瞬間記憶》はウィルが持っている……恐らくユニークスキルの一つだし」

「お兄ちゃんと同じなの?」


 ユニークスキルとは誰も持っていない、自分だけのスキルらしい。

 《器用貧乏》が本来の私が持っていたユニークスキルでこのスキルでお兄ちゃんの《瞬間記憶》を手に入れたと。


「《瞬間記憶》は使うと凄い疲れるとウィルが言っていたしマヤの体力不足にはそれも原因になるんじゃない?走り込みは他の兵士よりも劣ってなさそうだったし」

「う~ん……」


 走り込みは《身体強化》で誤魔化していたしなぁ。

 単純に私の体力不足の可能性の方が高い気がする。


「まあ、こういうスキルを持っていると自覚した方が訓練が捗ると思うし覚えといてね。ってもう覚えたよね」

「はい、ある程度は」


 物覚えが良いとは自分でも思っていたそんなところでもお兄ちゃんに助けられていたとは……ありがとう、お兄ちゃん。


「じゃあ鑑定も終わったことだし魔法の訓練をしようか」

「お願いします」

「まずは……魔力量を図りたいから魔力が切れるまで魔法を使ってくれる?」


 魔力量……今まで魔法を使ってきて魔力が切れたことが無いんだけどどれくらいあるんだろうか。走り込みで毎日長時間使っていたのに切れたことはない。


「自分の魔力量が分かった方が戦闘で有利だからね」

「一番消費が激しい《身体強化》を全力で使ってみます」


 いつもは魔力を薄く纏っていた。それをすこし厚めにしてみる。


「ん?そんなに魔力を込めて《身体強化》をしたら身体が持たないよ。もっと薄めでいい」

「あ、はい」


 厚く纏ったらその分強くなれるが反動で使用後に酷い筋肉痛や最悪、骨折などもあるらしい。知らなかった。


「そもそも厚めに込めたら普通数秒しか魔力が持たないと思うんだけれど……マヤは平気そうだね」

「どれくらい魔力を使ったか分かりませんが今のところは余裕です」


 剣に魔力を纏わせた時はもっと厚めだった。

 しばらく魔法を使っていたが魔力が切れる事はなかった――――


 バキッ


「あ、また折れた」


 《身体強化》を使いながら左手で《ライト》、右手では師匠から渡された剣に全力で魔力を込める。

 当然ただの剣では耐えられず折れたり、粉々に朽ちたりするが師匠が次々と持ってくるので気にしないことにした。


「よし、魔法をやめていいよ」


 師匠がそういうので全ての魔法を解除する。

 ここまで使ったことはなかったから凄く疲れた。なんだか身体が怠いし重い。


「なにか体調の変化はある?」

「怠いですね。あと若干、吐き気が」

「ふむふむ、魔力低下での怠さと使いすぎによる魔力酔いかな。ごめんね、こんなに使わせっちゃって。とにかくこの感じだとマヤの魔力量は僕と同等かそれ以上だね。ウィルよりは確実に多い」

「師匠と同じ……」


 お兄ちゃんよりも多いなんて驚きだ。


「魔力量は十分だし明日からは色々と魔法を覚えていこっか」

「はい!……うっ」


 大きな声を出したら吐き気が酷くなった。急な眩暈もしてとっさに師匠にもたれかかる。


「ちょっ!このままはやめてよ!?」

「もう無理です。我慢できません……」


 この前は耐えられたけれど今回は耐えられそうにない……魔力酔い、強敵だ。ごめんなさい師匠。


「うぷっ……おえ」

「ああ、終わった」


 私は盛大に師匠にぶちまけた。

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